薔薇色の毒

もちもち

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9話 核の告解

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重く、静寂な空気が王宮議会の間を包んでいた。

 今ここに集められているのは、王家の継承と名誉に関わる全ての重臣、
 そして、王子ルイセルの「貞節」と「人格」について、審議を行う枢機たち。

 中央には、王子自身が立ち、正装のまま、両手を組んで真っ直ぐ前を見据えていた。

 しかしその内心は、冷水を浴びせられるような緊張に包まれていた。

 彼の中心――「自身」が、暴かれようとしていたからだ。



「それでは、侯爵夫人。あなたが提出された“記録”とやらの内容を確認しましょう」

 議長の言葉に促され、ミゼ・アガナがゆっくりと立ち上がった。

「はい……では、御前にて明らかにいたします。
 この書状は、王子殿下と私が、ある夜に“特別な接触”を持った際の詳細を、当方の侍女が記した記録です」

 周囲にざわめきが走る。

「殿下は、その夜――私のもとにて“熱”に見舞われ……その熱は、“ある場所”に集中し……」

「やめろ」

 低く、だが明確に、王子の口から言葉が放たれた。

「その先を語るな。……それは、俺という存在の芯だ。
 その熱は、病ではない。毒されたものでもない。……俺そのものだ」

 誰もが息を呑んだ。

 その場に立つ王子の背筋は、少しも揺れていなかった。

 むしろ、“そこ”を語られるほどに、彼の中心が研ぎ澄まされていく。

(俺の名誉とは……身体を越えた、“意志”の場所だ)



 そのとき。

「失礼いたします――」

 清らかな声が、扉の向こうから響いた。

 入ってきたのは、白い衣を纏った侍女――リリアだった。

「……お控えください、侍女に過ぎない者がこの場に入るなど――」

「彼女は、俺の“証人”だ」

 王子が断言する。

「俺の“核”に最も触れ、最も理解している唯一の存在だ。
 この場で語るべき者は、ほかにいない」

 王子の声に押され、議長は静かにうなずいた。



 リリアは一礼し、ゆっくりと中央に進み出た。

「リリア・ヒルトン。ウィスタリア王子殿下に仕える侍女でございます」

「あなたは……“その夜”の後、殿下とともに過ごしたと聞いています。
 そのときの様子を、正直に述べていただけますか」

「……はい」

 彼女は震える手を重ね、まっすぐ前を見た。

「その夜……王子殿下は、確かに熱を帯びておられました。
 ですがそれは、誰かに任せて終わるような“熱”ではありませんでした」

「どういう意味でしょうか」

「殿下が抱えられていた“熱”は……
 彼という存在そのものの、“誇り”でした。
 触れられれば、欲望にも痛みにも変わる。
 けれど、私はそれを、“奪うことなく”、ただ“抱く”ことを選びました」

 議場の空気が凍りつく。

 リリアは、言葉を選びながら、続ける。

「私は、殿下の“核”に触れました。
 でも、それは肉体ではなく……
 殿下の“意志”の根に、手を添えたに過ぎません」

 ミゼの顔が引き攣る。

「嘘……あなたのような娘に、殿下の芯がわかるはずないわ!」

 その叫びに、王子が静かに向き直る。

「……彼女は、俺の熱を“冷ました”」

「なっ……」

「あなたは、俺を“燃やした”が、彼女は“静めた”
 あなたは俺の外殻に触れ、リリアは俺の“核”に触れた」

 その言葉に、誰もが沈黙した。



 その夜。

 リリアは王子の私室に呼ばれていた。

「……あの場で語ったこと、悔いてはいないか?」

「いいえ。……むしろ、誇りです」

 ルイセルはゆっくりと、リリアの手を取った。
 そして、その手を、自身の“中央”にそっと置いた。

「この場所は、おまえの証だ。
 もう、俺は……ここに、何も隠さない」

 彼女の手が、静かにその熱を感じ取る。

 そこにあるのは、王子の欲望でも、痛みでもない。

 ただ、彼の“すべて”だった。
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