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第1章:ジャストール編

第1話:邪神との出会い

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「なんか、後味の悪いゲームだったな……」

 俺は据え置きのハードからディスクを取り出してケースに戻す。
 マーケストという架空の世界で勇者が魔王を倒すありがちな、RPG。
 まあ、勇者というか王子だったけど。
 光の巫女となった伯爵令嬢と一緒に、魔王を倒して結婚してハッピーエンド……
 かと思ったら、魔王を倒した直後に邪神が復活して、世界が崩壊して終わった。
 とにかく、なんというか……

 まず魔王が、王子の友達というのも。
 男爵家の次男。
 名前はルーク。
 兄と双子の弟と妹の4人兄弟。 

 ルークは魔力が扱えず、魔法が使えない落ちこぼれ。
 魔力が扱えない代わりに、身体能力はずば抜けていたが。
 バフなしで、バフマシマシの級友たちを剣で圧倒するレベル。
 自己評価が低く、いつも控えめなウジウジとした性格の青年。
 それを、底抜けに明るい王子が気にかけて、仲良くなっていく。
 思わずやめようかと思うほど、このどうでもいいパートが多い。
 会話シーンも。
 あまり冒険してない。

 そして、ルークには想いを寄せる相手が。
 伯爵家のとある令嬢。
 まあ、後の光の巫女なのだが。

 ルークなりに頑張って話しかけたりして、徐々に仲を深めていく。
 
 その後も立て続けにルークの身に降りかかる不幸。
 彼が学校に通っている間に、実家が盗賊に襲われて家族全員が虐殺される。
 王子との縁もあり、王が彼を引き取ったが……

 その身体能力の高さゆえに、肉体強化の魔道具を普通の兵士が使える身体強化の魔法の代わりにして、彼を戦場の最前線に立たせる。
 まだ学生である彼は、半ば強制的に学校を途中で卒業させられ戦場へと送り込まれた。
 そうした日々を送る中、彼が想いを寄せる女性が王子と婚約したとの噂が。

 最初は彼も親友である王子ならと我慢していたが、彼の前でも遠慮することなく彼女にベタベタと接する王子に徐々にストレスを感じ始める。
 鬱憤を晴らすかのように戦場で、人を殺し続け……やがて彼は人として壊れ始める。

 そんな中で徐々に明らかになってくる事実。
 もともとルークの潜在能力を知っていた王は、彼を手に入れるために彼の家族を殺したのだ。
 ただの賊に男爵家の私兵がと当初は愕然としていた彼だが、王直属の部隊の仕業だとわかると納得できた。

 そして彼女に対して恋心を抱いていたのはルークだけでなく、王子もまた同じであった。
 だから彼女と仲良くなるルークに嫉妬して、彼を遠い戦地に送り込むよう王に進言したのも彼だ。
 彼女を王族の権力を全力に使いつつ、半ば強引に婚約を認めさせ先に関係を持つことで完全に縛ったという話も……

 彼の憎悪は自身の生まれた国、そして王と王子へと向かう。
 
 その憎悪が限界を超えた時、彼のうちに秘められた魔力が解放され暴発し彼は魔王へと至った。
 もともと魔力がなかったわけではない。
 大きすぎる魔力ゆえに、生まれた直後に死の危機に直面するレベルだった。
 それを強引に封じこめた結果、彼は魔力を一切放出することができなくなっただけだったのだ。

 もちろん、その話は王も知っており……魔王の誕生を王は喜んだ。
 彼の体内に魔力の封印とともに、埋め込まれた魔王の核。
 それを用意したのもまた王であった。

 すべては邪神が仕組んだことだったのだ。
 そして光の神に認められた彼女は、その力で王子の囚われた心だけは解放することができた。
 彼がまだ純粋にルークを友達だと思っていたころの心に。

 その後は、王子と巫女が力を合わせてルークを倒す。
 王子は彼を倒すことが自分の罪滅ぼしだと言いながら。
 都合がよすぎて、反吐が出る。
 もはや、この時点で俺は主人公に感情移入ができなくなっていた。

 むしろルークの方に同情しまくっていた。
 そもそも、王がルークに魔王の核を埋め込んだ意図も明らかになっていない。
 ところどころ、納得のいかない展開も多すぎる。
 ルークにとって、逆ご都合主義とでもいうべきか。
 なるべくして、なった結果だ。 
 しかも、周りの人たちのせいで。

 それでも、魔王を倒すのはゲームの王道だしと、無理やり自分を納得させたのだが。
 魔王を倒したあとでの、まさかの大どんでん返し。
 そのルークのポテンシャルを秘めた体を乗っ取り、邪神が顕現。
 一瞬で王子を消し飛ばし、巫女を叩き潰し、光の女神を嚙み砕き、眷族を召喚し世界を滅ぼして終わり。
 ひどすぎる。

 俺はディスクの入ったケースを、まるごと叩き潰した。

「クソゲーすぎる」

 なんでこんなゲームをやったのか。
 なぜか、街並みや世界観に懐かしさを感じたというのもある。
 フリマでタダ同然で買ったゲームにしては、いろいろとストーリー以外のクオリティが高かったのだ。
 大学の長い長い夏休みではあるが、生産性がなさすぎる作業だった。
 無駄に時間はあったが、捨てるようなものでもない。
 俺の、貴重な時間を返してほしい。

『これで、事前知識はバッチリだな』

 ……

『無視をするな』

 このゲームを買ってから、幻聴がよく聞こえるようになった。
 やっぱり、脳外で検査受けた方がいいかな?
 精神を病むような生活はしてないから、腫瘍とかだったら怖いなー。

『では、マーケストへといざ旅立たん』

 俺の考えを無視するかのように幻聴がそう叫んだ瞬間に、俺は真っ暗な闇に包まれた……かに思えた。

『といいたいところだが、ここで突如お前がいなくなれば不都合も多いだろう。未練も残るであろうし、家族も悲しむ』

 何がしたいんだ、この声の主は。

『今生をしっかりと生き抜いたのちに、マーケストへと旅立とうぞ』

 とりあえず、余生は過ごせるらしい。
 言ってる意味が、半分も……言い過ぎだな、全く理解できなかったが。

『ちなみに、わしがそのゲームに出てきた邪神な。まあ、本来は破壊と終焉を司る神であるのだが……イメージだけで邪な神扱いとはひどい奴らじゃったわ』

 うん、破壊と終焉を司っていたら邪神といわれても仕方ないと思うけど。
 
***
「おじいちゃん!」
「お父さん!」
「じいちゃん!」

 なんだかんだと99歳の大往生だった。
 子や孫、ひ孫に囲まれて逝けることを邪神に感謝して、ゆっくりと生涯に幕を下ろす。

『よし、死んだな! 行くか? すぐ行くか?』
「はあ……この国では49日は準備やらお別れの時間がいただけるのだが?」

 空気を読まないものが約1名。
 いや、一柱か?

『まあ、ここまで待ったのじゃ。49日などすぐじゃな……にしても、長生きしおってから』
「わしも、ここまで生きられるとは思わんかったよ」
『よい、それなりに充実した人生を送れたようでなによりじゃ。これから送る人生は、過酷なものであるかもしれんが……ここで得た経験や知識を生かして乗り切ってみせよ』
「何の因果か、死んですぐに輪廻転生の輪に組み込まれるとはのう」
『違うぞ? 本来のあるべき人生に戻るだけじゃな。こっちが寄り道だったのじゃよ』

 昔は孫と祖父みたいなやり取りであったが、いまじゃ爺同士の会話じゃな。
 まあ、いろいろとアドバイスをもらえたからな。
 感謝はあっても、悪く思うことはない。
 たとえ邪神であっても……彼がいなければ、いかに世界が生きにくくなるかも理解したいまとなってはな。

 こうして、伊勢いせかいとしての人生を終えたわしは、本来の人生へと戻ることとなった。
 

 
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