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小さな勇気
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放課後の有備館高校――。
体育館からはバスケットボールのドリブル音、吹奏楽部の音合わせ、校庭からはかけ声と砂を蹴る足音。
校舎内の片隅では、文化祭の準備がじわじわと始まっていた。
2年C組では、企画の候補を挙げる話し合いが続いている。
「メイド喫茶とか、いいじゃーん」
「いやいや、カフェは去年やったじゃん」
「お化け屋敷も候補に入れてたけど……結局誰がやるの?」
にぎやかな声が飛び交う中、教室のすみで桜崎真帆は静かにプリントを見つめていた。
彼女の提案した「絵本展示と朗読」は、さりげなく票が入っていたものの、今のところ目立たない。
(……やっぱり、地味だよね)
ペンを握る手に力が入る。
けれど、その背後から聞こえてきた声に、真帆の指がピクリと動いた。
「桜崎さんの案、俺いいと思ったけどな」
振り返ると、そこには速見雄太。
制服の襟元を少し緩め、手には自分のプリント。
「えっ……あ、あの……」
「読み聞かせとか、面白そうじゃん。うちのクラスって個性派多いし」
「……でも、目立たないし……私が出ると、みんな、いやかも……」
「そんなことないって。俺、見てるけど、桜崎さんの声って、すごく落ち着くし」
その一言で、真帆の耳の奥がじんと熱くなった。
(……そんな、初めて言われた)
だがそのとき――。
「おーい、雄太。ちょっと来て」
廊下から顔を出したのは長迫美祐。笑顔を浮かべながら手を振っている。
真帆は思わず目をそらした。
「ごめん、呼ばれた。またあとでね」
「あ……はい」
去っていく雄太の背中を見送りながら、真帆の胸にはほのかなざわめきが残っていた。
•
美祐は放送部の仕事で雄太に手伝いを頼んでいた。
録音機材を準備しながら、美祐はちらりと彼の横顔をうかがう。
「……雄太くん、最近よく話すよね、桜崎さんと」
「え? まあ、席が隣だし」
「うん……でも、ちょっと意外だったな。雄太くんって、そういう子、あまり関わらないって思ってたから」
「“そういう子”って?」
「……おとなしくて、目立たないっていうか」
美祐の言葉に、雄太は少し眉をひそめた。
「でも、あの子、よく見てると丁寧で優しいよ。俺、なんか落ち着くんだよね」
「……ふふっ。じゃあ、好きになっちゃったりして?」
その問いに、雄太は反応に困ったように頭をかいた。
「わかんないよ、俺……。恋愛とか、苦手で」
「……そっか」
美祐は笑顔を保ったまま、ほんの少しだけ視線を落とした。
•
翌朝――。
教室に入ってきた雄太を見て、如月友梨奈が大きなあくびをして出迎える。
「やっほ、鈍感王子。最近、真帆ちゃんのとこにばっか行ってない?」
「うるさいな。席が近いだけだよ」
「ふーん。じゃあ、美祐ちゃんに呼ばれてすぐ駆けつけるのも“近いから”か」
友梨奈の視線は、どこか鋭い。
「……嫉妬?」
「は? するわけないじゃん。腐れ縁だし」
とはいえ、雄太の反応が鈍くなると、なぜかつまらなそうに顔をそむけた。
(なんだろ、あの子……ほんと、女心わかってないよ)
•
その日、放課後。
文化祭の案を再投票することになり、クラスの前に貼り出された紙には、意外な結果が出ていた。
『第1位:絵本展示と朗読』
「え? ……ウソ……」
驚く真帆に、友梨奈がにやりと声をかける。
「よかったじゃん。目立たない案でも、心に届くってことよ」
「で、でも、私……読むのとか……」
「練習すればいいじゃん。あんた、声はきれいなんだから」
そう言って、友梨奈は意外なほど優しく笑った。
その後ろでは、雄太が一票入れてくれたことに気づいていた真帆の顔が、ほんのりと赤くなっていた。
小さな勇気が、ほんの少しずつ、教室ににじんでいく。
体育館からはバスケットボールのドリブル音、吹奏楽部の音合わせ、校庭からはかけ声と砂を蹴る足音。
校舎内の片隅では、文化祭の準備がじわじわと始まっていた。
2年C組では、企画の候補を挙げる話し合いが続いている。
「メイド喫茶とか、いいじゃーん」
「いやいや、カフェは去年やったじゃん」
「お化け屋敷も候補に入れてたけど……結局誰がやるの?」
にぎやかな声が飛び交う中、教室のすみで桜崎真帆は静かにプリントを見つめていた。
彼女の提案した「絵本展示と朗読」は、さりげなく票が入っていたものの、今のところ目立たない。
(……やっぱり、地味だよね)
ペンを握る手に力が入る。
けれど、その背後から聞こえてきた声に、真帆の指がピクリと動いた。
「桜崎さんの案、俺いいと思ったけどな」
振り返ると、そこには速見雄太。
制服の襟元を少し緩め、手には自分のプリント。
「えっ……あ、あの……」
「読み聞かせとか、面白そうじゃん。うちのクラスって個性派多いし」
「……でも、目立たないし……私が出ると、みんな、いやかも……」
「そんなことないって。俺、見てるけど、桜崎さんの声って、すごく落ち着くし」
その一言で、真帆の耳の奥がじんと熱くなった。
(……そんな、初めて言われた)
だがそのとき――。
「おーい、雄太。ちょっと来て」
廊下から顔を出したのは長迫美祐。笑顔を浮かべながら手を振っている。
真帆は思わず目をそらした。
「ごめん、呼ばれた。またあとでね」
「あ……はい」
去っていく雄太の背中を見送りながら、真帆の胸にはほのかなざわめきが残っていた。
•
美祐は放送部の仕事で雄太に手伝いを頼んでいた。
録音機材を準備しながら、美祐はちらりと彼の横顔をうかがう。
「……雄太くん、最近よく話すよね、桜崎さんと」
「え? まあ、席が隣だし」
「うん……でも、ちょっと意外だったな。雄太くんって、そういう子、あまり関わらないって思ってたから」
「“そういう子”って?」
「……おとなしくて、目立たないっていうか」
美祐の言葉に、雄太は少し眉をひそめた。
「でも、あの子、よく見てると丁寧で優しいよ。俺、なんか落ち着くんだよね」
「……ふふっ。じゃあ、好きになっちゃったりして?」
その問いに、雄太は反応に困ったように頭をかいた。
「わかんないよ、俺……。恋愛とか、苦手で」
「……そっか」
美祐は笑顔を保ったまま、ほんの少しだけ視線を落とした。
•
翌朝――。
教室に入ってきた雄太を見て、如月友梨奈が大きなあくびをして出迎える。
「やっほ、鈍感王子。最近、真帆ちゃんのとこにばっか行ってない?」
「うるさいな。席が近いだけだよ」
「ふーん。じゃあ、美祐ちゃんに呼ばれてすぐ駆けつけるのも“近いから”か」
友梨奈の視線は、どこか鋭い。
「……嫉妬?」
「は? するわけないじゃん。腐れ縁だし」
とはいえ、雄太の反応が鈍くなると、なぜかつまらなそうに顔をそむけた。
(なんだろ、あの子……ほんと、女心わかってないよ)
•
その日、放課後。
文化祭の案を再投票することになり、クラスの前に貼り出された紙には、意外な結果が出ていた。
『第1位:絵本展示と朗読』
「え? ……ウソ……」
驚く真帆に、友梨奈がにやりと声をかける。
「よかったじゃん。目立たない案でも、心に届くってことよ」
「で、でも、私……読むのとか……」
「練習すればいいじゃん。あんた、声はきれいなんだから」
そう言って、友梨奈は意外なほど優しく笑った。
その後ろでは、雄太が一票入れてくれたことに気づいていた真帆の顔が、ほんのりと赤くなっていた。
小さな勇気が、ほんの少しずつ、教室ににじんでいく。
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