『よつばのクローバー』

うどん

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8.『一触即発』

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羽曇組本家の一室。
そこでワタシは、宿敵ともいえる一人の人物『犬木みずき』と再開した。

「よ・・・よつ・・・ば?」
襲撃されて昏睡状態にある組長のそばに居たみずきはワタシ達の居るほうに振り向き、ワタシの姿に気付いて驚く。

今後の人生、もう出会うことは無い・・・はずだった。
みずきも同じことを思っていたに違いない。
ワタシを完全な裏社会に送り込んだのはみずきなのだから。

ワタシはみずきと目が合う。
ワタシは今までのことを思い出していた。

するとご主人様が呟く。

「よつば、やめなさい。」

まわりには聞こえない声量で、ワタシにしか聞こえない程の声量。
ワタシの身体は無意識に拳を握り締め、無意識にみずきのほうに前進しようとしていた。
しかしその歩みをご主人様が止めていた。

ハッとしたワタシはすぐさまご主人様の後ろに下がった。

「・・・そやった、忘れてたわ。」

ジンがため息混じりで呟く。
ジンはワタシとみずきに因縁があることをすっかり忘れていたようだ。

「お嬢、先生来てもろたから診てもらうさかい、すんませんけど席外してもらえますか?」
ジンがみずきに席を外すよう進める。

「・・・わかった。」

そう言うとみずきはスタスタと部屋を出ていった。
ワタシはみずきを視界に入れないように俯いた。
先ほどの無意識に身体を動かそうとしていた自分が、無意識に拳に力を込めていた自分が、少し恐ろしかった。

ワタシはみずきを憎んでいたのを思い出していた。


パタンとドアが閉まる音が鳴る。

「よつば、あなたも出ていきなさい。」

「え?・・・で、でも・・・」

「命令です。今のあなたではただ邪魔になるだけです。出てなさい。」

ご主人様はワタシに部屋を出るよう命令した。
ご主人様はワタシの頭を撫でて言った。

「・・・気持ちを落ち着けてきなさい。」

「・・・はい、ご主人様。」

ワタシはご主人様の命令に従い部屋を出た。

すると部屋を出たすぐ横にみずきが立っていた。
ワタシはドキッとしたが、ご主人様の言った通り気持ちを落ち着けることに専念した。


ドアを挟んでワタシとみずきが立っている。

最初に口を開けたのはみずきだった。


「まさかお前と再会するとはね・・・」
みずきは微笑混じりに言った。
ワタシは言葉が出なかった。

「なんでお前がここにいるの?しかもよりによってここで・・・」

よく考えればそうだ。
ここは羽曇組本家でもあるし、みずきの祖父の家でもある。
みずきにとっては思い入れのある場所かもしれない。

「・・・医者の助手・・・してる。」
落ち着け。ご主人様から気持ちを落ち着かせろと言われている。冷静になれ。
ワタシは自分にそう言い聞かせた。

「お前が!?冗談でしょ!?」

みずきは少し驚いた様子だった。
それからしばらくの沈黙があったが、みずきは再び口を開いた。

「・・・私はまだお前を許してない。」

空気が凍りついたような感覚だった。

「一年前、お前がひまちゃんにしたこと・・・許してない。あの時はジンさんが来たし警察も来たから仕方なくジンさんに預けて手打ちにしたけど、私はまだ許してない。」

みずきは拳を握り締めながら、けど冷たく鋭い目がワタシを突き刺す。

約一年前、みずきがワタシのグループを壊滅させた一週間前。
ワタシはグループのメンバーにみずきを襲撃するよう指示した。
ただ、その現場にはみずきの幼なじみ『夏目ひまわり』も居たらしい。
みずきの襲撃には成功したが、幼なじみを巻き込んだことでみずきの逆鱗に触れたらしい。

みずきはかんなと手を組んで、たった二人で私のグループを壊滅させた。
そしてワタシは・・・。


「お前を殺すなってジンさんには釘をさしてたけど、まさかこんなカタチで生かされてるとはね・・・。」

みずきの口調が徐々に強くなっていく。

「私はてっきりお前が惨めに飼われてるかと思ってたよ。そう思うことで私は怒りを静めてきた。・・・けど、こんなのうのうと生きてるなんて・・・」

怒りが込み上げてきてるのがひしひしと伝わる。
けど、それはワタシも同じだった。


「・・・ごちゃごちゃうるせぇよ。」


「あ"ぁ?」

ワタシが呟くと、みずきはワタシの白衣を勢いよく掴んだ。
ワタシも咄嗟にみずきの服を掴む。


一触即発。

お互い拳を握り締め、今にも殴り合いが始まろうとした。
中学の頃のあの日々みたいに。

みずきが拳を振りかざそうとしたその時、一人の組員がみずきの拳を止めた。

「お取り込み中、申し訳ございません。お嬢、カシラからみずきお嬢の護衛をするよう言われました。舎弟頭の『木ノ芽 アケビ』と申します。」

舎弟頭を名乗るみずきの拳を止めた男は高身長でスタイルがいい。
顔も整っていてスーツが似合う、まるでメンズモデルかのよう容姿・・・。
とてもヤクザにはみえない。

「はぁ?護衛?・・・ったく、ジンさんったら・・・」
みずきは深くため息をついた。

私に護衛なんて必要無いと言いたげな表情だった。
でも組長の孫娘である以上そういう訳にはいかない。
それも本人は重々承知しているはず。


すると木ノ芽アケビがワタシのほうに目線を向けた。

「あんたともはじめましてだな。組がいつも世話になっている。」
木ノ芽アケビはワタシに軽く頭を下げる。

「あっ、いや・・・こちらこそ。」
ワタシも軽く頭を下げた。

「・・・で、二人とも分かってるとは思うが、ここは羽曇組本家。オヤジの大切な場所だ。暴れていい場所じゃない。」

みずきの拳をそっと下ろしたアケビ。

「・・・」

みずきは言葉を発しなかった。
するとドアが開いた。
出てきたのはご主人様だった。

「・・・よつば。」
ご主人様がワタシを見つめる。
けどご主人様の目は暖かいモノではなかった。

ひどく冷たい目。
まるで飼い犬が全くいうことをきかず、暴れる飼い犬を呆れた目でみるような・・・いや、そんな生易しいものじゃない。

失望。


ご主人様は「待て」や「おすわり」すら満足に出来ない飼い犬に失望している。

ワタシは我に返った。
「あッ・・・ご・・・ご主人・・・さま」

声が震える。
怖い。
脚が震える。
涙が勝手に出る。

自然とみずきの服を掴んだ手が離れ、ワタシはその場にへたりこんでしまった。

ワタシのおびえた様子にみずきは驚く。

「ご、ご主人様ぁ?」

するとご主人様はみずきを見て頭を下げた。

「みずきお嬢様。うちの者が大変失礼をいたしました。私からキツく言っておきますのでどうかご容赦ください。」

ご主人様はみずきに謝罪した。
いや、ワタシがご主人様に謝罪させてしまった。

ワタシは涙を拭い、すぐにその場でみずきに土下座した。

「も、申し訳ございません!!」

いきなりの変わりっぷりにみずきは戸惑っていた。

「え、いや・・・わ、わかった。わかったから!それより、おじいちゃんは!?」

みずきはご主人様に組長の容態を聞いた。

「意識はまだ戻っていませんが、命に別状はありません。ただ、頭を強打しているので、目が覚めても脳に影響が出るかも知れません。」

ご主人様はみずきに組長の容態を説明した。
命に別状が無いと知り、ホッと安堵するみずき。

「詳しくお伝えします。中にお入りください。」
そういうとご主人様はみずきを部屋に入れてドアを閉めた。

ワタシは土下座をしたまま、その場を動かなかった。

「・・・あんたも大変なんだな。」
アケビはそういうとその場を去って行った。

ワタシはみずきとご主人様が出てくるまで、ずっと土下座をして待っていた。


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