79 / 123
第3章:覚醒編(開き直り)
第26話:集団行動
しおりを挟む
「しかし、ポルトガフという男はよく分かっておるな」
「まあ、フォルスがいる時点で、何があっても対処できるとは思ってたけどさ」
俺の後ろを、見慣れない青年と少女がついてきている。
そのことについて、リック殿下が少し訝し気な表情を浮かべていたが。
それよりも、二人とも少し黙ってもらいたい。
割と際どい話題なのだが。
フォルスからの報告で、ポルトガフ辺境伯がいま国境でジェファードとリカルドを足止めしているとのこと。
ジェファードというのは、ベゼル帝国の第二皇子らしい。
でもって、リカルドは怪我を負って治療中と。
今日一日様子を見てから、明日ポルトガフ領を発つことになるとか。
本来ならばすぐにでも押し通るような雰囲気だったらしいが、ポルトガフ辺境伯の鋭い指摘にリカルドが逆上して斬りかかっただとか、口封じのために斬りかかっただとかよく分からないことになっていた。
でもってあっさりと防がれ、武器を奪われ返り討ちに。
うーん……これはリカルドが弱すぎるのか、ポルトガフ辺境伯が強かったのか。
両方か。
ポルトガフ辺境伯も、リカルドの弱さに驚いていたとのことだったし。
フォルスに確認したが、彼は何も手助けしていないとのこと。
やっぱりそういうことだろう。
「こちらのお二方は?」
ジェニファが代表して、聞きづらいことを聞いてきた。
それもそうだろう。
俺が用意した側の人間にしては、俺に対して気安すぎるからな。
領民であれば領主の息子である俺に対して、こんなぞんざいな言葉遣いで話しかけたりしないだろうし。
「ん? 我か? 我は、こやつの兄……みたいなものだな」
「私は姉ね」
思わず頭を押さえる。
正体不明の一般人っぽい人間が、貴族の兄や姉を僭称するなど。
色々と問題がある発言なのだが。
下手したら、普通に極刑もありえる。
アルトも2人のことは知っているというか、俺の兄や姉の代わりを名乗るのがどんな存在かは思い当たっているのだろう。
てっきりフォローに回ってくれると思ったのだが、困ったような表情で笑うだけでなんの役にも立たない。
いつもの頼もしい兄はどこにいったのだろう。
そしてアルトが何も言わない以上、周囲も深く突っ込むことができない。
リックですら、困った顔をしてアルトと俺とアマラとアリスを順番に見ている。
ただその後の表情は、興味を隠し得ないものになっていたが。
「もしかして、ゴート男爵に限ってそんなはず」
「だとしても、オープンすぎないかしら」
「妾の子というわけでは……お二人よりも年上っぽい理由が思いつきませんし」
「ということは、やはり……」
エルサとクリスタの妄想が捗っているようで、なんというか。
とりあえず咳払いして、視線を2人から逸らさせる。
「物凄くお世話になっている方たちだよ。血は繋がっていないけど、僕を弟のように可愛がってくれているのは間違いないかな?」
「まあ、いずれ弟になるのだからなっつ……痛いではないか!」
アマラが調子に乗った発言をするものだから、思わずお腹に肘をぶちこんでしまった。
全然効いてないくせに。
というか、流石は竜種。
物凄く固いゴムのタイヤを殴ったような感触だ。
「照れておるのか?」
「兄上、この人ものすごくうざいです」
アルトに助けを求めてみたが、苦笑いしか返ってこなかった。
お兄様、もう少し頑張ってくれませんかね?
「私は大丈夫よね? こんなに可愛い姉で幸せだよね」
「はい……そーですね」
アリスが後ろから抱き着いてきて、ニッコニコの笑みを浮かべている。
正直、こっちもこっちで鬱陶しい。
というか、こっちは自由過ぎて本当に扱い辛い。
もう少し、まともな性格の神様はいないのだろうか。
ほら、ジェニファが凄い顔で見てるから、離れて。
そっとアリスの手を取って、スッと払って、サッと離れてみた。
しかし、回り込まれてしまった。
姉からは逃げられないというやつか。
というか時空を司るのズルいな。
逃げられる気がしない。
「いま、あの子消えなかった?」
「やっぱり、普通じゃないってことか」
「もしかして、ルークとアルトの師匠とかだったりして」
ビンセントが割と鋭いことを言っている。
加護を与える存在として、色々と俺達兄弟の戦力増強のお手伝いはしてもらっているな。
領軍の加護も、彼らの口添えで捗っている部分もあるし。
しかし、目立つ集団が余計に目立つ集団になってしまった。
大通りが、歩きやすくて仕方ない。
みんな、道のヘリを歩いてくれるから堂々と真ん中を……アーケード屋根がない場所を歩く羽目になってるんだけどね。
なぜか、僕たちの周りには影が出来ていて、特に暑いというわけでもないからいいんだけどさ。
ジェノスの方を見ると、笑顔で頷いてきた。
まあ、いいんだけどさ。
あまり目立つなと言いたいが、誰も気にした様子がないし。
「ちょうど、影が差してくれてよかったですね」
なんて呑気なことを言っている子もいる。
リーナだ。
いつまで一緒にいる気なのだろうか。
いつまでもですか……
フォルスがいる限り。
そのフォルスなら、さっき国境の方に向かったんだけどね。
直接の確認と、細工の為に。
細工といっても、闇の精霊をふんだんに配置するとかなんとか。
森で急に視界が真っ黒になったら、さぞや面白いですね。
渓谷が近くにあった記憶が。
などと物騒なことを言っていた。
転移で行って、ささっと指示を出して戻ってくるから時間はかからないと言っていた。
たっぷり時間を掛けてもらっても構わないんだけどね。
リーナをチラリと見る。
ジェニファとだいぶ打ち解けているようで、何より。
ただ、フォルスがリーナを見る目がどこか険しい。
そこまで嫌わなくともと思わなくもないが、どうも理由はそれだけじゃなさそうだ。
俺の視線に気づいたフォルスが、微かに笑みを浮かべて感情を消す。
何を隠しているのやら。
「もし、私が親元を離れてフォルス様と結ばれるなんてことがあったら、ジェニファ様の侍女に立候補させてください」
「まあ、なぜ私の?」
「夫婦そろって、同じ家に尽くすって素敵じゃないですか?」
「同じ家……そうですね。おかしなことじゃないですが、できれば家に入って旦那様に尽くした方が良いと思いますよ?」
「でも、職場でもお会いしたいというか……仕事をされておられるフォルス様がかっこよすぎて」
「ふふ、面白い子ですね。でもお気に入りの侍女のために主が一肌脱ぐというのも普通ですね。であれば、私はルーク様の傍になるべくいないといけないのですね」
おいおい……
馬鹿な会話をしてないで、本当に空気を読んで帰ってくれと言いたくなったが。
ぐっと堪える。
流石に、メンバーに馴染みつつあるから、それは可哀想だと思ってしまった。
仲間外れみたいで……
そして、今度こそフォルスが嫌そうな表情になっていた。
ただ、純粋に危険が迫っているから。
なるべく、親しくない子達にはそれぞれの家か領地に戻ってもらいたい。
俺と一緒にいることで、マークされるのは拙い。
けど、今日は特別あれだな……叔父の仕事が捗っているというか。
俺たちを見張っている人の数が、いつもよりかなり少ない。
ポルトガフ領でのことを、叔父も知っているのかもしれない。
となれば、リックの耳に入るのも時間の問題か。
となると、リーナももう手遅れか。
……ガッツリ一緒にいるところを見られてるから、こうなったら手元に置いておいた方が安全か?
「公私ともに常に一緒にいられるなんて、素敵じゃないですか」
呑気にジェニファとありえない未来を想像して、あれこれと話を弾ませているが。
本当に幸せそうだな。
頭の中が。
それはそうと、リーナが言外にジェニファの傍に仕えるのはフォルスを見るためと言っていたのだが。
対するジェニファは、それを不快に思うどころか口実に傍にいる時間を増やそうとするとは。
ジェニファはどこまで本気なんだ?
悪い気はしないし、嬉しくもあるが。
本気で俺と結婚する気なのだろうか?
まだ付き合ってもいないが、お家柄向こうが公爵の力を使ってごり押してきたらうちは断れないからな。
多少は現実的にそういった未来を視野に、動いた方がいいか。
ちょっとワクワクする反面、不安も多いが。
万が一フォルスにリーナが嫁いだ場合、どっちが立場が上なのだろうか?
神の嫁と、神の主の男爵家の次男のの嫁。
いずれ神になる可能性があるとはいえ、いまはまだ普通の人だし。
「というか、ルークの周りってちょっと異常じゃない?」
「私たちは別として、公爵家の御令嬢に、二大侯爵家の子息令嬢がご兄弟セットで……そのうえ、第二王子と辺境伯家の御嫡男まで」
「その中心がアルト様とルークという、今を時めく話題のジャストール兄弟。というか、下手したら入学当初のリカルド殿下以上に、王子っぽくない?」
しょうもないことを考えていたら、エルザとクリスタの会話が聞こえてくる。
これまた物騒な会話だ。
陛下が聞いたら顔を顰めかねない内容であるにも関わらず、2人の表情には面白がるような笑みが浮かばれている。
いくら貴族の子供とはいえ、しょせんは子供か。
学校でのちょっとおしゃまさんな姿を見ているからか、とても可愛らしく感じるな。
「むぅ」
「ジェニファ様?」
「いえ、ルーク様が愛おしそうに他の女性に目を向けていたもので……つい」
ため息が出そうになったのをぐっと堪える。
周囲の女性陣の会話に、面映ゆいような感覚を覚えつつ気を逸らすようにマリアを見る。
相変わらず、キーファにべったりだな。
お互いに他人行儀なような言葉遣いで会話しているが、その表情を見るに関係性は普通の姉弟だな。
ちょっとシスコン、ブラコン気味ではあるが。
当人たちが気にしていないので、別にいいか。
さてと、この先はちょっとアルトとフォルスに任せて、こっちはこっちで動かないとな。
この辺りに潜んでいる連中だが、残念なことに奴らが打ち合わせをしていた何気ないお店は全て俺の息が掛かっているからな。
怪しい連中の情報は、軒並み揃っている。
いくら上手に隠しても、当事者が不用心では意味がないな。
まあ、いかにも客の少ない場末の隠れ家的バーの店主が、まさか領主の息子の子飼いの情報屋だとは思いもよらないだろう。
市勢の情報を集めるには、こういったお店でもたらされる会話の方が有用だったりするからな。
といっても、この町の人間はみな俺に協力的だ。
逆に俺に対して非協力的なお店は、それだけで黒ってことだ。
そういったお店は独自調査して、黒いお店なら潰して回った。
そして、他国のスパイ等が紛れているお店は、それとなくこっちから人を送り込んでいる。
少し酒が入った状態で向かわせて、俺やこの町の不満をさんざん愚痴らせただけで簡単に信用してくれる。
根ほり葉ほり情報を聞き出そうとしてくるが、それを逆手に取ってこちらからも情報を集めさせたからな。
それも無駄になりそうだ……
本日早朝にめぼしい連中が、そろって町の官吏隊の詰め所前に寝かされていたらしい。
ご丁寧に、隣国からのスパイとの書付と一緒に。
叔父の能力を上方修正する。
となると、こっちはこっちでやるべきことに集中できる。
本当にありがたい。
どうせリカルド達が、ヒュマノ王国に入るまで2日は掛かるだろう。
2日あれば十分だ。
すでに王都にはジェノスが報告に行っている。
父にも報告済みだ。
今頃大慌てで、アイゼン辺境伯への後詰の兵を集めているところだろう。
精霊や神の加護持ちの精鋭を、たっぷりと……
先陣は、虎の子のエアボード部隊だな。
軍事用に改良を重ねた、超高高度を高速移動できる改良ボード。
風よけの魔法だけでなく、シールドもつけている。
現地についたら、推進装置とシールドを切り離して小回りの利く動きを得意としたスタイルに変形。
やっぱりメカは変形してこそだよな。
思わぬ副産物だが、長距離移動とマッハでの移動に耐えうる強度を持たせたそのボードは盾としても優秀だ。
幅広のボードで底が尖った形状に敢えて作り替えて、現地で地上での白兵戦に移行したときに盾として使用できるように。
足をホールドするための装置が、そのまま取っ手に早変わりする。
さらにエアボードとしての特性として、風属性の魔石が組み込まれているため多種多様な攻撃に対応できるし攻撃手段としても利用可能ときた。
純粋な軍事用品としてのエアボードの完成だ。
もともと娯楽用に作ったものだが、周りから軍事用品という疑いを持たれていたしな。
まあ建前上、そういった名目で開発したことにもなっている。
現在は本当にスポーツ用品としての需要や認知が高まり過ぎて、そんなことは記憶の片隅にでも押し込まれていたが。
これでエアボード部隊が最前線で活躍したら、何も知らない周囲から見たら面目躍如となるのかな?
開発者の思惑とは違うが。
リカルドと隣国の第二皇子には、少し痛い目を見て反省してもらおうか。
どうにか光の女神の魔の手から救い出さないといけないとは思うが、それ以前に王族として2人とも未熟というか短慮というか。
本人たちにも、反省する部分が大きすぎる。
その辺りを、うまいこと分からせつつ助け出すのが、第一優先だな。
ただ救うだけじゃなく、今後の為にも2人から甘えと傲慢な自尊心を砕かないと。
光の女神?
ああ……そっちは、もうなんていうか……潰してやりたいという気持ちが、無いといったら嘘になるかもしれないが。
第二の人生でだいぶ怒りも薄れているし、何より俺が原因の部分が少しでもある以上は多少は思うところがある。
といっても彼女はやりすぎだし、最初の人生の不幸の原因の全てが彼女だからな。
俺との相性が良すぎての最悪の結果ともいえるが、彼女自身の本質にも問題があったわけだし。
俺と彼女が混ぜるな危険の性質を持ち合わせていた。
全部が全部、彼女が悪いわけじゃない。
俺を選んだのが失敗だっただけ。
そして……それでも、全部彼女が悪い。
だから、こっちも正常な状態の彼女の為人を見て、罰の重さを決める。
罰を与えることは、確定事項だが。
承認欲求の高い神様ってのも、俗っぽいにもほどがある。
元が人間だとしても、もう少し煩悩を捨て去ってから神に昇格すべきだろう。
神様出世システムの、詳細が知りたい。
本質が善なら修正を図り、我欲が強い煩悩だらけの駄女神なら……できうる限りの制裁を行って無力化一択だな。
アマラならできるだろうし。
「まあ、フォルスがいる時点で、何があっても対処できるとは思ってたけどさ」
俺の後ろを、見慣れない青年と少女がついてきている。
そのことについて、リック殿下が少し訝し気な表情を浮かべていたが。
それよりも、二人とも少し黙ってもらいたい。
割と際どい話題なのだが。
フォルスからの報告で、ポルトガフ辺境伯がいま国境でジェファードとリカルドを足止めしているとのこと。
ジェファードというのは、ベゼル帝国の第二皇子らしい。
でもって、リカルドは怪我を負って治療中と。
今日一日様子を見てから、明日ポルトガフ領を発つことになるとか。
本来ならばすぐにでも押し通るような雰囲気だったらしいが、ポルトガフ辺境伯の鋭い指摘にリカルドが逆上して斬りかかっただとか、口封じのために斬りかかっただとかよく分からないことになっていた。
でもってあっさりと防がれ、武器を奪われ返り討ちに。
うーん……これはリカルドが弱すぎるのか、ポルトガフ辺境伯が強かったのか。
両方か。
ポルトガフ辺境伯も、リカルドの弱さに驚いていたとのことだったし。
フォルスに確認したが、彼は何も手助けしていないとのこと。
やっぱりそういうことだろう。
「こちらのお二方は?」
ジェニファが代表して、聞きづらいことを聞いてきた。
それもそうだろう。
俺が用意した側の人間にしては、俺に対して気安すぎるからな。
領民であれば領主の息子である俺に対して、こんなぞんざいな言葉遣いで話しかけたりしないだろうし。
「ん? 我か? 我は、こやつの兄……みたいなものだな」
「私は姉ね」
思わず頭を押さえる。
正体不明の一般人っぽい人間が、貴族の兄や姉を僭称するなど。
色々と問題がある発言なのだが。
下手したら、普通に極刑もありえる。
アルトも2人のことは知っているというか、俺の兄や姉の代わりを名乗るのがどんな存在かは思い当たっているのだろう。
てっきりフォローに回ってくれると思ったのだが、困ったような表情で笑うだけでなんの役にも立たない。
いつもの頼もしい兄はどこにいったのだろう。
そしてアルトが何も言わない以上、周囲も深く突っ込むことができない。
リックですら、困った顔をしてアルトと俺とアマラとアリスを順番に見ている。
ただその後の表情は、興味を隠し得ないものになっていたが。
「もしかして、ゴート男爵に限ってそんなはず」
「だとしても、オープンすぎないかしら」
「妾の子というわけでは……お二人よりも年上っぽい理由が思いつきませんし」
「ということは、やはり……」
エルサとクリスタの妄想が捗っているようで、なんというか。
とりあえず咳払いして、視線を2人から逸らさせる。
「物凄くお世話になっている方たちだよ。血は繋がっていないけど、僕を弟のように可愛がってくれているのは間違いないかな?」
「まあ、いずれ弟になるのだからなっつ……痛いではないか!」
アマラが調子に乗った発言をするものだから、思わずお腹に肘をぶちこんでしまった。
全然効いてないくせに。
というか、流石は竜種。
物凄く固いゴムのタイヤを殴ったような感触だ。
「照れておるのか?」
「兄上、この人ものすごくうざいです」
アルトに助けを求めてみたが、苦笑いしか返ってこなかった。
お兄様、もう少し頑張ってくれませんかね?
「私は大丈夫よね? こんなに可愛い姉で幸せだよね」
「はい……そーですね」
アリスが後ろから抱き着いてきて、ニッコニコの笑みを浮かべている。
正直、こっちもこっちで鬱陶しい。
というか、こっちは自由過ぎて本当に扱い辛い。
もう少し、まともな性格の神様はいないのだろうか。
ほら、ジェニファが凄い顔で見てるから、離れて。
そっとアリスの手を取って、スッと払って、サッと離れてみた。
しかし、回り込まれてしまった。
姉からは逃げられないというやつか。
というか時空を司るのズルいな。
逃げられる気がしない。
「いま、あの子消えなかった?」
「やっぱり、普通じゃないってことか」
「もしかして、ルークとアルトの師匠とかだったりして」
ビンセントが割と鋭いことを言っている。
加護を与える存在として、色々と俺達兄弟の戦力増強のお手伝いはしてもらっているな。
領軍の加護も、彼らの口添えで捗っている部分もあるし。
しかし、目立つ集団が余計に目立つ集団になってしまった。
大通りが、歩きやすくて仕方ない。
みんな、道のヘリを歩いてくれるから堂々と真ん中を……アーケード屋根がない場所を歩く羽目になってるんだけどね。
なぜか、僕たちの周りには影が出来ていて、特に暑いというわけでもないからいいんだけどさ。
ジェノスの方を見ると、笑顔で頷いてきた。
まあ、いいんだけどさ。
あまり目立つなと言いたいが、誰も気にした様子がないし。
「ちょうど、影が差してくれてよかったですね」
なんて呑気なことを言っている子もいる。
リーナだ。
いつまで一緒にいる気なのだろうか。
いつまでもですか……
フォルスがいる限り。
そのフォルスなら、さっき国境の方に向かったんだけどね。
直接の確認と、細工の為に。
細工といっても、闇の精霊をふんだんに配置するとかなんとか。
森で急に視界が真っ黒になったら、さぞや面白いですね。
渓谷が近くにあった記憶が。
などと物騒なことを言っていた。
転移で行って、ささっと指示を出して戻ってくるから時間はかからないと言っていた。
たっぷり時間を掛けてもらっても構わないんだけどね。
リーナをチラリと見る。
ジェニファとだいぶ打ち解けているようで、何より。
ただ、フォルスがリーナを見る目がどこか険しい。
そこまで嫌わなくともと思わなくもないが、どうも理由はそれだけじゃなさそうだ。
俺の視線に気づいたフォルスが、微かに笑みを浮かべて感情を消す。
何を隠しているのやら。
「もし、私が親元を離れてフォルス様と結ばれるなんてことがあったら、ジェニファ様の侍女に立候補させてください」
「まあ、なぜ私の?」
「夫婦そろって、同じ家に尽くすって素敵じゃないですか?」
「同じ家……そうですね。おかしなことじゃないですが、できれば家に入って旦那様に尽くした方が良いと思いますよ?」
「でも、職場でもお会いしたいというか……仕事をされておられるフォルス様がかっこよすぎて」
「ふふ、面白い子ですね。でもお気に入りの侍女のために主が一肌脱ぐというのも普通ですね。であれば、私はルーク様の傍になるべくいないといけないのですね」
おいおい……
馬鹿な会話をしてないで、本当に空気を読んで帰ってくれと言いたくなったが。
ぐっと堪える。
流石に、メンバーに馴染みつつあるから、それは可哀想だと思ってしまった。
仲間外れみたいで……
そして、今度こそフォルスが嫌そうな表情になっていた。
ただ、純粋に危険が迫っているから。
なるべく、親しくない子達にはそれぞれの家か領地に戻ってもらいたい。
俺と一緒にいることで、マークされるのは拙い。
けど、今日は特別あれだな……叔父の仕事が捗っているというか。
俺たちを見張っている人の数が、いつもよりかなり少ない。
ポルトガフ領でのことを、叔父も知っているのかもしれない。
となれば、リックの耳に入るのも時間の問題か。
となると、リーナももう手遅れか。
……ガッツリ一緒にいるところを見られてるから、こうなったら手元に置いておいた方が安全か?
「公私ともに常に一緒にいられるなんて、素敵じゃないですか」
呑気にジェニファとありえない未来を想像して、あれこれと話を弾ませているが。
本当に幸せそうだな。
頭の中が。
それはそうと、リーナが言外にジェニファの傍に仕えるのはフォルスを見るためと言っていたのだが。
対するジェニファは、それを不快に思うどころか口実に傍にいる時間を増やそうとするとは。
ジェニファはどこまで本気なんだ?
悪い気はしないし、嬉しくもあるが。
本気で俺と結婚する気なのだろうか?
まだ付き合ってもいないが、お家柄向こうが公爵の力を使ってごり押してきたらうちは断れないからな。
多少は現実的にそういった未来を視野に、動いた方がいいか。
ちょっとワクワクする反面、不安も多いが。
万が一フォルスにリーナが嫁いだ場合、どっちが立場が上なのだろうか?
神の嫁と、神の主の男爵家の次男のの嫁。
いずれ神になる可能性があるとはいえ、いまはまだ普通の人だし。
「というか、ルークの周りってちょっと異常じゃない?」
「私たちは別として、公爵家の御令嬢に、二大侯爵家の子息令嬢がご兄弟セットで……そのうえ、第二王子と辺境伯家の御嫡男まで」
「その中心がアルト様とルークという、今を時めく話題のジャストール兄弟。というか、下手したら入学当初のリカルド殿下以上に、王子っぽくない?」
しょうもないことを考えていたら、エルザとクリスタの会話が聞こえてくる。
これまた物騒な会話だ。
陛下が聞いたら顔を顰めかねない内容であるにも関わらず、2人の表情には面白がるような笑みが浮かばれている。
いくら貴族の子供とはいえ、しょせんは子供か。
学校でのちょっとおしゃまさんな姿を見ているからか、とても可愛らしく感じるな。
「むぅ」
「ジェニファ様?」
「いえ、ルーク様が愛おしそうに他の女性に目を向けていたもので……つい」
ため息が出そうになったのをぐっと堪える。
周囲の女性陣の会話に、面映ゆいような感覚を覚えつつ気を逸らすようにマリアを見る。
相変わらず、キーファにべったりだな。
お互いに他人行儀なような言葉遣いで会話しているが、その表情を見るに関係性は普通の姉弟だな。
ちょっとシスコン、ブラコン気味ではあるが。
当人たちが気にしていないので、別にいいか。
さてと、この先はちょっとアルトとフォルスに任せて、こっちはこっちで動かないとな。
この辺りに潜んでいる連中だが、残念なことに奴らが打ち合わせをしていた何気ないお店は全て俺の息が掛かっているからな。
怪しい連中の情報は、軒並み揃っている。
いくら上手に隠しても、当事者が不用心では意味がないな。
まあ、いかにも客の少ない場末の隠れ家的バーの店主が、まさか領主の息子の子飼いの情報屋だとは思いもよらないだろう。
市勢の情報を集めるには、こういったお店でもたらされる会話の方が有用だったりするからな。
といっても、この町の人間はみな俺に協力的だ。
逆に俺に対して非協力的なお店は、それだけで黒ってことだ。
そういったお店は独自調査して、黒いお店なら潰して回った。
そして、他国のスパイ等が紛れているお店は、それとなくこっちから人を送り込んでいる。
少し酒が入った状態で向かわせて、俺やこの町の不満をさんざん愚痴らせただけで簡単に信用してくれる。
根ほり葉ほり情報を聞き出そうとしてくるが、それを逆手に取ってこちらからも情報を集めさせたからな。
それも無駄になりそうだ……
本日早朝にめぼしい連中が、そろって町の官吏隊の詰め所前に寝かされていたらしい。
ご丁寧に、隣国からのスパイとの書付と一緒に。
叔父の能力を上方修正する。
となると、こっちはこっちでやるべきことに集中できる。
本当にありがたい。
どうせリカルド達が、ヒュマノ王国に入るまで2日は掛かるだろう。
2日あれば十分だ。
すでに王都にはジェノスが報告に行っている。
父にも報告済みだ。
今頃大慌てで、アイゼン辺境伯への後詰の兵を集めているところだろう。
精霊や神の加護持ちの精鋭を、たっぷりと……
先陣は、虎の子のエアボード部隊だな。
軍事用に改良を重ねた、超高高度を高速移動できる改良ボード。
風よけの魔法だけでなく、シールドもつけている。
現地についたら、推進装置とシールドを切り離して小回りの利く動きを得意としたスタイルに変形。
やっぱりメカは変形してこそだよな。
思わぬ副産物だが、長距離移動とマッハでの移動に耐えうる強度を持たせたそのボードは盾としても優秀だ。
幅広のボードで底が尖った形状に敢えて作り替えて、現地で地上での白兵戦に移行したときに盾として使用できるように。
足をホールドするための装置が、そのまま取っ手に早変わりする。
さらにエアボードとしての特性として、風属性の魔石が組み込まれているため多種多様な攻撃に対応できるし攻撃手段としても利用可能ときた。
純粋な軍事用品としてのエアボードの完成だ。
もともと娯楽用に作ったものだが、周りから軍事用品という疑いを持たれていたしな。
まあ建前上、そういった名目で開発したことにもなっている。
現在は本当にスポーツ用品としての需要や認知が高まり過ぎて、そんなことは記憶の片隅にでも押し込まれていたが。
これでエアボード部隊が最前線で活躍したら、何も知らない周囲から見たら面目躍如となるのかな?
開発者の思惑とは違うが。
リカルドと隣国の第二皇子には、少し痛い目を見て反省してもらおうか。
どうにか光の女神の魔の手から救い出さないといけないとは思うが、それ以前に王族として2人とも未熟というか短慮というか。
本人たちにも、反省する部分が大きすぎる。
その辺りを、うまいこと分からせつつ助け出すのが、第一優先だな。
ただ救うだけじゃなく、今後の為にも2人から甘えと傲慢な自尊心を砕かないと。
光の女神?
ああ……そっちは、もうなんていうか……潰してやりたいという気持ちが、無いといったら嘘になるかもしれないが。
第二の人生でだいぶ怒りも薄れているし、何より俺が原因の部分が少しでもある以上は多少は思うところがある。
といっても彼女はやりすぎだし、最初の人生の不幸の原因の全てが彼女だからな。
俺との相性が良すぎての最悪の結果ともいえるが、彼女自身の本質にも問題があったわけだし。
俺と彼女が混ぜるな危険の性質を持ち合わせていた。
全部が全部、彼女が悪いわけじゃない。
俺を選んだのが失敗だっただけ。
そして……それでも、全部彼女が悪い。
だから、こっちも正常な状態の彼女の為人を見て、罰の重さを決める。
罰を与えることは、確定事項だが。
承認欲求の高い神様ってのも、俗っぽいにもほどがある。
元が人間だとしても、もう少し煩悩を捨て去ってから神に昇格すべきだろう。
神様出世システムの、詳細が知りたい。
本質が善なら修正を図り、我欲が強い煩悩だらけの駄女神なら……できうる限りの制裁を行って無力化一択だな。
アマラならできるだろうし。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,556
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる