初めから恋だった

すずなりたま

文字の大きさ
5 / 6

しおりを挟む
   凌介はいつもより優しく俺を抱いた。
 俺の様子が少し変だったからかもしれない、自覚はある。
   しかし、事が終わってしまえば何故俺はさっきまであんな情緒不安定だったのか、自分自身の理解に苦しむ。
 その上、死ぬほど恥ずかしい。
   だから凌介から話しかけてくるまでは絶対に一言も喋らない。絶対にだ。
   いい歳して子どもじみた行動をしているというのは分かっているが、世の中歳を重ねた分だけ厚顔無恥になる人間ばかりではない、と主張したい。

「なぁ、海里」
「……何だ」

   ベッドの上で煙草を吸っている奴の傍ら、頭まで布団を被った状態で返事をする。
 そんな俺を見て、凌介はきっと笑っているだろう。
 見えてないけど分かる。

「治ったか?」
「治った」

   言わせるな、恥ずかしい。
 絶対にわざとだな、この野郎。

「……明日、仕事休みか?」
「休みじゃない。けど、休みにもできる」
「そうか。じゃあ結婚しよう」

   は?
   俺は布団を捲って顔を出した。
 今、奴はなんと言った?
 けっこん……血痕、結魂、は無理があるか、日本語が続かない。
   結婚?

「聞こえたか?」
「多分」

   俺の耳が正常に機能しているならば。

「結婚しよう」
「何で?」
「愛してるからだよ」
「誰が誰を」
「俺が、お前を」
「……」

   凌介は、ハンブルクで何か変なものを食べてきたのだろうか。
 腐ったジャガイモか?
   俺を見て笑っていると思ったのに、真面目な顔をしていてなんだかひどくおかしく見える。
 一笑してやりたいのに俺は声が出なくて、代わりに頬の筋肉がピクピクと動いた。
   なんとか頭をフル回転させながら話す。

「あ、愛してるのは理解できた」
「理解できたのか」
「でも、結婚は理解できない。理由が明確じゃない」
「分かってる。今から理由を説明する」

   凌介がそう言った途端、スっと肩の力が抜けた。
 ああ、吃驚した。死ぬほど吃驚した。死なないけど。

「何安心してるんだ?」
「だって、ちゃんとした理由があるんだろう?良かった、ドイツで腐ったジャガイモを食べたせいでますます頭がおかしくなったのかと」
「最初からおかしくないからな。あと腐ったジャガイモも食ってない」
「ジャガイモはともかく、何言ってるんだ?頭大丈夫か?」
「お前がな」

   凌介は俺をかわいいとか抜かす奇人変人のくせに、本人にその自覚はないらしい。
 やはり周りにも変人しかいないからだろうか。

「ドイツでビールを飲みすぎて死にかけた、と言っただろう」
「言ったな」
「まあ、日頃の行いが良いせいか死ななかったよ」
「良かったな」
「でもこれから先、死にかける機会は何度でもあるだろうな。いくら見かけが若くても、中身はガタが来始めてるからな」
「脳梗塞だの、心筋梗塞だの」
「そうだ。言っとくけどそれらはお前の方が深刻だぞ」
「あまり愉快な話じゃないな」

   しかし、凌介にしては歯切れが悪いというか、なかなか核心に至らない。
 俺達の健康問題がどうして結婚に結び付くのだろう?
   もうそこまで若くないことは自分でも分かっているし、身体に何か不調が起きたとしても孤独死する覚悟はとっくに出来ている。
   大体凌介が俺に会いに来るのは、そのための『生存確認』じゃないのだろうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

【完結】報われないままの狂愛

佐藤さん
BL
七年前に逃げた地元で、狂気の男・星野柊斗が再び俺を追い詰める。 拒絶しても離れられない、救われない愛の物語。

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

おめでとうが言えなくて

まめなぎ
BL
祝えないのは、最低だからじゃない。 まだ手放せていないからだ。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...