Childhood friend lover 【著 CHIYONE】

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Childhood friend love9

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 古い扇風機の稼働音に透き通ったお鈴の音が部屋に響く。

「じーちゃんと姉ちゃんが助けてくれたんだろ? ありがとう」

 静かに言ってハイジは手を合わせた。
 目を瞑る横でオレも線香とお鈴鳴らして目を伏せる。
 声には出さなかったけど、オレはありがとうではなく、ごめんなさいと心の中で呟いていた。
 顔を上げて、目が合ってここは謝るチャンスなんじゃねえかって思ったらハイジが困ったように笑った、そして抑揚のない声で始めた。



「交通事故だったんだって」





「うん?」
「母さんがインフルエンザかかちゃって寝込んでて、そしたら赤ちゃんだった姉ちゃんまで熱出して、病院行かなきゃって、でも父さん仕事でさ。ばーちゃんが今より若い頃だっだから私に任せてって鞄にミルクとタオルとオムツとおもちゃ入れて保険証持って、じーちゃんが抱っこした。近くに内科はあるけど、小児科ちょっと距離あるだろ? 母さんに順路聞いて予約して準備万端、クララちゃんは私達に任せて母さんは寝ててくれって家を出た」
「ああ」
「でも帰って来たのはばーちゃんだけだった。「タバコに火を点けてて前を見てなかった、気付いた時には轢いていた」これが運転手の供述、それがじーちゃんと姉ちゃんが死んだ理由」
「そうか」
「今から20年も前の話、当時年間の交通事故数は80万3885件、死者数は9211人だから姉ちゃんとじーちゃんはその中の二人だ」
「…………」
「ごめん数字出したからなんだよって話だよな」
 ハイジは自嘲して下を向いて、ばーちゃんって一言漏らした、膝に置かれた拳が小刻みに揺れて、何て声掛けたらいいのか分からなくて、そしたらその震える手の甲にポタっと俯く顔から涙が落ちた。
 ハイジの表情は見えないけど、オレはいつの間にかその手を握っていた。
「ごめん翔、こんなの卑怯だって分かってるんだけど、ばーちゃんに免じてさ今日は許してくれないか。もう翔と話が出来ないなんてボク考えらんないから」
「わかってるよ、オレの方こそ……。ばーちゃん意識戻ったら二人でお見舞い行こうな」
 始めから怒っていた訳じゃないんだ、ただの八つ当たりで悪いのはオレの方、ごめんなさいもオレの方なんだけど、今更理由が逆恨みなんて言えなくて……。
 ハイジは涙を拭いて顔を上げた。
「ありがとう」
 笑って、手の甲を返してオレの手を握り込んできて、自分からケンカ仕掛けた癖に仲直り出来てホッとしてオレは今から泣きそうで、でも泣けないから。
「お前の泣き顔は相変わらず不細工だな」
「ありがとう」
 と、いつもの通り悪態づいて誤魔化した。
 そんで、この手はなんなんだ? オレから手は置いたけどさ、こんな握り方、恋人かよ。
 当たり前だけど、運動やってるハイジの方が指も太くて皮膚も硬い男らしい手だった。
「ハイジ手」
「昔はよく手握って帰ったなって懐かしくなって握ってみた。休みの日も一緒に出掛ける事が多かったし、そーゆー時大体手繋いでたろボク達」
「そうだったかな」
「そうだろ、翔が引っ越してきた日の夜もお前が一人で寝るの恐いって言うから手繋いで寝たじゃん」
「あ? はあ?! そ、そうだったかな?!! っつかもう離せハゲ! お前力強いからいてーんだよ!」
 今頃なんっちゅーカミングアウトをしてくれてんだよ! が、さすがサッカー部キャプテンとパソコン部書記の力は雲泥の差で手引っ込めてーのに離れない! そしたら、ハイジが。

「だから、オレはハイジなんだよ」

「ん?」
「立てなかったクララの分、ボクはハイジだから草原駆け回ってさ、明るく元気よく皆の人気者になりますようにって」
「ああ…………悪いな隣に越してきた男がペーターじゃなくよ」
「何言ってんだよ」
 ハイジはオレ手を両手で握って、何かわかんねえ、はにかんだ? 見た事ねえぞ、恥ずかしいみたいな顔して言った。
「お前は翔るだろ? 立ち上がったり歩いたり、ヤギ世話するなんかじゃない、そんなの通り越して空飛んでる奴が来たってボクは嬉しかったよ」
「そっか…………飛翔」
 と、自然と単語が零れた。
「そう、飛翔の翔る」
 始めて会ったあの日の会話を思い出して、あの日もお前は嬉しそうに手握ってたなって小さなハイジが今のハイジとダブる。
 ハイジはあの時から何も変わってなくて胸が痛くなってしまった、だってそうだろ? こいつには微塵も悪いところがない。
 成長して、卑屈になって歪んでったのはオレだけなんだ。
 わかってたハイジはオレを陥れようとして一緒にいた訳じゃない、口だけで理想ばっかのオレが勝手にハイジに嫉妬してただけだ。
 何でもできて、自分に自信があって、人生楽しそうなハイジが羨ましかっただけだ。

「名前負けだよ、オレが空飛んだりしてるとこ見た事あるか? ないだろ? オレはずっと地べた這いつくばって日陰暮らしじゃん。お前のが雲の上の存在みたいになってるし」

 先輩後輩先生から慕われて、きっとハイジに告られて拒否する女子なんていないだろうよ、オレなんて女子に声すらかけられないけど。
 普段は虚勢ばかりでハイジに弱味なんか見せるものかと思ってたオレは初めて卑下してみた、どんな反応するんだろうと思えば、ハイジは辛そうに眉を寄せた、溜息と一緒に言う。


「ボクだって、好きじゃないよ」


「…………」
「さっきそう言っただろ? 翔が言った通りだよ明るくて優しくて人見知りしなくて勉強もスポーツもできて、人気者で…………そんな自分ボクだって好きじゃないよ。姉ちゃんの分も姉ちゃん分もって頑張らなくちゃいけない。どこに行っても何をしても、クララがいたらって寂しそうな顔されてさ、分かってるよボク達家族は6人で姉ちゃんを忘れる事なんてできないけど、一人二役はボクには力不足なんだ」
「ハイジ」
「ありがとう翔、言いたくても言えなかった大嫌いって言ってくれてありがとう。ボクだって嫌いだ、気持ち悪いよ良い顔ばっかりしてヒーロー気取りで、でも姉ちゃんの分までいい子になんなきゃいけないんだ。ばーちゃんも母さんも父さんも、あの時自分がって責めちゃうから、姉ちゃんの生まれ変わりのボクは人生楽しそうにしてなきゃいけないんだよ。我慢ばっかりだ、これはボクの人生のはずなのに……ボクが頑張ったからのに全然僕を見てくれない」
「もういいよ」
「いい結果も努力も全部姉ちゃんに横取りされちゃうんだ、姉ちゃんが見守ってくれてたからだって」
「もういいってば」
 瞬きもしてないのに、すっとハイジの頬を涙が走って、どうしたらいいのか分からなくて、言葉を止めたくて咄嗟に首に手を回して体を引き寄せた。
 密着したハイジの体は燃えるように熱かった、肌で感じてオレも体温が上がって、それでようやく言えた。
「ごめん、ハイジ。何か言葉にできないけど、色々……ごめんな」
 ハイジが肩口に目を擦り付けてきて、じわっと涙が滲みるのを感じた、オレのワイシャツを掴んで、
「謝んないで? 翔はさ、そんな良い人ぶってたボクが唯一仮面外せる存在だったから」
「……」
「飯食ってて一口くれって言っても嫌な顔しながら結局くれるし、ボクがぼけっとしてても許してくれる、歩けばオレに合わせろて足並み強制してきて、どこで寝てもほっといてくれる、そーゆー小さいとこに癒されてた。ボクの素やわがままを受け入れてくれるのは翔だけだったから」
「オレはすげえイライラしてたけど?」
「あざっす」
「あ? お前のそういう返しマジむかつくから」
「ありがとうムカついてくれて」
 このやろう、何となく口元笑ってんなって思って、体離したら案の定笑ってるからコイツ。
 ごめんとか言った癖にもう睨んでるよオレ、で、この微妙な距離間はなんだ?
 双方服掴んで、見つめ合ってるオレ達ってなんだ? そしたらハイジが、




「翔が好きだよ」



 と澄んだ目で言ってきて、その意味がよく分からなかった。
 で、よくよく考えて小さい頃からハイジはよく「ボク翔が好きー」とか言ってたなって思い出して、頷いた。



「あーあーはいはい分かったから、これ以上は彼女としろよな」
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