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2枚め
彼、ブランドンはプライドが高く、商家の出の私を認めることはけっしてありませんでした。権威主義の塊で、金は湯水のように沸いて出るもの、との考えが透けて見える、日々の振舞い。
それでも私は構いませんでした。
彼の家は金を欲し、私の家は政界との繋がりを欲した、それだけですから。
彼が何人側女を囲おうとも、物わかりのいい冷静な妻を演じ続ける、それが使命──
しかし、じきにそうも言っていられない状況へ……。
彼はこの婚姻とほぼ同時期に、気に入りの愛妾を添わせておりました。男爵家のご令嬢だとかで、彼女は平民出の私にただならぬ優越感を抱いていたようでした。
夫と同年でいらっしゃるのだから、心根も大人びた女性を期待しておりましたが……とんでもない。
夫の寝室に呼ばれると、枕元には彼女の唐草色の髪が落ちていることが度々。それは私が片づければ済む話ですが……いえ気色悪い事この上ないですけれど。
実に困ったのは公的な場に出る時。夫の礼服の白地部分に生々しい形の紅を付けているのです。絶妙に見つかりにくく、見つかりやすい、そんな部分……ご想像できますでしょうか。
これは間接的に家長を陥れる行為だと、家令にも執事長にも知らせました。
しかし肝心の主人の目が曇っていますので改善されることはなく。
このようでは政敵にいつ付け込まれるやら、はらはらするばかりの16の私でありました。
窓から吹き入る涼やかな風が我々を癒す初夏の頃、私は17の誕生日を前に、身ごもった事実を知りました。実家の者はその僥倖に舞い上がります。
私とて不安がないといえば嘘になりますが、やはり喜びはひとしお……
しかし束の間、この先の私の道に影を落とすニュースが舞い込んでまいりました。
例の愛妾も、ほぼ同時に身ごもっていたというのです。
いつこのようなことが起きてもおかしくないですのに、衝撃を受けた私はまだ未熟な娘でありました。
私は祈りました。そちらのお子が女児であるように、と。これは神の領分でしょう。それだとしても。
願わくば私の子は、男児であるようにと……。
きっとそのような私に罰があたったのです。三月早く生まれた彼女の子は男児、そして私の子は女児でございました。
そして夫は何のためらいもなく、そちらの男児を後継者と定めたのでした。
それでも私は構いませんでした。
彼の家は金を欲し、私の家は政界との繋がりを欲した、それだけですから。
彼が何人側女を囲おうとも、物わかりのいい冷静な妻を演じ続ける、それが使命──
しかし、じきにそうも言っていられない状況へ……。
彼はこの婚姻とほぼ同時期に、気に入りの愛妾を添わせておりました。男爵家のご令嬢だとかで、彼女は平民出の私にただならぬ優越感を抱いていたようでした。
夫と同年でいらっしゃるのだから、心根も大人びた女性を期待しておりましたが……とんでもない。
夫の寝室に呼ばれると、枕元には彼女の唐草色の髪が落ちていることが度々。それは私が片づければ済む話ですが……いえ気色悪い事この上ないですけれど。
実に困ったのは公的な場に出る時。夫の礼服の白地部分に生々しい形の紅を付けているのです。絶妙に見つかりにくく、見つかりやすい、そんな部分……ご想像できますでしょうか。
これは間接的に家長を陥れる行為だと、家令にも執事長にも知らせました。
しかし肝心の主人の目が曇っていますので改善されることはなく。
このようでは政敵にいつ付け込まれるやら、はらはらするばかりの16の私でありました。
窓から吹き入る涼やかな風が我々を癒す初夏の頃、私は17の誕生日を前に、身ごもった事実を知りました。実家の者はその僥倖に舞い上がります。
私とて不安がないといえば嘘になりますが、やはり喜びはひとしお……
しかし束の間、この先の私の道に影を落とすニュースが舞い込んでまいりました。
例の愛妾も、ほぼ同時に身ごもっていたというのです。
いつこのようなことが起きてもおかしくないですのに、衝撃を受けた私はまだ未熟な娘でありました。
私は祈りました。そちらのお子が女児であるように、と。これは神の領分でしょう。それだとしても。
願わくば私の子は、男児であるようにと……。
きっとそのような私に罰があたったのです。三月早く生まれた彼女の子は男児、そして私の子は女児でございました。
そして夫は何のためらいもなく、そちらの男児を後継者と定めたのでした。
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