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第1章 王子は私を追いかける

逃げたいです

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 ご機嫌よう、ジゼル=ウェリス、12歳です。お茶会に行きたくなさ過ぎて逃げていましたが捕まってしまい、只今王城に向かう馬車の中にいます。



「父様、行かなくてはダメですか?」

「行かなくても良かったんだけどね、アイツが連れてこないと煩くてね。すまない」



「アイツ」とは王様の事でしょう。父様と王様は幼馴染で仲良しです。偶に、いえ、常に毒を吐いている父様が、いずれ不敬罪で捕まるんじゃないかとひそかにハラハラしています。「いいか、リズ」と真面目なトーンで言う父様に自然と背筋が伸びました。あ、リズは私の愛称です。



「いいか、リズ。王子殿下から逃げなさい。ご挨拶したら逃げるんだ。淑やかに、空気を消して父様のところに来れたらお茶会は終わりだよ」

「はい!」



 その案に私の頬はだらしなく緩みました。二人でニヤニヤしているのをイリーナがジト目で見ていますが気にしません。

 カラカラという規則正しい音がどんどん緩やかになりピタリと止まりました。父様のエスコートを受けながら王城の門を潜ります。

 何故か衛兵さんが豆鉄砲を食らったような顔をしています。私が何かおかしいのでしょうか?しかも父様と目が合うと急に青くなりました。父様怖いのでしょうか?父様は王城で筆頭魔術師として働いています。何だか衛兵さんがかわいそうになりました。そして親近感が湧きました。……なんででしょう。

 綺麗な回廊を通って会場の王城の庭園にやってきました。様々な薔薇のアーチが置かれていたり、大きな噴水がいくつもあったりと、豪華です。私達が会場入りした時は既に何人ものご令嬢がいました。伯爵家の子が3人、侯爵家の子が私含めて2人です。それとまだいらしていませんが、公爵家のご令嬢が1人だと父様が言いました。



「あら、貴方はジルフォード殿下に相応しくなくってよ」

「なんですって?!」



 伯爵家のご令嬢と侯爵家のご令嬢の喧嘩勃発。修羅場です。
 お気づきの方は、そうです。このお茶会はただのお茶会ではないのです。この国の王子、ジルフォード=ヴィア=フランデル殿下の妃選びの場でもあるのです。

 私は王族に嫁ぐなんてまっぴらごめんですから、本当は行きたくなかったのですが……。

 私は喧嘩をしている二人が怖いので庭園の端っこに避けて花を愛でることにしました。すると公爵家のご令嬢が会場入りしてきました。私と父様は挨拶に向かいます。



「御機嫌ようグラシエ公」

「……やめてくれないか、レイモンド。調子が狂う」

「ははは。言うと思ったよ、ロラン」



 父様とグラシエ公爵も仲が良いようです。



「そうだ、うちの娘とは会ったことがなかったよな。来なさいフリージア」

「そうだな。おいでジゼル」



 フリージア様は私と同い年のご令嬢ですが、佇まいが洗練されており華があります。はっ、見惚れている場合ではありません。身分の低い者から挨拶をするのがしきたりです。私はドレスの裾を摘まんでお辞儀をしました。



「レイモンド=ウェリス侯爵が娘、ジゼル=ウェリスでございます」



 にっこりと笑顔を作るのがポイントだとマナーの先生にも言われたので微笑みました。先生にも絶賛されたので、一応失礼ではないと思うのですが……。

 公爵様もご令嬢も父様もみんなピシリと固まりました。え、私何か間違えましたか?どうしましょう、と父様を見上げると、はっとした父様は困ったように笑って私の頭を撫でました。



「……なるほどな。レイモンドが隠してきた理由はこれか。破壊力がすごいな」

「私も久しぶりに見て驚いたところだ」



 破壊力?意味がちょっとよく分からな……まあいいでしょう。
 目の前のご令嬢に目を向けると、扇子をギチギチと握りしめ眉間に皺を寄せていました。怖い……。



「……ロレンツィオ=グラシエ公爵が娘、フリージア=グラシエよ。ジルフォード殿下の妃は絶対わたくしよ。譲りませんわ」

「ふふふ……」



 KO WA I YO !

 この場で「殿下の妃になろうとは微塵も思っていませんからご安心ください。直ぐに帰りますし」とは言えないので無難に笑っておきました。チキンな私、頑張れ!

 丁度その時、国王様と王妃様がいらっしゃいました。皆礼をして出迎えます。



「面をあげよ。この度の茶会に集まってもらったこと感謝する。存分に楽しんでくれ。紹介しよう、来なさい」



 姿を現したのは、おとぎ話から出てきたような金髪碧眼の男の子でした。ここにいるご令嬢は皆まだ社交界デビューをしていないので、初めて見る王子様に頬を染めています。私は至って普通ですが。かっこいいなとは思いますけれど、どうしても王族という文字がチラつくのです。

 にっこりと甘いマスクで微笑んだ王子殿下は、果たして同い年なんだろうかと疑うレベルのキラキラ加減でした。思わず眉間に皺を寄せてしまいましたが、いけない、と直ぐに戻します。



「ジルフォード=ヴィア=フランデルです。よろしくお願いしますね」



 1、2人とその美しさに中てられて気絶しました。皆心が乙女ですね。私の中身はおっさんのようです。(イリーナにそう言われました)

 さて、挨拶したら帰れるから頑張りますか!

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