おひとりさまの準備してます! ……見合いですか?まぁ一度だけなら……

松ノ木るな

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最終話 おひとりさまを目指すなら、まず……

⑬ セレモニーの準備してます!

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「お姉様、そんな地味なお化粧で新婦が務まりますの?」
「真っ白なドレスに派手な化粧はそぐわないでしょう?」
「いえ、ものは魅せようです。私に任せて。化粧筆はどこ?」

 大聖堂近くの借り部屋で、あと少しで始まろうとする式の準備中だ。メイドたちが入れ替わり立ち代わり、私を私のわりには絢爛けんらんな花嫁に仕立て上げた。アンジェリカも大いに意欲を持って朝早くから付き添い、ここはせわしない女の園。

「外が騒がしいわね」
「子どもたちも大勢参列しますからね。みんなではしゃいでいるのでしょう」
「お父様は?」
「ゲストへの挨拶で忙しくされているようです。そういえばお姉様、今夜からノエラ邸の方へ移るのですよね」
「え、ええ……」

 彼女の言いようは何も含んではいないのだが、気恥ずかしくなって口ごもってしまった。

「あ、でも、お父様とはこれからも一緒よ。お父様の慈善事業グループに私も参入することになったから」

 私は培った医療方面の知識や技能で、お父様や他の方々のサポートをしていくことに決めた。師とも連携して新しい福利事業を起こすことも考案中だ。そしていつかはお父様の跡目として、団体のトップに就任することも視野に入れている。

 自分にできることを、着実に、やりがいを持って暮らしていかないと。ノエラ家に入っても、社交は変わらずシャルロッテ様が主に担っていかれるようだし、エイリーク様の修行は邪魔できないし。

「ああ、そういうところに落ち着きましたの」
「なによもう……。アンジェリカ、あなたが家を出る時まで、どうかお父様をよろしく頼むわね」

 私の頬に粉をはたきながら、アンジェリカは鼻から息を抜いた。

「思いのほか綺麗ですわよ、お姉様。お母様もお空の上で、今日の日を心からお喜びになっていますわ」
「あら、珍しく褒めてくれるのね」
 思いのほかは余計だけど。

「……あなたはお母様が好きだった? その……お母様に不満はなかった?」

「そうですわね……10になる頃には、あまり母親にべったりなのも恥ずかしくて、距離を置き始めた実感もありますわ。お母様、いろいろうるさかったですもの」

「あなたはそれほどわだかまりもなかっただろうけど、私は違うの。お母様に対する不満や反抗心を、持て余して苦しかったわ」

 アンジェリカは黙ってしまった。ただ私の次の言葉を待っていた。

「もちろん愛してくれていたと思う。私の幸せをいつも願ってくれていたから。それは確か。でも、その方法や表現が、正解ではなかった……かもしれない。子どもの立場でそんな判定を出すのは、おかしいかしらね。ただ甘やかされたかったって言いたいだけなのかも、私」

「何が正解かなんて結局は分かりませんし。正解なんて出したくて出せるものではなさそうです。でも私は、そのお母様に育まれたであろうお姉様の気質に、憧れを持っていますわ」

「憧れ?」
「だってお姉様は努力のできる人だもの」
 彼女は伏し目がちに続けた。

「私はどうも自分に甘くて、“まぁこの辺でいいでしょう”と何事にも手を抜いてしまうの。だから気付けば何事も、お姉様のができている。私の1.3倍ぐらい」

「それは私があなたの1.5倍がんばったから。1.5倍努力して1.3倍しか良くならなかったら、元の素質が劣るっていうことよ……」

「大事なのは結果ですもの、1倍のものより1.3倍のものを人は選びますわ。ちゃんと、見る目を持っている人なら」

「それをいったら、もしあなたが、私と同じだけ努力したら?」

 ここでアンジェリカは自虐的に小さく笑う。

「そんな“もし”を考えても仕方ありません。努力ができる、という資質は間違いなく“才能”ですわ。生来のものもあるでしょうし、お母様に厳しく躾けられた賜物でもあるのでしょう。そしてそれは、お姉様の生涯を素晴らしいものにする宝物のひとつです」

「…………」

 天がくれたもの、お母様がくれたもの。きっと誰しも、その人にぴったりとはまる、ギフトを授かっている。

 それをどう使うか、私たちには無数の選択肢がある。

「……これからも、大事にするわ」


 その時、ここの扉をノックする音が聞こえた。

「ああ、なんて美しいんだ、花嫁エレーゼ」
「あら、ジークムント様」
 相変わらず屈託のない輝かしい笑顔だ。

 彼は誕生会ののち仕事のため隣国に戻ったが、今回この日のためにまた帰省してくれた。颯爽と寄り来て、私の手を取りキスをする。
 ちょっとヒヤッとしてしまうのは、顔がエイリーク様と同じだからね?

「ジークムント様、ここは男子禁制ですわよ」

 アンジェリカがムスっとした顔で彼に詰め寄る。すっかり仲良しになったようだ。

「もう着替えも終わってるんだからいいだろう? ところで、すぐそこで昼寝をしていたら胸のコサージュがなくなっていたんだが。知らないか?」

「ああ、さきほど私、そこを通りかかりまして。見つけたので拝借いたしましたわ。いとこのジョイが本日リングボーイを務めますので、今は彼の胸に」

「おい、勝手に拝借するな」
「あなたは新郎と同じ顔なのですよ、少しでも目立つ要因を取り除かねばなりません」

「そんなのコサージュひとつ取ったって」
「じゃあマスクをお被りください。フランケンにします? それともドラキュラ?」

「君こそドレスのデザインがちょっと派手じゃないか?」

 ん──? ふたりの距離感ずいぶん近いわね。ああそっか、アンジェリカ相手にこういう態度取れる男性なんて、今までいなかったものね。

「さて、そろそろ行きましょうか」
 私はドレスの裾を踏まないよう淑やかを努め、立ち上がった。




 控えの間の手前で話をしているのは、お父様とシャルロッテ様。
「あら。とっても綺麗ね、エレーゼ」
「ありがとうございます」

 お父様は……無言で涙目になってる。お父様も今、幸せかしら。

「そろそろ私たちも中へ」
 アンジェリカが私に応援の目配せをし、ジークムント様と共に聖堂へ入っていった。

「では、私も式場内であなたの入場を待つわね」

 ああ、待って……。

「シャルロッテ様!」

 踵を返した彼女は「式を待ちきれないの」とでもいう表情にて、緩やかに振り向いた。

「あ、あの……」

 こういう機会でもなければ照れくさいので、今ここで言わせていただきます。

「エイリーク様をあんなに温かい、誠実な男性に育ててくださって、ありがとうございました。至らない者ですがノエラ家の一員として精進して参りますので、どうぞこれから、も……!?」

「エレーゼ可愛い! 可愛いわ! こんな女の子欲しかったの!」
 ぎゅうぎゅうに抱きしめられた。というか話最後まで聞いてください。

「もう私のことおかあさまって呼んでいいのよ! おかあさまって呼んでいいのよ!!」
 2回言われた。

「ほら、だからあなたと初めて会った時、わたし言ったでしょ。エイリークはイイ男だって!」

 美女のドヤ顔まぶしすぎるっ。今後もこういった感じか。一抹の不安があります。

 でもシャルロッテ様から結局、約束のティータイム同伴は頻度を減らそうと言われてしまった。ちゃんとふたりで過ごしなさいって……改めて言われると恥ずかしいわ。



**

 長いヴァージンロードを今、お父様と歩む。波が寄せるようにひたひたと。

 天窓から温かな光が幾重にも差し込み、ステンドグラスの返して放つそれは、この真っ白なドレスを時折淡く、鮮やかに色染める。

 お父様からエイリーク様に託された私はここで、人々の見守る中、永遠の愛を誓った。


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