絶縁状をお受け取りくださいませ旦那様。~離縁の果てに私を待っていたのは初恋の人に溺愛される幸せな異国ライフでした

松ノ木るな

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「ありがとう、ステュアート」

 カーテンの裾からそっと出た私は、心を込めて礼をしました。

「あなたもお急ぎください。離縁することを一方的に発表し、アリンガム侯に大恥をかかせるのでしょう?」

「あなたはこれからどうしますの?」

「折角の、侯爵閣下と並んで記者の前に立てる機会です。思う存分おやりください」

 私の問いに答えるのを、彼はあえて避けたようでした。

「……あなたともこれで最後ね。ずいぶん長い間お世話になりましたわ。あなたはブランドンに命じられて私の機嫌を取っていたのだろうけど、私には、あなたとの時間はとても楽しいものだった」

 彼が何も言葉を口にしないのをいいことに、私は思いをつらつらと述べていました。

「見識も広がった気がして。ひとりで生きていく決心もついたわ。……私財も十分に貯められましたし!」

「あなたのお役に立てたなら何よりです」

「では、仕上げに参りましょう」

 ステュアートに手を取られ書斎を出た私は、のそりと階段を下りて行きました。

 記者が我こそ先にとホールに駆け入り声を上げます。美しい血筋の娘婿を意気揚々と見せびらかす夫の前に、私は勇んで踏み出しました。

(本当に、長かったわ。やっとここまで──……)

 夫を尻目に、私は声を張り上げました。

「記者のみなさま、本日は我がアリンガム邸までご足労いただきまして……」





 翌々日の各社新聞記事一面は、私の宣言した、夫への長文絶縁状で占められました。

 ええ、あの時の夫の顔ときたら。

「ルシールっ……貴様! なにも今ここでっ……このような!!」

 このうえなく狼狽し、ろくな言い訳もできない夫に、もしかしたら多くの貴族男性は同情心を寄せたかもしれません。

 若い貴公子のなかには「女の人は強い……」と立ち呆ける方も。その若い方々にはよく見て知っていただいて、ご夫人を大事にしていただきたいものですわね。

 この騒ぎは瞬く間に世間に広まりまして、夫が王家から小言を頂き監視を受ける結末は必定でございます。

 私が貴国へ渡ることもすべて紙面で語られております。離縁の手続きを依頼した弁護士のところまで取材がいっていたようで。

 アリンガム家この先の運命はどうであるか……私には皆目見当もつきません。

 ともあれ、まったく晴れ晴れしい気分です。思い残すことはございません。貴国ではしばらく留学生として、国の歴史と、あとは建築を学ぼうかと。以後の身の振り方を考えながら──。

(あら、扉をノックする音が……)


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