女神のつくった世界の片隅で従魔とゆるゆる生きていきます

みやも

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第2章 夏

◆この串を託す:バッカスのお願い

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気持ちの良い夏の朝。草木はしっとりと朝露を抱き、朝日を受けてキラキラと輝いている、
空は限りなく青く、風は軽やかにハーブを揺らす。爽やかな香りが頬を撫で、ロープで渡したシーツ達が一斉に夏の空を泳いだ。

んんー気持ちいい!深呼吸をしてネイブルナルの夏を体いっぱいに受け止めていると―

「おーい、ノエル~」と遠くから私を呼ぶバッカスさんの声が。
「はいはーい」と返事をして向かうと、目下作業中の洞窟の入り口で、

「今日はどうしても食べたいものがあるんじゃ。それでな、儂、今から王都に行ってくるから準備して待っといてくれんかの?」と言い残し、とっとと外へ向かって出て行ってしまった。

ほどなく―

「突然バッカス殿が王都に現れたら騒ぎになりますので、先触れを出しますからぁぁぁーー!」

と、叫ぶようなリアムさんの声が続く。
ちょうどお店の前でバッカスさんと出くわしちゃったみたいね。
せっかくうちに来たのにバッカスさんを追って王都にとんぼ返りしなきゃなんて、大変申し訳ない。
けど、リアムさんならある意味任せても大丈夫という安心感がある。よろしくお願いします。

んじゃ、私は熱烈にリクエストされた「串カツ」の準備をしますか。

ちなみに、バッカスさんは魔道具屋さんで簡易のコンロを買って、専用の揚げ鍋も作って来るって言ってた。
鍛冶ギルド所属だから共有の鍛冶場を借りてくるってさ。
そこまでやるってことは相当「串カツ欲」が高まってるってことよね。
こりゃ気合い入れて作ってやらねば!

腕まくりして早速具材の準備。

焼き鳥の時も使ったジャックバードにササミそっくりグリーンサーペント、あとオーク肉、ヴァロクスで贅沢に牛串も作っちゃう!

お野菜はシイタケの代わりに精嶺茸(せいれいたけ)でしょ、それからアスパラ、ピーマン、玉ねぎ、あとリヴァティエ湿地で去年の冬に収穫したレンコンに、ガチャ丸が大好きなジャガイモ、あとは忘れちゃいけない紅ショウガ!!

紅ショウガって、春の梅干し作りの副産物の「梅酢」に漬けるだけだから、毎年必ず作るんだよね。
この梅酢がほんとに便利でさ、たとえば、夏が旬のミョウガを漬ければ、それだけで「ミョウガのピクルス」に。

そして、このミョウガピクルスで作るタルタルソースが、もんのすごく和の香りでさ、なかなかいいのよ。
ツンとした尖った酸味が本家のピクルスより夏にぴったりなの。

刻んでちらし寿司に入れてもいいし、南蛮漬けに一緒に加えるのもおすすめ。
そういえば今年は、なんだかんだで裏山にまだミョウガ採りに行ってなかったな。
早めに採取しに行かなくちゃね。

それはさて置き、瓶からいい具合に漬かった紅ショウガを取り出す。
うひょー、見ただけで唾液が溢れちゃうよ。
下処理した生姜を塊のまま漬けているそれは真っ赤っか。揚げたらおいしいだろうな~。

よし!野菜串はこんなもんかな。

最後は海鮮串の準備。
海老、それからホタテ、ツオロと、ハマグリに似た剥き身の大きな貝も。
これもソルショアで山ほど買って来たやつなんだけど、ソラクラムっていうめっちゃ美味しい出汁が出る貝なんだ。

それらを串に無心で大量に刺したよ。もう指先ヘロヘロ。
でも準備はまだまだこれで終わらない。

次は、バッター液。海鮮フライを作った時のアレね。
小麦粉、卵に水少々を混ぜ合わせて、と。

バッター液良し!きめ細かいパン粉良し!
では!!!
次々と衣を串に纏わせていく。

ふぅー。やっと終わったぁ~。
目の前の、あとは揚げるだけになった串カツの山を見て、充実感に満たされる。

(多分、これだけ作っても食べ尽くされてしまうんだろうな~)

みんなの食べっぷりを思い浮かべて思わず笑みが出た。
美味しい笑顔ってなんであんなに幸せなのかしらね。

「おいしい!」って目を輝かせる瞬間、それだけで「ああ、作ってよかったな」って、あたたかい気持ちになれるのよ。
癒されるって、こういうことなんだろうね。
わざわざ感想を言われなくても、あの笑顔ひとつで全部伝わってくる。
今は一時的にだけど、その癒しがうちにいっぱいいる。
みんなモリモリ食べるから作る方も楽しくて…。だから今日も、つい張りきってしまった。

それが目の前の串カツ(揚げる前)の山なんだけど…。
……ちょっと作り過ぎた…かも?
自覚したら急に――

(アタタタタ。ずっとキッチン立ってたから足パンパン)

足のむくみを自覚してしまった。早く温泉完成しないかな~♪
今夜は精油で足を揉もう。

そんなことを考えていたら、ちょうど―

「汗が止まらん。ほれ、できたぞい」と顔から汗を噴き出させているバッカスさんが帰って来た。専用の揚げ鍋とコンロを携えて。
「足りんといかんから3つ作っておいた。それから後で来るリアムにも馳走してやってくれんかの?王都で随分世話になってな」

あ、やっぱりリアムさん、相当苦労してたんだ…。
どんなことがあったのかはわからないけど、きっと並々ならぬ出来事があったんだろうなって、何となく察せられる。
私は心の中でいろんな意味を込めて手を合わせ、リアムさんに感謝した。


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気付けば串料理ばかり書いています笑
それもこれも串料理が美味しいのがいけないのだ!!
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