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第四話:嫉妬は恋のスパイスですの!
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今日も朝から平和だ。空は青く、風は爽やかで、訓練場には鉄と汗の香りが漂う。
そして俺の背後には、当然のようにあの女がいた。
「リアム様っ♡ 今日も斜め45度から見るお姿が最高でしてよっ♡ 今日の剣さばき……愛を感じますっ♡」
「剣に愛は込めてない。筋肉と計算と精密な技術だけだ」
「そこがまた良いっ♡ 愛のない男が恋に堕ちる姿、それは至高……!!」
「お前の中の愛ってたまにホラーに近い」
「ホラーですの? いえ、私はロマンスですわ♡」
「そのロマンス、斧持って追いかけてくるタイプだろ」
今日も順調に塩対応。そして順調にノーダメージなストーカー。
だが、この日――事態は少しだけ違った。
***
午後、俺は王女付き侍女のクララと、ちょっとした任務の打ち合わせをしていた。
「それで、明日の出発ですが、リアム様には護衛として先行していただきたく……」
「了解。王女殿下の身の安全が第一だ。同行する侍女の名簿も確認しておこう」
「はい、こちらに……」
クララは20代後半。聡明で落ち着いた女性だ。俺に対しても礼儀正しく、常に仕事一筋。
……なのだが。
「ふぅ~ん……随分楽しそうですわね?」
――低く、どす黒い声音が、俺の左耳元に吹き込まれた。
リリンだった。
さっきまで柱の影に潜んでいたくせに、いつの間にか急接近。しかも表情が笑っていない。
「やぁだぁ♡ そんな真面目そうなクララさんと、そんな距離感で話して♡ え? それ、なんてジャンル?」
「ジャンルって何だ」
「“できる系無愛想騎士×才媛侍女”でしょう? あぁぁ、むしろ逆も捗る……」
「話を捏造するな。これは公務だ」
「公務(意味深)……っ!!」
そして唐突に、彼女は俺とクララの間に、スッ……と割り込んできた。
「クララさん、あまりリアム様の近くにいないほうがいいですわ。彼、推しを守るつもりはありますけど、攻略対象にはなりませんのよ」
「は、はぁ……?」
「あと、彼の視線にトキめいたら負けです。彼の眼差しは、心臓に悪い♡ あれは……毒ですわよ」
「リリン嬢、仕事の邪魔だ」
「いえ、命の危機を感じましたので♡」
「お前が危険人物だよ!!」
***
任務の前夜。
俺の部屋に、謎の封筒が届いていた。
開けると、綺麗な字でこう書かれていた。
⸻
「リアム様へ
旅先で女が話しかけてきても無視してください。
話すなら植物か動物にしてください。
会話に情緒が生まれそうになったら、この紙を噛んでください。
――リリンより」
添えられていた紙は、噛むと「すっごくまずい飴の味がするお守り紙」らしい。なぜか手作り。
「……バカか」
そう言いつつ、なぜかその紙をポケットに入れていた俺がいた。
***
翌日、任務を終えて帰城した俺は、そのまま訓練場へ向かった。
だが、そこには――リリンの姿がなかった。
……いない。
庭にも、廊下にも、読書室にも。
ちょっとだけ、いや、かなり静かで、少し……物足りなかった。
まさか、昨日の一件で――
「リアム様ぁぁぁぁっっ!!!!」
聞こえた。
振り返ると、全力で走ってくるリリンの姿があった。スカートひるがえし、風を切り、完全に騎馬戦のような勢いで。
そして、全力のダイブ。
「わぁっ!!」
俺は避けきれず、抱き止める形になった。
「り、リリン嬢っ!? 何やって――」
「リアム様が女と出かけたって聞いて、心が爆発しましたのっ!! 私……爆発した心でパン焼いて待ってましたの!!」
「待て、意味が繋がってねぇ!」
「リアム様が帰ってこないかもって思ったら……もう、私っ……!」
彼女は、俺の胸元に額を押し付けていた。震えていた。冗談でも演技でもない、ちゃんと……“寂しがってた”顔だった。
……しょうがないな。
「……ただいま」
「……っ!」
「心配するのは……まぁ、百歩譲って良い。だが、暴走すんな。俺は誰のものでもないし、誰の夢でもない」
「……はい……」
「それと……焼いたパン、どうせ“顔”の形だろ」
「……はい♡ リアム様の顔パン♡ チョコでアイラインまで再現しました♡」
「こえぇんだよそれ!!!」
***
その夜、俺は一人で焼かれたパンを見つめていた。
確かに俺に似ていた。
でも、右目が「トキめき」って書いてあった。パンに。
……味は、悪くなかった。
ほんの少しだけ、あの紙の味がしたのが気になるが。
俺はそっと、残ったパンを袋に入れた。
誰にも見られないように、引き出しの奥にしまった。
そして俺の背後には、当然のようにあの女がいた。
「リアム様っ♡ 今日も斜め45度から見るお姿が最高でしてよっ♡ 今日の剣さばき……愛を感じますっ♡」
「剣に愛は込めてない。筋肉と計算と精密な技術だけだ」
「そこがまた良いっ♡ 愛のない男が恋に堕ちる姿、それは至高……!!」
「お前の中の愛ってたまにホラーに近い」
「ホラーですの? いえ、私はロマンスですわ♡」
「そのロマンス、斧持って追いかけてくるタイプだろ」
今日も順調に塩対応。そして順調にノーダメージなストーカー。
だが、この日――事態は少しだけ違った。
***
午後、俺は王女付き侍女のクララと、ちょっとした任務の打ち合わせをしていた。
「それで、明日の出発ですが、リアム様には護衛として先行していただきたく……」
「了解。王女殿下の身の安全が第一だ。同行する侍女の名簿も確認しておこう」
「はい、こちらに……」
クララは20代後半。聡明で落ち着いた女性だ。俺に対しても礼儀正しく、常に仕事一筋。
……なのだが。
「ふぅ~ん……随分楽しそうですわね?」
――低く、どす黒い声音が、俺の左耳元に吹き込まれた。
リリンだった。
さっきまで柱の影に潜んでいたくせに、いつの間にか急接近。しかも表情が笑っていない。
「やぁだぁ♡ そんな真面目そうなクララさんと、そんな距離感で話して♡ え? それ、なんてジャンル?」
「ジャンルって何だ」
「“できる系無愛想騎士×才媛侍女”でしょう? あぁぁ、むしろ逆も捗る……」
「話を捏造するな。これは公務だ」
「公務(意味深)……っ!!」
そして唐突に、彼女は俺とクララの間に、スッ……と割り込んできた。
「クララさん、あまりリアム様の近くにいないほうがいいですわ。彼、推しを守るつもりはありますけど、攻略対象にはなりませんのよ」
「は、はぁ……?」
「あと、彼の視線にトキめいたら負けです。彼の眼差しは、心臓に悪い♡ あれは……毒ですわよ」
「リリン嬢、仕事の邪魔だ」
「いえ、命の危機を感じましたので♡」
「お前が危険人物だよ!!」
***
任務の前夜。
俺の部屋に、謎の封筒が届いていた。
開けると、綺麗な字でこう書かれていた。
⸻
「リアム様へ
旅先で女が話しかけてきても無視してください。
話すなら植物か動物にしてください。
会話に情緒が生まれそうになったら、この紙を噛んでください。
――リリンより」
添えられていた紙は、噛むと「すっごくまずい飴の味がするお守り紙」らしい。なぜか手作り。
「……バカか」
そう言いつつ、なぜかその紙をポケットに入れていた俺がいた。
***
翌日、任務を終えて帰城した俺は、そのまま訓練場へ向かった。
だが、そこには――リリンの姿がなかった。
……いない。
庭にも、廊下にも、読書室にも。
ちょっとだけ、いや、かなり静かで、少し……物足りなかった。
まさか、昨日の一件で――
「リアム様ぁぁぁぁっっ!!!!」
聞こえた。
振り返ると、全力で走ってくるリリンの姿があった。スカートひるがえし、風を切り、完全に騎馬戦のような勢いで。
そして、全力のダイブ。
「わぁっ!!」
俺は避けきれず、抱き止める形になった。
「り、リリン嬢っ!? 何やって――」
「リアム様が女と出かけたって聞いて、心が爆発しましたのっ!! 私……爆発した心でパン焼いて待ってましたの!!」
「待て、意味が繋がってねぇ!」
「リアム様が帰ってこないかもって思ったら……もう、私っ……!」
彼女は、俺の胸元に額を押し付けていた。震えていた。冗談でも演技でもない、ちゃんと……“寂しがってた”顔だった。
……しょうがないな。
「……ただいま」
「……っ!」
「心配するのは……まぁ、百歩譲って良い。だが、暴走すんな。俺は誰のものでもないし、誰の夢でもない」
「……はい……」
「それと……焼いたパン、どうせ“顔”の形だろ」
「……はい♡ リアム様の顔パン♡ チョコでアイラインまで再現しました♡」
「こえぇんだよそれ!!!」
***
その夜、俺は一人で焼かれたパンを見つめていた。
確かに俺に似ていた。
でも、右目が「トキめき」って書いてあった。パンに。
……味は、悪くなかった。
ほんの少しだけ、あの紙の味がしたのが気になるが。
俺はそっと、残ったパンを袋に入れた。
誰にも見られないように、引き出しの奥にしまった。
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