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最終話 おひとりさまを目指すなら、まず……
⑪ 夢が変わる瞬間
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苦しいっ……! 苦しい!! 苦しい……息もうできな……
助けて…………もう……。だ……め……
“アンジェリカばっかり……。私、がんばってるのに……”
死ぬとき、一生の思い出が蘇るって本当だったのね。幼い私が泣いている。
ああ、私、死ぬんだ。ふしぎ。思っていたより怖くない。だってこの人生、惜しむほどじゃないんだもの。
綺麗な女の子に生まれてきたかった。かわいそう、小さな私。最期までそうなのよ。この顔立ちのせいで、“自信が持てない自分”というレッテルの中、くすぶり続けるの。
もし整った顔の、綺麗で可愛い女の子に生まれてたら。人生違っていたわ。引け目なく人前に出て、いつも堂々として、人の誉め言葉にも、男性のお誘いにも、疑うことなく応じることができるのでしょ。
ううん、容姿だけじゃないことも、もう分かってる。でも生まれ変われるなら……これはチャンスよ。お父様の元を離れてしまうのは淋しいけど……。
ん……? 人影が浮かんで……
“綺麗ってことだよ”
……お父様? いえ、お父様の声じゃない。でも私を綺麗なんて言うのは、お父様しか……。
“そのスミレ色のドレス、エレガントで、そこはかとなく色気がある”
何を言ってるの。私こんな地味な色しか似合わないの。
“よく気の付くいい子だなって”
そんなこと、言われたことなかった。でも、そうなの、私だって気が付くことは気が付くのよ。私こんなだから拒まれたらどうしようって、一歩踏み込む勇気がないだけで。
“君は魅力的だよ”
私の、魅力……?
どんどん思い出が流れ込んでくる。どうしてよ、あなたとの日々ばかり。私には、なんだか嬉しくてソワソワして、こんなの初めてで
そうだった……あなたは私を見てくれた。初めて会ったあの日から、私の奥の、「形」ではない私を見てくれていた。なのに……
自信がなくて、期待するのが怖くて、気付かないふりしてたの。
会いたい。死にたくない。
まだ死にたくない。
あなたに会いたい…………エイリーク様!!!
────エレーゼ!!
声が……。果てない海の底にまばゆい光が差して、私はそこで目を見開いた。そこにいるのは……お迎えの天使? プラチナの髪がきらきらしてる……
綺麗……人の思う、絵画の中に存在する天使……優しい海のような瞳……まるでエイリーク様みたい……
私を助けに来てくれたの……
“あなたの言う≪無限の愛≫って何?”
“それは、たとえ火の中水の中、といった思いでしょうか……”
これが愛、なのだとしたら……永遠に
“きっといる、君が必要だって人”
あなたが……必要として。私、あなたの隣で生きていきたい……!
次に目を開ける時、「あの世」と言われるところに、私は立つはずだった。
**
「…………てん、じょう」
あの世にも天井があるのかぁ……。空の上のもっと上の、見渡す限り一面の空の世界だと思ってた。
ん──あれ? でも私は今、頭に枕を敷いている。ここは花畑でも草原でもなく……ベッド?
少し視線をずらしてみると、ここはお屋敷の寝室のよう。ああ、天にのぼっても私は貴族なのね? 平民でいいのに。
そのまま首をゆっくり右から下に回したら、そこには明るい窓際に立つ誰かの背中。
あの世の住人?と尋ねたくて、両肘をついて身体を起こすと、なんだかそれは既視感のある、一枚絵のような光景だった。
「ん?」
一枚絵の中心人物が、私の気配を察して振り向く。
「……エレーゼ!」
窓際で凛とした佇まいの彼。私を見つけると、碧の瞳に星が瞬く。
ここで、初対面のホテルでのことを、ふんわり思い出す。あのグラウンドフロアで、凛としてこちらへ歩み寄る彼の姿に、身動きも取れず見とれていた。
そうだ。初めてこの視界にあなたが飛び込んできた時から、私の目にはあなただけがキラキラして見えていた。
こんな素敵な王子様が、私のところに────
「エレーゼ……良かった。無事で……」
彼は私の手を取って、涙ぐんだ瞳を見せた。
この、眩しい海から生まれたような瞳、覚えてる。海の中で、あなたに包まれて私は今、生きている。
「エイリーク様」
まずは助けてくれたお礼を言うべきなのに。私の口をついて出た言葉は。
「あなたの欲しいものは何ですか?」
「……え?」
「教えてください。あなたへの誕生日プレゼント、ずっと前から考えていたんですけど……」
「…………思い出した?」
戸惑い隠せずといった彼に、私は笑みを浮かべゆっくり頷いた。
「いくら考えても良い案が浮かんでこないから、今年は聞くことにしました」
やっぱり直接聞くのがいいわよね。最初だもの。
「教えてくれま……」
その時、話をしている最中だというのに、
「!」
彼は唐突に私を抱きしめた。
「……せんか?」
「君が欲しい!」
「………………」
彼の腕の中で固まってしまった私だ。私が黙りこくったせいだろうか、
「あっ」
私の背に回した両腕をぱっと解き、彼は焦った顔で弁解を始める。
「そのっ、そういう意味じゃなくて!」
そういう意味ってどういう意味。
「君の……信頼とか、誠実さとか…………未来が欲しい」
「……未来……」
今、見つめ合う瞳が合わせ鏡となり、世界が無限に広がった……気がした。
助けて…………もう……。だ……め……
“アンジェリカばっかり……。私、がんばってるのに……”
死ぬとき、一生の思い出が蘇るって本当だったのね。幼い私が泣いている。
ああ、私、死ぬんだ。ふしぎ。思っていたより怖くない。だってこの人生、惜しむほどじゃないんだもの。
綺麗な女の子に生まれてきたかった。かわいそう、小さな私。最期までそうなのよ。この顔立ちのせいで、“自信が持てない自分”というレッテルの中、くすぶり続けるの。
もし整った顔の、綺麗で可愛い女の子に生まれてたら。人生違っていたわ。引け目なく人前に出て、いつも堂々として、人の誉め言葉にも、男性のお誘いにも、疑うことなく応じることができるのでしょ。
ううん、容姿だけじゃないことも、もう分かってる。でも生まれ変われるなら……これはチャンスよ。お父様の元を離れてしまうのは淋しいけど……。
ん……? 人影が浮かんで……
“綺麗ってことだよ”
……お父様? いえ、お父様の声じゃない。でも私を綺麗なんて言うのは、お父様しか……。
“そのスミレ色のドレス、エレガントで、そこはかとなく色気がある”
何を言ってるの。私こんな地味な色しか似合わないの。
“よく気の付くいい子だなって”
そんなこと、言われたことなかった。でも、そうなの、私だって気が付くことは気が付くのよ。私こんなだから拒まれたらどうしようって、一歩踏み込む勇気がないだけで。
“君は魅力的だよ”
私の、魅力……?
どんどん思い出が流れ込んでくる。どうしてよ、あなたとの日々ばかり。私には、なんだか嬉しくてソワソワして、こんなの初めてで
そうだった……あなたは私を見てくれた。初めて会ったあの日から、私の奥の、「形」ではない私を見てくれていた。なのに……
自信がなくて、期待するのが怖くて、気付かないふりしてたの。
会いたい。死にたくない。
まだ死にたくない。
あなたに会いたい…………エイリーク様!!!
────エレーゼ!!
声が……。果てない海の底にまばゆい光が差して、私はそこで目を見開いた。そこにいるのは……お迎えの天使? プラチナの髪がきらきらしてる……
綺麗……人の思う、絵画の中に存在する天使……優しい海のような瞳……まるでエイリーク様みたい……
私を助けに来てくれたの……
“あなたの言う≪無限の愛≫って何?”
“それは、たとえ火の中水の中、といった思いでしょうか……”
これが愛、なのだとしたら……永遠に
“きっといる、君が必要だって人”
あなたが……必要として。私、あなたの隣で生きていきたい……!
次に目を開ける時、「あの世」と言われるところに、私は立つはずだった。
**
「…………てん、じょう」
あの世にも天井があるのかぁ……。空の上のもっと上の、見渡す限り一面の空の世界だと思ってた。
ん──あれ? でも私は今、頭に枕を敷いている。ここは花畑でも草原でもなく……ベッド?
少し視線をずらしてみると、ここはお屋敷の寝室のよう。ああ、天にのぼっても私は貴族なのね? 平民でいいのに。
そのまま首をゆっくり右から下に回したら、そこには明るい窓際に立つ誰かの背中。
あの世の住人?と尋ねたくて、両肘をついて身体を起こすと、なんだかそれは既視感のある、一枚絵のような光景だった。
「ん?」
一枚絵の中心人物が、私の気配を察して振り向く。
「……エレーゼ!」
窓際で凛とした佇まいの彼。私を見つけると、碧の瞳に星が瞬く。
ここで、初対面のホテルでのことを、ふんわり思い出す。あのグラウンドフロアで、凛としてこちらへ歩み寄る彼の姿に、身動きも取れず見とれていた。
そうだ。初めてこの視界にあなたが飛び込んできた時から、私の目にはあなただけがキラキラして見えていた。
こんな素敵な王子様が、私のところに────
「エレーゼ……良かった。無事で……」
彼は私の手を取って、涙ぐんだ瞳を見せた。
この、眩しい海から生まれたような瞳、覚えてる。海の中で、あなたに包まれて私は今、生きている。
「エイリーク様」
まずは助けてくれたお礼を言うべきなのに。私の口をついて出た言葉は。
「あなたの欲しいものは何ですか?」
「……え?」
「教えてください。あなたへの誕生日プレゼント、ずっと前から考えていたんですけど……」
「…………思い出した?」
戸惑い隠せずといった彼に、私は笑みを浮かべゆっくり頷いた。
「いくら考えても良い案が浮かんでこないから、今年は聞くことにしました」
やっぱり直接聞くのがいいわよね。最初だもの。
「教えてくれま……」
その時、話をしている最中だというのに、
「!」
彼は唐突に私を抱きしめた。
「……せんか?」
「君が欲しい!」
「………………」
彼の腕の中で固まってしまった私だ。私が黙りこくったせいだろうか、
「あっ」
私の背に回した両腕をぱっと解き、彼は焦った顔で弁解を始める。
「そのっ、そういう意味じゃなくて!」
そういう意味ってどういう意味。
「君の……信頼とか、誠実さとか…………未来が欲しい」
「……未来……」
今、見つめ合う瞳が合わせ鏡となり、世界が無限に広がった……気がした。
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