Childhood friend lover 【著 CHIYONE】

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Childhood friend lover13

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 冷水で顔を洗ってタオルで拭かずに排水溝に流れていく水を眺めていた。
 睫毛から水滴が落ちて、ポチャンと水が跳ねる音は小窓から聞こえる雨音だ。
 勝手に眉間が寄って溜め息吐いて、乱暴にタオルで顔を拭く、特に顎の所が熱くて無駄に擦った。

 正直に言う、正直に言って怖かったです。

 ハイジとは言い争いから手が出るケンカまで、色々してきたよ、でも大体ケンカの理由ってハイジがバカすぎたり、オレにちょっかい出してくるスタートだから最後はオレがもうお前とは口きかないって泣いて、ハイジがごめんってパターンだった。
 物の取り合いも全部ハイジ発だから、最後に怒られるのはハイジだったし。

 それでそうか、今になって気付いた、オレ、ハイジが怒った顔って見た事なかった、ケンカになって揉み合ってる時に死ね! って言えば死ね! って返ってくるしバカだ、ドジだ、アホだ、クソだと罵り合いもしてたけど、そんな現場見ても周りの人は本当に仲がいいよねって言ってた。
 だってハイジがケンカ中でも楽しそうだから、オレはマジでムカついてたけど。
 だからそうだオレはハイジが怒ってる顔を知らない。

 そしてオレ達の仲良し関係も今日で終止符が打たれたと思う。

 手の平にハイジの太い手首の感触が残ってて気持ち悪かった。








「いつまでそうやって逃げるんだよ」

 鞄と傘で手を塞がれてて、というかこの状況が理解できなくて唖然としてしまった、無抵抗なまま苛立ちを含んだ視線に何も返せずにいたら、
「翔は何がしたいの」
「別に、何がしたいって訳じゃないけど」
「じゃあ何を理由に急に避けだしたの」
「知らねえよ、いい加減この手止めろ」
 傘を鞄に戻して、顎を掴む手を払い退ける、痛かった訳じゃないけど顎擦って、何だよ、何なんだよ、こうなりたくなかったからオレは…………逃げてたのに。
「ほら止めた。ボクを避ける理由は?」
「あ?」
「とぼけるな、明らかにボクを避けてるだろ。部屋暗くして寝たふりしてさ、何? 何があったの」
「たまたまだろ」
「そんな答えでボクが納得すると思うか」
 顔を背けてるから、ハイジの表情はわからない、そうこの場でもオレは逃げてる、でもハイジの声のトーンはいつものふざけた口調でもなく、初めて聞いた低い声だった。
 次の電車を降りた人が流れてきて、明らかにオレ達は通行の邪魔をしていた。しかもケンカしてるような空気出てると思うし、またどこで誰が見てるか分からないじゃないか。
 早くこの場を立ち去らないと、逃げないとってまた頭に浮かんで、でも高校生の時の話を今出したって……自分でも何を言えばいいのか分からなくて、そんな焦ってる間にハイジが、翔? って聞いてくる。
 だから、ここは真っ直ぐ聞くしかないと一番気になる所を突いた。
「あのさ……じゃあさ」
「うん」
「ハイジって………………彼女、いるんだよな?」
 こっちが顔を上げて聞けば今度はハイジが驚いたように目を見開いて視線を逸らした、は? 何だよソレ。
「おい、いるんだろ? いるんだよな? 中学のヤツ」
「…………うん、まあ……いる」
 それを聞いて、肩の荷が下りたような、安心したような、でも直に今度は別のもやもやが増幅して、次の言葉を口に出す。
「そっか、オレさ彼女出来た事ないからわからないんだけど、ハイジはその彼女とどこまでしてんの? こんな長く続いてるんだしやっぱ結婚視野に入れて付き合ってるの?」
 目を合わせないハイジに反撃とばかりに顔を覗き込めばハイジは短い茶髪をかき上げてピアスが光る、そして。


「そんなの……翔には関係ないだろう」

 と、その答えは…………何だろう、どこがとかわかんねえけど、胸にグッサリくるもんがあった、ここまできといてオレには追及する癖に自分の事となればお前に関係ないって? ああそうかよ大層なもんだな。
 そんで、一向にこっち見ないハイジの横顔見て考える、そりゃハイジは曲がった事が嫌いな男だ、だから中学の女子とまだ繋がってるのも、驚きゃしねえよ、この子一筋って感じするもんな。
 でも、うん、じゃあこの一連のオレの感情は何だったんだ話だよな、ホモだかゲイだかバイだかしんねーけどさ、結局オレ、ハイジにからかわれてただけだったんじゃねえの? て……。
 ああ、あれか、それこそそういう変な噂流れてた方がモテモテなハイジ君には女共が寄り付かない丁度いい防波堤になるし、ばーちゃんオレが好きだから長生きしてほしいし仲良くないと困るもんな? なるほどなるほど、オレすげー使いがっていい幼馴染だな。

 考えたら、虚しくて……でも、ハイジのせいで傷付いた自分なんて見せたくねえな。
「翔?」
 それでまた、ハイジはオレを利用しようと心配するふりして手を差し出してきたから、グッとその手を掴んだ。
「触んなっつたろ」
 睨めば、ハイジは黙る。オレは感情が悟られないように静かに続ける。
「良かった良かった正常で、いやさ? オレ知らなかったんだけど、高校の時オレ達ホモって噂流れてたんだって? オレそういうの論外だからマジ気持ち悪いって思う側の人間だから、一瞬ビビっちゃたんだけど、違ってたみたいで良かったわ」
「…………」
「なんだよその顔、そうだろ? お前だって彼女いるんだし、オレ利用して群がる女共に変態なフリして引かせたかったんだろ?」
「翔を利用したつもりはないよ」
「バカ言えよ、利用したんじゃなかったんなら何なんだよ、今更オレを好きとでもいうつもりか」
「それは」
「彼女がいる癖によ」
「それも……」
「まあ、どうでもいいやゲイなんて親が知ったら一番悲しむ案件だろうしスッキリできて良かったわ、お前も良かったな性別はハイジじゃなくて」
 言い放てばハイジの手は震えていた。
「親がって何だよ、じゃあ翔は親が納得しなければ誰とも付き合わないし結婚もしないのか、お前の人生なのに」
「は? 別にマザコン入ってるんじゃなくて、うちの両親はああ見えても節度ある常識持ってる人間だから、その両親が全否定するような相手は普通に考えて上手くいかないだろって話だよ」
「ハイジちゃんハイジちゃん言ってる翔の口から一般常識なんて単語が出るとはな? 未成年との結婚を賛成する親がどこにいるんだよ」
 ハイジはきっと苛立ってる、わかるこの冷静な冗談を含まない口調に眼差し、こんなの初めて見た幼馴染だったから。
 でも何だよ、これは最早何のケンカなんだよって意味わかんなくて、でもオレにはこれまでのケンカみたいに言い返さずにはいられないんだ。
 ハイジの手首に爪を立てるくらい握り込んで言う。
「何グチグチ言ってんだよ、お前のせいでオレはイライラしてんだ。だったらハッキリしろよハイジは男が好きなのか?」
 オレの手も震える、ハイジが一瞬唇を噛んで、言った。












「男が好きな訳じゃない」




「…………あーはいはい」
 手を離して、オレはまた鞄の中から傘を取り出した、理解できる当然の回答なのに胸が痛くって深呼吸と同時に傘を開いた。
「同感だよ。だったらもうこれ以上仲良くすんのやめた方がお互いの為だろ、オレだって迷惑だよ。男なんか好きじゃないのに変な噂流されてさ、もう二度とオレに構うな大嫌いなんだよお前なんて、隣に住んでるから付き合ってやってただけだ」
 傘を差して一歩雨の中に出れば、背後から声がした。









「わかった、今までごめんな翔」





 掠れた声だった。
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