3 / 13
3話 密室の戯れ
しおりを挟む
王宮の夜は深く、静かだった。
人々の酔いが醒め、灯りが次第に消えゆくなかで、なおも目を光らせている者がいた。
ルイセル王子。
そして――ミゼ・アガナ侯爵夫人。
⸻
舞踏の夜から三日。
王子は己の心と身体の揺らぎに、内密の焦りを覚えていた。
彼女に“触れられた”感触は、時間が経ってもなお、皮膚に残り、血に混じり、夜を乱す。
眠りにつくたび、あの指先が、唇が、彼自身を――脳裏に再生され、目覚めては吐息を漏らす夜が続いた。
(……これ以上は許してはならぬ)
理性はそう告げる。だが身体の奥は、熱と疼きに支配されはじめていた。
⸻
その夜。
王子のもとに、極秘の伝令が届く。
――〈中庭の西塔にて、密やかな祝賀を用意しております。ミゼ・アガナ〉
「……やはり、来たか」
王子は思案の末、その誘いを受けることにした。
何度逃れても、彼女は追ってくる。ならば、この手で決着をつけるしかない。
己の誇りのために。
⸻
西塔――王宮の片隅にひっそりと建つ、古き離れの一室。
中に入ると、香が焚かれ、厚いカーテンが月明かりを遮っていた。室内は蝋燭の揺れる橙の光に包まれている。
「ようこそ、殿下」
ミゼはソファに腰掛け、深紅の衣装をまとっていた。前よりもはるかに布の少ないドレス。
胸元は大胆にあき、脚を組んだ隙間から、滑らかな太腿が露わにされている。
「ひと目のないところで、ようやくお祝いできるわ」
「……そういう趣向でしたか。密会など、聞いて驚く者もおりますまい」
王子は扉に鍵をかけた。自らの意志でこの密室に入った――その覚悟を示すために。
ミゼは一瞬だけ驚いたように目を細めた。
「……勇ましい殿下。いよいよ覚悟を決めたのかしら?」
「いいえ。あなたに“終止符”を打ちに来たのです」
そう言った王子の声には、確かな怒気と覚悟があった。
しかし――
「では、その“終止符”を打つ前に、少しだけ……味わわせていただけないかしら?」
ミゼは立ち上がり、そっと近づいてきた。
彼女の動きには無駄がなく、流れるように王子の前へ滑り込む。
そして――
「さあ、座って」
半ば強引に、王子をソファへと座らせた。
⸻
ミゼは王子の膝に片脚をかけるようにして腰を落とした。
まるで舞姫のような優雅な動作――しかしその実、猛毒に満ちている。
目の前には、艶やかな顔。
王子の胸元を、わずかに解いた指先が撫でる。
「……熱いわね」
「……離れなさい」
「いいえ。感じているの、知ってるわ」
彼女の手が王子の胸元を撫で、ゆっくりと腹部へと滑り降りる。
「昨日の夜、あなたが見ていた夢。――わたしよね?」
「っ……!」
図星だった。
だが認めるわけにはいかない。
「……夢は、ただの幻想です」
「いいえ、心が欲したものよ」
そして――そのまま、ミゼは王子の脚の上で体をすり寄せる。
太腿に、柔らかな尻が触れる。
香の匂い、熱を帯びた吐息、唇が王子の首筋をなぞり――
そして、その手が。
王子の腿を、再び撫で始めた。
――今度は、はっきりと、確信的に。
太腿の内側を、指先が這う。
服の上からとはいえ、その指はぬめるように動き、際どく彼自身に触れるかどうかのギリギリで煽り、神経を逆撫でしながら、限界へと誘う。
「……っ、やめろ……っ」
王子の息が乱れた。
媚薬のせいではない。己の本能が、脳を焼きはじめている。
「このまま、感じてしまえばいいのに。王子ではなく、ひとりの“男”として……」
その囁きに、理性がかき乱される。
だが――王子は、自らの膝の上の女の腰を、強く押し返した。
「……俺は、あなたの玩具ではない」
「そう。それでも……私に抗った男は、あなたが初めてよ」
ミゼは、体を離し、ソファに軽やかに腰掛けた。
瞳には愉悦の光。そして、ほんのわずかな寂しさも。
「……なら、今夜はここまで。けれど覚えていて。身体は、心より先に堕ちてゆくのよ」
⸻
王子は重い呼吸を整えながら、扉へと向かう。
香が残る密室をあとにし、月明かりの下で顔を上げた。
まだ勝ったとは言えない。
けれど、王子の理性は、今夜もぎりぎりのところで自我を守り抜いた。
(まだ……堕ちるものか。俺は――俺のままであるために)
だが、ミゼの残した指先の熱は、王子の芯に焼き付いて離れなかった。
人々の酔いが醒め、灯りが次第に消えゆくなかで、なおも目を光らせている者がいた。
ルイセル王子。
そして――ミゼ・アガナ侯爵夫人。
⸻
舞踏の夜から三日。
王子は己の心と身体の揺らぎに、内密の焦りを覚えていた。
彼女に“触れられた”感触は、時間が経ってもなお、皮膚に残り、血に混じり、夜を乱す。
眠りにつくたび、あの指先が、唇が、彼自身を――脳裏に再生され、目覚めては吐息を漏らす夜が続いた。
(……これ以上は許してはならぬ)
理性はそう告げる。だが身体の奥は、熱と疼きに支配されはじめていた。
⸻
その夜。
王子のもとに、極秘の伝令が届く。
――〈中庭の西塔にて、密やかな祝賀を用意しております。ミゼ・アガナ〉
「……やはり、来たか」
王子は思案の末、その誘いを受けることにした。
何度逃れても、彼女は追ってくる。ならば、この手で決着をつけるしかない。
己の誇りのために。
⸻
西塔――王宮の片隅にひっそりと建つ、古き離れの一室。
中に入ると、香が焚かれ、厚いカーテンが月明かりを遮っていた。室内は蝋燭の揺れる橙の光に包まれている。
「ようこそ、殿下」
ミゼはソファに腰掛け、深紅の衣装をまとっていた。前よりもはるかに布の少ないドレス。
胸元は大胆にあき、脚を組んだ隙間から、滑らかな太腿が露わにされている。
「ひと目のないところで、ようやくお祝いできるわ」
「……そういう趣向でしたか。密会など、聞いて驚く者もおりますまい」
王子は扉に鍵をかけた。自らの意志でこの密室に入った――その覚悟を示すために。
ミゼは一瞬だけ驚いたように目を細めた。
「……勇ましい殿下。いよいよ覚悟を決めたのかしら?」
「いいえ。あなたに“終止符”を打ちに来たのです」
そう言った王子の声には、確かな怒気と覚悟があった。
しかし――
「では、その“終止符”を打つ前に、少しだけ……味わわせていただけないかしら?」
ミゼは立ち上がり、そっと近づいてきた。
彼女の動きには無駄がなく、流れるように王子の前へ滑り込む。
そして――
「さあ、座って」
半ば強引に、王子をソファへと座らせた。
⸻
ミゼは王子の膝に片脚をかけるようにして腰を落とした。
まるで舞姫のような優雅な動作――しかしその実、猛毒に満ちている。
目の前には、艶やかな顔。
王子の胸元を、わずかに解いた指先が撫でる。
「……熱いわね」
「……離れなさい」
「いいえ。感じているの、知ってるわ」
彼女の手が王子の胸元を撫で、ゆっくりと腹部へと滑り降りる。
「昨日の夜、あなたが見ていた夢。――わたしよね?」
「っ……!」
図星だった。
だが認めるわけにはいかない。
「……夢は、ただの幻想です」
「いいえ、心が欲したものよ」
そして――そのまま、ミゼは王子の脚の上で体をすり寄せる。
太腿に、柔らかな尻が触れる。
香の匂い、熱を帯びた吐息、唇が王子の首筋をなぞり――
そして、その手が。
王子の腿を、再び撫で始めた。
――今度は、はっきりと、確信的に。
太腿の内側を、指先が這う。
服の上からとはいえ、その指はぬめるように動き、際どく彼自身に触れるかどうかのギリギリで煽り、神経を逆撫でしながら、限界へと誘う。
「……っ、やめろ……っ」
王子の息が乱れた。
媚薬のせいではない。己の本能が、脳を焼きはじめている。
「このまま、感じてしまえばいいのに。王子ではなく、ひとりの“男”として……」
その囁きに、理性がかき乱される。
だが――王子は、自らの膝の上の女の腰を、強く押し返した。
「……俺は、あなたの玩具ではない」
「そう。それでも……私に抗った男は、あなたが初めてよ」
ミゼは、体を離し、ソファに軽やかに腰掛けた。
瞳には愉悦の光。そして、ほんのわずかな寂しさも。
「……なら、今夜はここまで。けれど覚えていて。身体は、心より先に堕ちてゆくのよ」
⸻
王子は重い呼吸を整えながら、扉へと向かう。
香が残る密室をあとにし、月明かりの下で顔を上げた。
まだ勝ったとは言えない。
けれど、王子の理性は、今夜もぎりぎりのところで自我を守り抜いた。
(まだ……堕ちるものか。俺は――俺のままであるために)
だが、ミゼの残した指先の熱は、王子の芯に焼き付いて離れなかった。
0
あなたにおすすめの小説
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる