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はな

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「きょう、あいにいくからぁ~!」

 ──ん?
 えっ──、え?
 どゆこと?
 なんだか思考が追いつかないんですが──。
 今のって、日本語?
 日本語だよね?
 つか絶対日本語だったよね!?
 まさかのロサンゼルス公演で!?
 初日と2日目は「Make some noise, LA~!」って叫んでたはずの、いちばんの見せ場で!?
 キム・ジミンが、に、日本語を──!?

「ええあえうそほんとにまじでやばばばばばばば」
「ヤバいのはお前だよ」
「ハァ~……まったく、これだから、キム・ジミンは……」
「はじまった」
「アメリカで日本語喋るとか、というか世界中にシャウトしちゃうとか、もうどんだけ日本好きなのマジで尊い尊すぎて尊死案件キタコレすみませんおかわりもうイッチョいいですか!?なんですけど」
「このビールもらうな~」

 プシュッと缶ビールが開く音と共に、ほろ苦い香りが鼻をくすぐった。
 それは私が冷蔵庫から持ってきた私の缶ビールなんだけども、ちょっと今、それどころじゃないな──。
 だって、だってさぁ!
 たしかにこの耳は、こう聞き取ってしまったんです。


「響、会いに行くからぁ~!」


 ──いかん。リフレインが鳴り止まない。
 いやしかし、そんなことより、これじゃあまるで──。
 まるであたかも、この私に、今から会いに行くね~♡って、言ってるみたいじゃないですか!?

「律くん、非常事態です。エマージェンシーエマージェンシー」
「なに」
「なんとあのキム・ジミン様が、太平洋を越えて、この島国のこの辺境の地まで、この私に会うためだけに、はるばる来てくれるんだって……!!」
「あ、そう」

 「あ、そう」て。
 まあ当然だけども。
 まあもちろん冗談だけども、私の用意した私のビールを、ゴクゴクと喉を鳴らして、なんて美味しそうに──。

「つか、それ私のだし」
「この前ファンタおごったでしょ?」
「あ、そっか、じゃあそれでおあいこね♪」
「っバカ! 飲んでるのに揺するな!」
「ガッハッハ~~こぼせこぼせぇ~~!」

 ──そうは言っても、ビールがこぼれるのは私の部屋のカーペットなので、おふざけの域にとどめる。
 揺すられながらもビールをあおり続けるその根性に少し感服していると、ガチャリと突然、部屋のドアが開いた。

「響、なにやってんのよ」

 見れば、呆れ顔のお母さんが立っていた。

「なにって、律で遊んでる~」
「お母さん、大丈夫ですよ」
「……本当に?」

 ──ん?
 お母さん、どうした?
 律といつものようにジャレていただけなのに、なんだか顔がマジなんですけど。
 それに、部屋に入るときはいつも必ずノックしてくれるのに──。
 それによく見たら、なんとなくいつもより顔色も悪い気がするような。

「お母さん、どしたの? なんかあった?」
「……あんたの声が下まで響いてたわよ。夜なんだから、もう少し静かにして」

 あ、そっか、うるさかったか。
 よかった──いつもと変わりないお母さんだ。
 少し、いつもと様子が違うように見えただけ。

「わ、ごめん! 気をつけます」
「あんまりうるさいと、CatchYa(キャチャ)禁止令出すからね」
「大変申し訳ございませんでした」

 それは絶対にいやだ。というか、無理だ。
 すると、娘の懇切丁寧な謝罪にようやく満足したのか、今度は静かに部屋を出て行った。
 CatchYa禁止令──というかジミン様禁止令なんて出されたら、もう、生きてけない。
 なぜなら、今じゃその人気はワールドクラス、KPOP界を牽引するナンバーワンアイドルであるCatchYaのスーパースター、キム・ジミンこそ私の推し。
 そのジミン様が親日家だってのはファンにとっては周知の事実だったけど、今回の発言で彼の日本愛が世界中に知らしめられたということ。
 ごめん、ひと言言わせてくれ──うれしすぎる。日本人で良かったあー!

「There’s hope~♪ In your heart~♪」

 いま歌ってるこの曲も、すごく好きなんだよな~。かわいくて、しかもデキる末っ子、リュジュン君のソロナンバー。
 なぜなら、作詞作曲にジミン様も参加しているから!
 やっぱり何度聴いてもいい曲だな~。癒し系なリュジュン君にぴったりのヒーリングソングを、よくぞ作ってくれた。
 ──きっといまCatchYaのカリスマ担当は、ステージ袖でかわいい末っ子のパフォーマンスを、あのものすごく優しげな笑みで見守っていることでしょう。
 う~ん、てか今、SNSも荒ぶってるんだろうな~。

「ああ……ライブもちゃんと見てたいし、でも今すぐSNSで先程の案件に関してみんなと盛りあがりたい……これはもうどうすればいいの~!?」

 あぁ、なんて幸せな悩み、幸せな2択!
 ジミン様、いつもありがとう──!

「……あ」
「え、なに?」

 ここはひとまず、リュジュン君のダンスに見惚れていると、律が口を開いた。

「どうでもいいけどジミン、ツイッターでトレンド入りしてんね。どうでもいいけど」
「えっ、やっぱり~!?」

 律のスマホ画面を覗きこんでみると、ツイートとともに、例の見せ場の写真と動画がすでにたくさん上がっていた。

「ハッシュタグ、ジミン、謎の日本語、だって。どうでもいいけど」
「やっぱね~!しばらくはジミン様が、日本のツイッタートレンド席巻するね! 確実にYouTubeは関連動画が急上昇ランク1位取るだろうし、もちろんテレビでもニュースになるだろうね!」
「……そいつのただの一言が?」

 そ、「そいつのただの一言」だと?
 律はリュジュン君を顎で差して、笑っている。
 ちょっとバカにしたように。

「おい、その子じゃねーし、なぜバカにできるし」
「え。みんな同じように見えるんだけど」

 ──まあ、分かるよ。
 私だってメンバーの区別がつかない時期を経験してきたし、イケメンというものは顔立ちが多少なりとも似てくるものである。
 それに、推しというものは人それぞれなのだということも。
 ──が、しかし。

「いちばんカリスマオーラあふれる人って言ったやろが」
「いや、分からんし」
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