『ブラックボックス』

うどん

文字の大きさ
185 / 197
〜最終章〜

179.『電話』

しおりを挟む


ハナによって埠頭に連れられたリンとしおん。
そこで待っていたのはしおんの父親ユウゼン。

そしてしばらくしてカエデを拘束したシロサキがあらわれた。


しおんはこれまで以上の怒りを露わにしてユウゼンと対峙する。


それをただ傍観することしか出来ないリン。


シロ「どうしたクソ刑事?親子喧嘩を楽しもうよ。…なぁ、どっちが勝つと思う?」


シロサキは挑発するかのようにリンに話しかける。


リン「ふざけるな!!よくもこんなことを……ッ!」


シロ「心配しなくてもお前の番は来るよ。このガキを死なせたくないなら今は黙って見てな。」


カエデが捕らわれている以上、リンはシロサキの言われるまま傍観するしか出来なかった。



打開策を考えるが、いい策は何一つ思いつかなかった。



しおんとユウゼンの壮絶な殴り合いは続く。




一方、事務所に残されたみつれとよつばは構成員を全員制圧し、しおんとリンを追いかける準備をしていた。



よつ「これで全員片付いた……ったく、手こずらせやがって。」



みつ「急いで後を追うぞ。スマホ取ってくる。」



みつれは予めこうなる事を想定して小型電磁パルス発生装置の範囲外にスマホを事務所の外に置いてきていた。


みつれはスマホを回収しに一旦事務所の外に出た。


よつ「いやぁ…凄いなみつれさんは。…さて、とりあえずコイツらを縛っとかないとな。」


よつばは倒れている構成員達を一人ずつロープで縛り、目が覚めても動けないように固定した。



みつれはスマホを回収すると、カオリから着信が入っていることに気がついた。


みつれはカオリに電話を掛け直した。


みつれ「・・・もしもし、カオリさん。」


カオ「あぁ、みつれさん。お取り込み中だったようですね。」


みつ「えぇ。…どうしましたか?」


カオ「・・・実はエトと接触しましてねぇ。身柄を確保しました。」


予想外の内容だった。


みつ「今何処です?」


カオ「街から離れた廃墟です。こちらに来るなら居場所を送りますが。」


みつ「・・・いや、まだこっちが片付いていない。カエデが拉致されてしおんとリンまで連れていかれた。」


カオ「なるほど。それはこちらに向かっている場合では無いですね。では手短にお伝えし…………ん?」


カオリは投げ捨てたエトのスマホが光っているのが見えた。


カオ「ちょっと待ってください。」


カオリはエトのスマホを拾い上げる。



カオ「みつれさん、エトのスマホにリカから着信が入っています。直接お話出来るチャンスかも知れません。どうしますか?」


みつ「・・・繋いでください。私が話します。」



カオ「ふふっ、分かりました。」



カオリはスマホとスマホを重ねるようにした。


みつれはカオリとの通話越しにリカの声を聞いた。


リカ「・・・エト、私だ。孤児院の子ども達の薬は出来たか?明日アザミが帰って来る。その時に渡してやってくれ。・・・おい、聞いてるのか?」


エトから返事が無いことにリカは不審に思った。
みつれはようやく口を開く。



みつ「・・・お前がリカだな?」


数秒間沈黙が続く。



リカ「その声、知ってるぞ。……便利屋のみつれだな。なぜお前がこの電話に出ている?」


みつ「だいたい察しがつくだろ?……カエデを攫うようにシロサキに指示したのはお前か?」


リカ「・・・さぁな。だがお前らは我々の邪魔をし過ぎた。これ以上、生かしてはおけない。」


みつ「こっちのセリフだ。お前とは必ず決着をつける。待ってろ。」


リカ「・・・ふっ、楽しみにしてるよ。」



そう言ってリカは通話を切った。


リカ「・・・」


リカはすかさずどこかに電話を掛ける。


リカ「・・・すまないがエトのスマホの位置を調べてくれ。……あぁ、ありがとう。通達しておいてくれ。助かるよ。」


いつもとは違う柔らかい口調で話すリカ。

リカは電話を切り、次にシロサキに電話を掛ける。


リカ「・・・私だ。お前今何処にいる?」



シロ「埠頭です。ユウゼンにケジメをつけさせている最中です。」


リカ「みつれはどうした?」


シロ「ハナに始末させました。……どうかしましたか?」



リカ「・・・ならしくじったな。あの女は生きているぞ。それにエトを人質にとられた可能性がある。」


シロ「え!?……そんなはずは………」


シロサキは動揺していた。


リカ「始末し損ねたということだ。エトに電話を掛けたらヤツが出た………これがどういうことか分かるか?」


シロサキはさらに動揺し言葉が出なかった。



リカ「・・・ユウゼンを始末してこっちに戻ってこい。緊急事態だ、急げ。」


リカはシロサキの返答を待たず電話を切った。


リカ「・・・まさかエトまで辿り着けられたとはな……」



リカはタバコに火をつけた。





一方、リカとの通話を終えたみつれはカオリに安全な場所に逃げるように言った。


カオ「・・・確かにここは危険のようですね。移動することにしますので、手短にお伝えします。」


みつ「はい。」


カオ「結論から申しますが、残念ですがクスリで元に戻すことは不可能です。ハナさんに使われたクスリは『オビディエンス』ではありませんでした。」


みつ「・・・そうですか。わかりました。」


カオ「その感じ、分かっていた様子ですね。」


みつ「・・・ええ、薄々はそう思ってました。…経験者ですから。」


みつれもスイに『オビディエンス』を投与された過去がある。
その経験からクスリでは元に戻らないと薄々気付いていた。

しかし可能性はゼロと断言は出来なかった。
それにそれ以外いい案が出なかったのも事実。

僅かな可能性を賭けたが、その可能性はカオリにゼロと宣告された。



カオ「ふふっ、そういえばそうでしたね。けど今回使われたクスリはまた別のモノ。……はっきり言って粗悪極まりない代物でした。普通の人間なら確実に死んでしまいます。」


エトの様子を目の当たりにしたカオリは普通の人間では確実に死ぬと悟った。



みつ「・・・カオリさん、ありがとうございました。これ以上は本当に危険です。よつばさんをそちらに向かってもらいますのでどこか遠いところへ逃げてください。」



カオ「・・・それはもう御役御免…ってことですか?」



みつ「違います。恐らくこれから先は殺し合いになります。私たちの問題にカオリさんとよつばさんの命まで賭ける必要はありません。これまでのご協力本当に感謝しています。」



みつれは別れの言葉のようにカオリに言った。


カオ「ふふっ、なにを今更。ここまで来て引き下がれませんよ。それによつばが納得しません。私たちも最後まで付き合いますよ。」



みつ「・・・わかりました。とりあえずカオリさんはその場から離れてください。エトのスマホの位置を特定されて人を送ってくると思います。」



カオ「わかりました。エトからはもう得られるモノはなにも無いので置いていきます。構いませんね?」


みつ「はい。私とよつばさんは3人を助けに行きます。」


カオ「気をつけてくださいね。ではまた。」


カオリはみつれとの電話を切った。



カオリは横たわっているエトを見る。



カオ「・・・さよなら、エト。」


カオリは注射器を取り出し、エトの首元に挿した。



カオ「幸せな夢をみながら、眠りなさい。」




そう言ってカオリはその場から去った。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

月弥総合病院

僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...