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第2章 私は学園で恋をする
魔性の笑みは恐ろしいです
しおりを挟む新キャラ登場です!
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殿下の元から去った後、私はフリージア様の部屋を訪ねました。部屋には通して貰えましたが、本人は背中をこちらに向けていますし、丁度逆光で表情はまるで分かりません。
「本日はありがとうございました」
それに「別に何もしていなくってよ」と、感情の読めない返事が返ってきました。ですが、その凛とした背中は、母親のような安心感があり、安定感がありました。やはりフリージア様は国母となるべき人で、敬愛すべき方です。頬を上気させながら、私は静々とその場を退出しました。
そのせいでしょう。
他のことに気を取られながら歩いていて、注意が散漫になっていました。目の前に迫る魔法に気が付かなかったのです。
「危ないっ!!!!」
焦った声が耳の奥を突いたと思えば、誰かに身体を抱き込まれ共に投げ倒れます。ざざざっと芝生が擦れる音がしました。私は今の一瞬の出来事に、混乱と驚きとで状況を上手く理解できません。咄嗟に周りを見渡して……。
「きゃぁぁぁあああ!もっ、申し訳ありませんっ!」
私を衝撃から庇ってくれた男性の胸の上に両手を置き、そのまま身体ごと仰向けの彼にくっつけるようにして上からもたれかかっていました。一応これでも立派な貴族令嬢なので、家族以外の男性とこんなにも接触したことはありません。羞恥で顔を沸騰させながら慌てて離れます。
しかし、痛そうに顔を歪めていた男性はむくっと起き上がり、服に付いた芝生をそのままに私に駆け寄ってきました。
ひぃぃいいい!今は近づかないで!恥ずかしすぎる!!
「大丈夫ですか!?怪我は?!」
綺麗な藍色の瞳を心配そうに揺らし、俯く私の顔を覗き込んで様子を窺う男性。彼の後ろで三つ編みにされている青み掛かった銀髪が、先程の衝撃で乱れ、色気だだ漏れ聖人になっています。
ん………?
陽炎のように儚く消えてしまいそうな程華奢で、ミステリアスな雰囲気を持つこの方って……………もしかして………いや、もしかしなくとも―――――。
(く、クリストファー様っ?!?!)
クリストファー=レヴィロ様。年齢は私の1つ上。
若くして現在のレヴィロ公爵で、今は亡きクリストファー様のお父上は、現国王陛下の兄、つまり、ジルフォード殿下の従兄弟という訳です。
大変です。私如きを庇ったが為に、クリストファー様に怪我をさせてしまったかも知れません。先程まで赤く火照っていた顔は急激に青白くなっていきます。
「お怪我はありませんか?どこか痛めたところ等は?わたくしは何ともありません。庇って下さりありがとうございます」
必死に言葉を投げかける私を見て、きょとんと目を丸くしたクリストファー様は、軈て可笑しそうにくすくすと口元に手を当てながら笑いました。後ろで蝶が舞ってるのが幻覚で見えました。末期です。
私よりも幾分も背の高いクリストファー様は腰を屈めて私と目線の高さを合わせると、精霊が舞い降りたかのような妖美な笑みを浮かべました。
「大丈夫。心配しないで?僕は平気だから。……君は……」
「お初にお目にかかります。レイモンド=ウェリス侯爵が娘、ジゼル=ウェリスでございます」
とくんとくんと心臓が跳ね、いつになく緊張しながらカーテシーをしました。
「初めまして、ジゼル嬢。僕はクリストファー=レヴィロです。会えて嬉しいよ。噂に違わず美しいね。妖精が現れたのかと錯覚してしまいました」
さも当然な事を口にするように、失神ものの口説き文句を零すクリストファー様。枯れ子の私でもクラっと来そうになりました。
お、恐るべし色気!このまま居たら危険だと瞬間的に察知した私は、それとなく逃げることにします。
「わたくし、用事がありまして、その、後日またお詫びをさせて下さいませ、その、失礼します!」
早口気味の私に、同じようにきょとんとした後、クリストファー様は「またね」と手をふってくれました。
クリストファー様が完全に見えなくなった所で、胸一杯に溜め込んでいた息をほうっと吐き出しました。頭がふわふわと温かく、脈は波打つようにトクトクと速いです。きっとこれは今早歩きだったせいだと思います。
自室に帰っても、クリストファー様との出来事を思い出す度に頬を染める私を、ドロシーは首を捻って見ていました。魔性の笑みを持つクリストファー様に微笑まれたら誰だって照れるわよ。
………絶対に、誰にも、言わないけれど。
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