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記憶
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名前を言って二人は首を傾げた。
「タツミ……ねえ?」
執事さんはタツミみたいにモノクルをクイってして思考を巡らせたみたいだったけど、直に向き直った。
「まあ俺は金さえ払ってもらえれば問題ないので、買ったら帰って下さい、もう閉店時間ですから」
「ちょっと! またそんな冷たい事言って、こんな可愛い猫ちゃんがお使いにきてくれたんだよ!」
メイドさんは頭撫でてきて、耳に指が近付いてブルってする。どうしよう、なんかちょっと離してって気持ちになってきた、私タツミ以外の人に長時間拘束されるのあんまり好きじゃないかも。
「エム、尻尾パタパタさせてる」
「あ、ごめんしつこいの嫌いね?」
離してくれて、メイドさんのお膝から降りた。
「ごめんなさい」
「え? いやいや私が悪かったの! だって可愛かったから触りたくて…………ふああ、いい所の猫ちゃんはお手てまでいい匂いするう! 高級な石鹸って良い香りだよねえ」
メイドさんは私を撫ででいた手の平クンクン嗅いでて目をぎゅうって瞑ってるけど、そうなの? 私自分の匂いなんて知らない、腕とか嗅いでみたけど分からないや。
「それで、どちらの時計にしますか?」
「?」
執事さんは私をイスに座らせると時計を持って来て、目の前で膝をついた
「今店にある吸魔式の鳩時計は二つ。決まった時間に鳩が出てくるのと、飾りで鳩が付いているの」
「ぴーよ! ぴーよ! って鳴く方がいいです」
「うちのはポッポ! ポッポ! って鳴きますが」
「えっと……じゃあそっちで」
「わかりました、私の力で起動の確認と調整して包んできます」
時計を選んでる間、メイドさんは私の尻尾こちょこちょしてきて、揺らせばビク! ってして、メイドさんこそ猫みたいだった。
執事さんはカウンター越しにモノクルを直しながら言う、
「それで君は? これを買った後どうやって家に帰るの?」
「う?」
「あ、そうだね、いつからあそこにいたの? っていうかどうやって? どこのお屋敷を抜けてきたのかな?」
「ああ、えっと……」
「私達は人間だけの居住区域に住んでるから、もし迷子なら騎士団の屯所に連れて行くよ?」
首傾げられて、そっかどうしよう、買い物が終わったら家に帰りたいけど、眼鏡屋さんも気になってるからちょっと寄りたい気持ちもあるし……。
メイドさんがどうぞって温かい黒猫のカップで紅茶をだしてくれて、知らない人からものもらっちゃいけないって言われてるけど、メイドさんは今日知った人だからいいのかな?
「ミルクがたっぷり入ってておいしいよ?」
「ミルク……」
恥ずかしいけど、ミルクに弱くて甘い匂いに誘われて唇をつけた、熱すぎない私でも飲める温度で柔らかい湯気が少し眼鏡を曇らせる。
メイドさんはお盆を胸に抱えて、にっこり笑ってて、一口飲んだらとっても美味しいの。
「はにゃ……」
「わあ笑ってくれた可愛い!」
だって勝手に口元緩んでしまったんだもん、尻尾立っちゃう。
クピクピ飲んでたら、執事さんが時計を包んで渡してくれた。
「まあ、首輪をつけてるんだから心配いらないかな。何か魔法でもかかってるでしょう。黄金でできた鈴なんて初めて見たし、その眼鏡だって一級品だ今じゃ出回ってない」
「ああそっか、こんな高貴な猫ちゃんだもんね首輪におまじない位かかってるか」
メイドさんは店の奥から可愛い上着を持って来て私に着せるとフードを頭にふわっとかけてくれた。
「むしろ、私達が出しゃばってお家まで届けたら、こっそり時計買いに来た意味なくなっちゃうね? ご主人様驚かせたいんでしょ?」
「うん」
「でも黒猫ちゃんはさ、ちょっとそのままウロウロしちゃうと皆気になっちゃうからこれ着ておこうか、これ着てれば安全だから」
「気になっちゃうんですか?」
聞けば、メイドさんは口を閉ざしたんだけど執事さんが、
「高値で売れますからね、特に君くらいの小さな猫なんて黒猫じゃなくたって闇じゃお金でやり取りする対象です。だから必ず親が付いて歩いてるでしょう。うちの店はプライバシーに配慮して結界が張ってありますから、ここに誰がいるのかわからないようになってますけど」
執事さんは言いながら胸ポケットから小さな白い袋を出してきた。
「出雲大社って俺達がいた世界を創造したと言われている神様のお守り、この加護があってうちの店は安全です」
「へえ」
「でも、君なんて一歩でも外に出たらバイヤーの餌食」
「ちょっと!」
「何も分からないなら、逆に言わないと不親切でしょう? 君は一人で歩いていると危険だ。例え大人が付いていたとしても、狙われる可能性もある。この界隈だって夕暮れの騎士が少ない時間になれば野蛮な輩は増えてきますよ。あなた何度もからまれてるじゃないですか。その度俺が血祭りにあげてますけど」
「わかったから、言わなくていいの!」
メイドさんは執事さんの口を後ろから塞いでて、怖い事いってゴメンね? ってしてくる。
紅茶を飲み終わって、お釣りと時計を渡されて、お礼を言って店を出た。
猫の姿のが小道とかに入りやすいなかなって思ったけど、何かあった時、相手が猫以外だったら、お話しできないし、やっぱこの体が効率的だなってこのままでいよう。
私の時もメイドさんは深々頭を下げて挨拶してくれて、まだお店にいるから何かあったらいつでもおいでって言ってくれた。
それだけでも心強くて、他力本願って訳じゃないけど、絵本で空を走る電車やどこまでも通じてる光モグラ道路を見た事があるから、頑張れば帰る手段はいくらでもあるのかなっなんて気楽に考えてた。
だってお金はあるみたいだし、どっちもお金さえ払えば安全だって本で見たよ。なら心配いらないよね? だからまずは眼鏡屋さんの跡地にもう一度行ってみたくて。
帝国は民族とか風習とか、色々入り混じってるからこうやってフードを被って歩いてる人はよくいるんだ、もしろ目元しか出てない人だってしるし、この服装は二足歩行していればあまり目立たない。
身長も顔も大人っぽいとは言えないけれど、小さい人種ってそれはそれでいるしね。メイドさんが言う様に目立つことなく赤い夕陽に染まった人が疎らな町を足早で歩いた。
それで眼鏡屋さんまでは数分もかからなかった。
やっぱりそこに年季の入った眼鏡屋さんはなくて、草と木と……切ない記憶。
私は当時のそれを見ていないけど。
でももしあの話が本当だとするなら……って自分の眼鏡に手を添える、なんだろうありがとう、なんだけど、おじいさん、まだ人の為に頑張ってるんだって思って。
眼鏡作ってくれて嬉しいけど、おじいさんは今どんな気持ちなんだろう。もう苦しくないのかな、辛くないのかな、私には何ができるんだろうって考えたりして、じっと草木を見つめた。
あの立派なお店が現れた朝を思い出して、おじいさんの笑顔、言葉、熱。
私、何にもおじいさんに言えなかったなって風に揺れる草さえも寂しそうに見えてしまう、そしたらふっと足元に何かいるのを感じた。
それは二匹の子猫で空き地に向かって鳴いていた、問い掛けるように鳴いて、黙って。また鳴いて、その声は届かなくて、苦しくなって、その小さな小さな二人に触れたくて、声を掛けようと思ったら、私よりも先に大きな手が二人を抱き上げた。
見覚えのある、しわしわの手にまさか、と思ったら突風が吹いて髪が顔を隠した、目をしかめて風が止んで、払うとそこには何もなくて、来た時と同じ私は一人で立っていた。
この場所の記憶が見えたのかな、何かが私と共鳴したのかな、わからないけど。
家の外は本当に不思議な世界なんだと思った。
「タツミ……ねえ?」
執事さんはタツミみたいにモノクルをクイってして思考を巡らせたみたいだったけど、直に向き直った。
「まあ俺は金さえ払ってもらえれば問題ないので、買ったら帰って下さい、もう閉店時間ですから」
「ちょっと! またそんな冷たい事言って、こんな可愛い猫ちゃんがお使いにきてくれたんだよ!」
メイドさんは頭撫でてきて、耳に指が近付いてブルってする。どうしよう、なんかちょっと離してって気持ちになってきた、私タツミ以外の人に長時間拘束されるのあんまり好きじゃないかも。
「エム、尻尾パタパタさせてる」
「あ、ごめんしつこいの嫌いね?」
離してくれて、メイドさんのお膝から降りた。
「ごめんなさい」
「え? いやいや私が悪かったの! だって可愛かったから触りたくて…………ふああ、いい所の猫ちゃんはお手てまでいい匂いするう! 高級な石鹸って良い香りだよねえ」
メイドさんは私を撫ででいた手の平クンクン嗅いでて目をぎゅうって瞑ってるけど、そうなの? 私自分の匂いなんて知らない、腕とか嗅いでみたけど分からないや。
「それで、どちらの時計にしますか?」
「?」
執事さんは私をイスに座らせると時計を持って来て、目の前で膝をついた
「今店にある吸魔式の鳩時計は二つ。決まった時間に鳩が出てくるのと、飾りで鳩が付いているの」
「ぴーよ! ぴーよ! って鳴く方がいいです」
「うちのはポッポ! ポッポ! って鳴きますが」
「えっと……じゃあそっちで」
「わかりました、私の力で起動の確認と調整して包んできます」
時計を選んでる間、メイドさんは私の尻尾こちょこちょしてきて、揺らせばビク! ってして、メイドさんこそ猫みたいだった。
執事さんはカウンター越しにモノクルを直しながら言う、
「それで君は? これを買った後どうやって家に帰るの?」
「う?」
「あ、そうだね、いつからあそこにいたの? っていうかどうやって? どこのお屋敷を抜けてきたのかな?」
「ああ、えっと……」
「私達は人間だけの居住区域に住んでるから、もし迷子なら騎士団の屯所に連れて行くよ?」
首傾げられて、そっかどうしよう、買い物が終わったら家に帰りたいけど、眼鏡屋さんも気になってるからちょっと寄りたい気持ちもあるし……。
メイドさんがどうぞって温かい黒猫のカップで紅茶をだしてくれて、知らない人からものもらっちゃいけないって言われてるけど、メイドさんは今日知った人だからいいのかな?
「ミルクがたっぷり入ってておいしいよ?」
「ミルク……」
恥ずかしいけど、ミルクに弱くて甘い匂いに誘われて唇をつけた、熱すぎない私でも飲める温度で柔らかい湯気が少し眼鏡を曇らせる。
メイドさんはお盆を胸に抱えて、にっこり笑ってて、一口飲んだらとっても美味しいの。
「はにゃ……」
「わあ笑ってくれた可愛い!」
だって勝手に口元緩んでしまったんだもん、尻尾立っちゃう。
クピクピ飲んでたら、執事さんが時計を包んで渡してくれた。
「まあ、首輪をつけてるんだから心配いらないかな。何か魔法でもかかってるでしょう。黄金でできた鈴なんて初めて見たし、その眼鏡だって一級品だ今じゃ出回ってない」
「ああそっか、こんな高貴な猫ちゃんだもんね首輪におまじない位かかってるか」
メイドさんは店の奥から可愛い上着を持って来て私に着せるとフードを頭にふわっとかけてくれた。
「むしろ、私達が出しゃばってお家まで届けたら、こっそり時計買いに来た意味なくなっちゃうね? ご主人様驚かせたいんでしょ?」
「うん」
「でも黒猫ちゃんはさ、ちょっとそのままウロウロしちゃうと皆気になっちゃうからこれ着ておこうか、これ着てれば安全だから」
「気になっちゃうんですか?」
聞けば、メイドさんは口を閉ざしたんだけど執事さんが、
「高値で売れますからね、特に君くらいの小さな猫なんて黒猫じゃなくたって闇じゃお金でやり取りする対象です。だから必ず親が付いて歩いてるでしょう。うちの店はプライバシーに配慮して結界が張ってありますから、ここに誰がいるのかわからないようになってますけど」
執事さんは言いながら胸ポケットから小さな白い袋を出してきた。
「出雲大社って俺達がいた世界を創造したと言われている神様のお守り、この加護があってうちの店は安全です」
「へえ」
「でも、君なんて一歩でも外に出たらバイヤーの餌食」
「ちょっと!」
「何も分からないなら、逆に言わないと不親切でしょう? 君は一人で歩いていると危険だ。例え大人が付いていたとしても、狙われる可能性もある。この界隈だって夕暮れの騎士が少ない時間になれば野蛮な輩は増えてきますよ。あなた何度もからまれてるじゃないですか。その度俺が血祭りにあげてますけど」
「わかったから、言わなくていいの!」
メイドさんは執事さんの口を後ろから塞いでて、怖い事いってゴメンね? ってしてくる。
紅茶を飲み終わって、お釣りと時計を渡されて、お礼を言って店を出た。
猫の姿のが小道とかに入りやすいなかなって思ったけど、何かあった時、相手が猫以外だったら、お話しできないし、やっぱこの体が効率的だなってこのままでいよう。
私の時もメイドさんは深々頭を下げて挨拶してくれて、まだお店にいるから何かあったらいつでもおいでって言ってくれた。
それだけでも心強くて、他力本願って訳じゃないけど、絵本で空を走る電車やどこまでも通じてる光モグラ道路を見た事があるから、頑張れば帰る手段はいくらでもあるのかなっなんて気楽に考えてた。
だってお金はあるみたいだし、どっちもお金さえ払えば安全だって本で見たよ。なら心配いらないよね? だからまずは眼鏡屋さんの跡地にもう一度行ってみたくて。
帝国は民族とか風習とか、色々入り混じってるからこうやってフードを被って歩いてる人はよくいるんだ、もしろ目元しか出てない人だってしるし、この服装は二足歩行していればあまり目立たない。
身長も顔も大人っぽいとは言えないけれど、小さい人種ってそれはそれでいるしね。メイドさんが言う様に目立つことなく赤い夕陽に染まった人が疎らな町を足早で歩いた。
それで眼鏡屋さんまでは数分もかからなかった。
やっぱりそこに年季の入った眼鏡屋さんはなくて、草と木と……切ない記憶。
私は当時のそれを見ていないけど。
でももしあの話が本当だとするなら……って自分の眼鏡に手を添える、なんだろうありがとう、なんだけど、おじいさん、まだ人の為に頑張ってるんだって思って。
眼鏡作ってくれて嬉しいけど、おじいさんは今どんな気持ちなんだろう。もう苦しくないのかな、辛くないのかな、私には何ができるんだろうって考えたりして、じっと草木を見つめた。
あの立派なお店が現れた朝を思い出して、おじいさんの笑顔、言葉、熱。
私、何にもおじいさんに言えなかったなって風に揺れる草さえも寂しそうに見えてしまう、そしたらふっと足元に何かいるのを感じた。
それは二匹の子猫で空き地に向かって鳴いていた、問い掛けるように鳴いて、黙って。また鳴いて、その声は届かなくて、苦しくなって、その小さな小さな二人に触れたくて、声を掛けようと思ったら、私よりも先に大きな手が二人を抱き上げた。
見覚えのある、しわしわの手にまさか、と思ったら突風が吹いて髪が顔を隠した、目をしかめて風が止んで、払うとそこには何もなくて、来た時と同じ私は一人で立っていた。
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