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2話 隠された誘惑
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翌日。
誕生祭の余韻冷めやらぬまま、王宮では引き続き各国使節との面会や舞踏会が催されていた。
ルイセル王子は、前夜のことを思い返すたび、喉元に残る熱と悔しさに、無意識に手を当てる。
(……毒入りの祝杯か。だが、まだ終わってはいない)
ミゼ・アガナ侯爵夫人は、必ずまた仕掛けてくる。
王子はそれを確信していた。
⸻
夜。
広間では舞踏会が始まっていた。絢爛な楽団の演奏のなか、貴族たちが笑い、踊り、杯を交わす。
王子はその輪の中心で、神経を尖らせていた。
再び“罠”にかかるつもりはない。だが、それでも彼は逃げずに立ち続けている。己の誇りと品位のために。
「……やはり、来られていたのね」
艶やかな声が、肩越しにささやかれた。
ミゼ・アガナ――
紅のドレスは、前夜よりさらに深いスリットが入り、背中も大きく露出していた。まるで、その身に布をまとう意味など最初からないとでも言いたげな装い。
王子はゆっくりと振り返った。
「今夜も“祝福”に来てくださったのですか、夫人」
「ええ、わたくし、殿下にしか興味がないもの」
冗談めかしたその言葉に、周囲の男たちは少し笑ったが、彼女の目は笑っていなかった。
そして――踊りの曲が切り替わる。
「殿下、一曲いただけます?」
ミゼはそっと手を差し出した。逃げれば噂となる。だからこそ彼女は、この場を選んだのだ。
「……参りましょう」
王子は毅然と、彼女の手を取った。
⸻
舞踏が始まった。
王子と夫人は優雅に踊る。ステップは淀みなく、観客たちの目には完璧な舞踏のように映った。
だが――それは見せかけだった。
「殿下。熱は……もう引いたかしら?」
「ええ。冷たい風がよく効きました」
言葉を交わすふたりの間で、火花のような緊張がはぜる。
ミゼは王子の肩に手を添えながら、ほんのわずか、身体を密着させてきた。
胸元が王子の腕に触れ、柔らかい感触が熱を呼ぶ。
「昨日は、惜しいことをしたわ。あと少しだったのに……」
「誘惑に屈するほど、私は未熟ではありませんよ」
囁く声で牽制する王子。
だが――ミゼの手は、少しずつ、少しずつ、王子の背から脇腹、そして腰のあたりへと滑ってきた。
舞踏の手順を保ちながら、まるで偶然を装うように。
「ふふ、ほんとうに……未熟ではないのね。だからこそ……そそるわ」
そして次の瞬間。
――その手が、王子の腰を伝い、裾の内側へと滑り込んできた。
貴族たちが見守る視線のなか、ほんの指先一本分。
ミゼの指は、誰にも見えない位置で、王子の内腿をなぞりはじめた。
「……っ」
ルイセルは言葉を失い、わずかに目を見開いた。
だが、顔には微笑みを浮かべたまま。
「……っ、夫人……やめなさい……」
「……なにを? ただ踊っているだけですわ」
指は膝上から、ゆっくりと腿の内側から中心へ。
まるで獲物の急所を弄ぶように、意図的に際どい位置を往復する。
王子は微笑みを保ちつつ、喉奥で呻く。
身体の中心が熱を持ち、嫌でも昨日の感覚が蘇る。
(……見られてはならない……気づかせてはならない)
太腿に走る快感は、まるで痛みのようだった。
だが、それでも王子は崩れなかった。ぎりぎりの理性で、手の位置をずらすよう踊りのステップを調整し、距離を操作する。
「ふふ……意外と策士なのね、殿下」
「あなたのような方に、隙を見せれば……食われますから」
「……ええ、よくご存じで」
舞踏が終わると、ミゼは深くお辞儀をし、そして――
微笑みながら、指先で王子の中心付近を“最後にひと撫で”してから、去っていった。
⸻
人々の賞賛と拍手。
だが、王子はその輪の中で、熱を宿した身体を懸命に抑えていた。
理性は勝った――しかし、敗北もしていた。
その指の感触は、まるで焼き印のように残り、夜を迎えても消えることはなかった。
ミゼ・アガナ。
その女は、獲物を仕留める前に何度も刃を舐めるように遊ぶ。
そしてルイセルは、彼女にとって最も価値ある“未完の果実”であることを、痛いほど思い知らされた。
(まだ……終わらない)
王子の誇りと、女の欲望がぶつかるこの夜会は、幕を開けたばかりだった――。
誕生祭の余韻冷めやらぬまま、王宮では引き続き各国使節との面会や舞踏会が催されていた。
ルイセル王子は、前夜のことを思い返すたび、喉元に残る熱と悔しさに、無意識に手を当てる。
(……毒入りの祝杯か。だが、まだ終わってはいない)
ミゼ・アガナ侯爵夫人は、必ずまた仕掛けてくる。
王子はそれを確信していた。
⸻
夜。
広間では舞踏会が始まっていた。絢爛な楽団の演奏のなか、貴族たちが笑い、踊り、杯を交わす。
王子はその輪の中心で、神経を尖らせていた。
再び“罠”にかかるつもりはない。だが、それでも彼は逃げずに立ち続けている。己の誇りと品位のために。
「……やはり、来られていたのね」
艶やかな声が、肩越しにささやかれた。
ミゼ・アガナ――
紅のドレスは、前夜よりさらに深いスリットが入り、背中も大きく露出していた。まるで、その身に布をまとう意味など最初からないとでも言いたげな装い。
王子はゆっくりと振り返った。
「今夜も“祝福”に来てくださったのですか、夫人」
「ええ、わたくし、殿下にしか興味がないもの」
冗談めかしたその言葉に、周囲の男たちは少し笑ったが、彼女の目は笑っていなかった。
そして――踊りの曲が切り替わる。
「殿下、一曲いただけます?」
ミゼはそっと手を差し出した。逃げれば噂となる。だからこそ彼女は、この場を選んだのだ。
「……参りましょう」
王子は毅然と、彼女の手を取った。
⸻
舞踏が始まった。
王子と夫人は優雅に踊る。ステップは淀みなく、観客たちの目には完璧な舞踏のように映った。
だが――それは見せかけだった。
「殿下。熱は……もう引いたかしら?」
「ええ。冷たい風がよく効きました」
言葉を交わすふたりの間で、火花のような緊張がはぜる。
ミゼは王子の肩に手を添えながら、ほんのわずか、身体を密着させてきた。
胸元が王子の腕に触れ、柔らかい感触が熱を呼ぶ。
「昨日は、惜しいことをしたわ。あと少しだったのに……」
「誘惑に屈するほど、私は未熟ではありませんよ」
囁く声で牽制する王子。
だが――ミゼの手は、少しずつ、少しずつ、王子の背から脇腹、そして腰のあたりへと滑ってきた。
舞踏の手順を保ちながら、まるで偶然を装うように。
「ふふ、ほんとうに……未熟ではないのね。だからこそ……そそるわ」
そして次の瞬間。
――その手が、王子の腰を伝い、裾の内側へと滑り込んできた。
貴族たちが見守る視線のなか、ほんの指先一本分。
ミゼの指は、誰にも見えない位置で、王子の内腿をなぞりはじめた。
「……っ」
ルイセルは言葉を失い、わずかに目を見開いた。
だが、顔には微笑みを浮かべたまま。
「……っ、夫人……やめなさい……」
「……なにを? ただ踊っているだけですわ」
指は膝上から、ゆっくりと腿の内側から中心へ。
まるで獲物の急所を弄ぶように、意図的に際どい位置を往復する。
王子は微笑みを保ちつつ、喉奥で呻く。
身体の中心が熱を持ち、嫌でも昨日の感覚が蘇る。
(……見られてはならない……気づかせてはならない)
太腿に走る快感は、まるで痛みのようだった。
だが、それでも王子は崩れなかった。ぎりぎりの理性で、手の位置をずらすよう踊りのステップを調整し、距離を操作する。
「ふふ……意外と策士なのね、殿下」
「あなたのような方に、隙を見せれば……食われますから」
「……ええ、よくご存じで」
舞踏が終わると、ミゼは深くお辞儀をし、そして――
微笑みながら、指先で王子の中心付近を“最後にひと撫で”してから、去っていった。
⸻
人々の賞賛と拍手。
だが、王子はその輪の中で、熱を宿した身体を懸命に抑えていた。
理性は勝った――しかし、敗北もしていた。
その指の感触は、まるで焼き印のように残り、夜を迎えても消えることはなかった。
ミゼ・アガナ。
その女は、獲物を仕留める前に何度も刃を舐めるように遊ぶ。
そしてルイセルは、彼女にとって最も価値ある“未完の果実”であることを、痛いほど思い知らされた。
(まだ……終わらない)
王子の誇りと、女の欲望がぶつかるこの夜会は、幕を開けたばかりだった――。
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