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第2章 夏
◆カルリス戦争
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「ノエルのカルリス薄くね?」
カッチーン。
うちのカルリスはいつもこの濃度ですけど!?
っていうか、喜ぶかと思ってジェイさんからもらった鉱石でわざわざ錬金窯からアセリ飲料のカルリス原液を交換したんですけど!?
そもそも、朝から濃いカルリスなんて飲んだらそれこそ喉が焼けちゃうわ!
ほら見て?
ガチャ丸は既に飲み干したコップを掲げて「もっとちょうだい」的な顔してるし、しーちゃんは器に顔を突っ込んで夢中で飲んでるし、姫ちゃまは…うん、彼女は原液だから参考にならない。
「なぁ、そう思わねぇ?」
とシヴァさんが隣のジェイさんに話を振る。
ジェイさんはいつもの黒いローブのフードを目深にかぶり、無言で手元のコップを傾けていた。
中身は私が注いだいつものカルリス。濃すぎず、薄すぎず、ちょうどいい私の中の“黄金比”のやつだ。
「……俺は……ちょうどいい」
ドヤァァァァ。私は得意満面なドヤ顔でシヴァさんを見る。
「おう、それはジェイの舌が狂ってるだけだ。常識的に考えてな、カルリスは色が濃い方が美味いに決まって―」
「うちのカルリスはこれが正解なんだってば!!」
「いやいや、朝っぱらから薄味じゃ目ぇ覚めねぇって。もっとこう、濃くガツンと来るやつをよぉ!」
すると反対側からバッカスさんが片手に茶色い瓶をぶら下げながらやってくる。
「カルリスにはこれを入れると効くぞ!気分が華やぐ!」
「朝です。完全に朝なんです。やめてください」
そんな私の小言には一切聞く耳持たず、用意した黄金比カルリスにお酒を混ぜて「ふむ。やはり朝はこれくらいじゃな」とか呟いてるし。
ジェイさんがチラリとそのグラスを見てやや眉を顰めてさりげなく視線を逸らしている。珍しく分かりやすいジェイさんのNG。それでこそ味方。
私は新たにカルリス原液と水を用意する。とりあえず、濃さを4段階にして並べてみた。
薄味、ノエル濃度、濃いめ、そして超濃厚っていうか、もはや原液。
「んー…。これは薄いな。うおっ、これだ!これぞカルリスの黄金比!」
とシヴァさんは濃いめをぐびぐび飲んで満足げ。
「うん…朝は無理」と私は呟いた。
でも最後に、私の“黄金比”を口にすると―
「……ん?」
シヴァさんの眉が動いた。
「ん? あれ? ……うーん。こっちのが……飲みやすいかも…」
ほら見たことか!!
その瞬間、ジェイさんが再び無言で「ノエル濃度のカルリス」を手に取り、喉を鳴らすでもなくスイィーッと静かに一気飲みして、コトリとコップを置く。
それはたぶん―“正解”の音。
「……くっそ、俺の負け。朝はノエルの濃さが一番だよ。俺もおかわり!」と、シヴァさんが悔しそうに言う。
バッカスさんは「濃いほうが酒に合うんじゃがな~」とかブツブツ言いながら今日も元気に酒カス全開。
ガチャ丸も二杯目のカルリスが飲めて嬉しそうだし、しーちゃんも二杯目を飲みながら小さなお耳がピクピク動いて満足そう。姫ちゃまは…相変わらず原液にうっとり。まぁ彼女はしょうがない。放っておこう。
「なぁノエル」
シヴァさんが急にまじめな顔になる。
「この濃度さ…レシピ化したほうがよくね?“ノエリス”。売れるぞ?」
「絶対売れないです。しかも商品名に私の名前入れないでもらえます?」
「で、店名はカフェ・ド・ノエリスってどうよ?」
「話聞いてます?誰がやるんですかね、そのお店?私は畑で手一杯ですけど?」
っていうか、どうして朝からカルリスでここまで騒げるのか…。
「ふむ。なら儂が店を作ろう。して、カルリス、いや、ノエリスじゃったな、の開店じゃ!」
もはやカルリスを飲んでいるのか、カルリス割のお酒を飲んでいるのか分からないバッカスさんが参戦してきた。
「…そういえば」
私がふと視線を横に向けると、ガチャ丸が空になったコップを大事そうに抱えながら、私をじっと見上げてくる。
その視線の意味は、もうわかってる。
「はいはい、三杯目ね。今日だけよ」
ガチャ丸が両手を上げてピョンと飛び跳ねた。
マジ神。かわいいかよ。
こうして“カルリス戦争”は、謎の疲労感とともに幕を下ろした。
明日は絶対お味噌汁とご飯にしよう。
…でもその夜、シヴァさんが「ノエル濃度でもう一回確認したい」とかアホなこと言い出したから、取り敢えず殴っておいた。黙れ、小僧!
----------------
私はこれでリアルにケンカになったことがあります笑
今でもケンカをした相手とは「仁義なきカル〇ス戦争」としてその時のことが話題に上るほど良い思い出です。
皆さんも迂闊に他人のカルリス濃度を批判しないように気をつけて下さいね笑
カッチーン。
うちのカルリスはいつもこの濃度ですけど!?
っていうか、喜ぶかと思ってジェイさんからもらった鉱石でわざわざ錬金窯からアセリ飲料のカルリス原液を交換したんですけど!?
そもそも、朝から濃いカルリスなんて飲んだらそれこそ喉が焼けちゃうわ!
ほら見て?
ガチャ丸は既に飲み干したコップを掲げて「もっとちょうだい」的な顔してるし、しーちゃんは器に顔を突っ込んで夢中で飲んでるし、姫ちゃまは…うん、彼女は原液だから参考にならない。
「なぁ、そう思わねぇ?」
とシヴァさんが隣のジェイさんに話を振る。
ジェイさんはいつもの黒いローブのフードを目深にかぶり、無言で手元のコップを傾けていた。
中身は私が注いだいつものカルリス。濃すぎず、薄すぎず、ちょうどいい私の中の“黄金比”のやつだ。
「……俺は……ちょうどいい」
ドヤァァァァ。私は得意満面なドヤ顔でシヴァさんを見る。
「おう、それはジェイの舌が狂ってるだけだ。常識的に考えてな、カルリスは色が濃い方が美味いに決まって―」
「うちのカルリスはこれが正解なんだってば!!」
「いやいや、朝っぱらから薄味じゃ目ぇ覚めねぇって。もっとこう、濃くガツンと来るやつをよぉ!」
すると反対側からバッカスさんが片手に茶色い瓶をぶら下げながらやってくる。
「カルリスにはこれを入れると効くぞ!気分が華やぐ!」
「朝です。完全に朝なんです。やめてください」
そんな私の小言には一切聞く耳持たず、用意した黄金比カルリスにお酒を混ぜて「ふむ。やはり朝はこれくらいじゃな」とか呟いてるし。
ジェイさんがチラリとそのグラスを見てやや眉を顰めてさりげなく視線を逸らしている。珍しく分かりやすいジェイさんのNG。それでこそ味方。
私は新たにカルリス原液と水を用意する。とりあえず、濃さを4段階にして並べてみた。
薄味、ノエル濃度、濃いめ、そして超濃厚っていうか、もはや原液。
「んー…。これは薄いな。うおっ、これだ!これぞカルリスの黄金比!」
とシヴァさんは濃いめをぐびぐび飲んで満足げ。
「うん…朝は無理」と私は呟いた。
でも最後に、私の“黄金比”を口にすると―
「……ん?」
シヴァさんの眉が動いた。
「ん? あれ? ……うーん。こっちのが……飲みやすいかも…」
ほら見たことか!!
その瞬間、ジェイさんが再び無言で「ノエル濃度のカルリス」を手に取り、喉を鳴らすでもなくスイィーッと静かに一気飲みして、コトリとコップを置く。
それはたぶん―“正解”の音。
「……くっそ、俺の負け。朝はノエルの濃さが一番だよ。俺もおかわり!」と、シヴァさんが悔しそうに言う。
バッカスさんは「濃いほうが酒に合うんじゃがな~」とかブツブツ言いながら今日も元気に酒カス全開。
ガチャ丸も二杯目のカルリスが飲めて嬉しそうだし、しーちゃんも二杯目を飲みながら小さなお耳がピクピク動いて満足そう。姫ちゃまは…相変わらず原液にうっとり。まぁ彼女はしょうがない。放っておこう。
「なぁノエル」
シヴァさんが急にまじめな顔になる。
「この濃度さ…レシピ化したほうがよくね?“ノエリス”。売れるぞ?」
「絶対売れないです。しかも商品名に私の名前入れないでもらえます?」
「で、店名はカフェ・ド・ノエリスってどうよ?」
「話聞いてます?誰がやるんですかね、そのお店?私は畑で手一杯ですけど?」
っていうか、どうして朝からカルリスでここまで騒げるのか…。
「ふむ。なら儂が店を作ろう。して、カルリス、いや、ノエリスじゃったな、の開店じゃ!」
もはやカルリスを飲んでいるのか、カルリス割のお酒を飲んでいるのか分からないバッカスさんが参戦してきた。
「…そういえば」
私がふと視線を横に向けると、ガチャ丸が空になったコップを大事そうに抱えながら、私をじっと見上げてくる。
その視線の意味は、もうわかってる。
「はいはい、三杯目ね。今日だけよ」
ガチャ丸が両手を上げてピョンと飛び跳ねた。
マジ神。かわいいかよ。
こうして“カルリス戦争”は、謎の疲労感とともに幕を下ろした。
明日は絶対お味噌汁とご飯にしよう。
…でもその夜、シヴァさんが「ノエル濃度でもう一回確認したい」とかアホなこと言い出したから、取り敢えず殴っておいた。黙れ、小僧!
----------------
私はこれでリアルにケンカになったことがあります笑
今でもケンカをした相手とは「仁義なきカル〇ス戦争」としてその時のことが話題に上るほど良い思い出です。
皆さんも迂闊に他人のカルリス濃度を批判しないように気をつけて下さいね笑
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