目の前でイキっているこの古参を、かつて私も推していた

白柿

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どぅる

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「え……? あれ、え? ……ジミン様、どこ?」

 リュジュン君のソロステージが終わって、次はメンバー全員でかの神曲「5 True Love」をパフォーマンスするはずなのに──なぜ、どこを見ても、どこにもジミン様がいないの!?
 ステージ上に並ぶ他メンバーたちの表情は、全員どことなく暗くて、もうすでに悪い予感しかしない──。
 もしかして具合が悪くなったとか? それともどこか、画面にうつらないところで転んじゃって、骨折したとか──?
 ど、どうしよう──とざわめく心で情報を待機していると、リーダーのWJがようやくマイクを握り、落ち着いた声音で話しはじめた。
 ──流暢な英語で。

「って、何言ってるか分からない~!」

 でも、ジミン様に一体何が起きたのか、なんとしてでも知りたい。
 私の英語力よ、今こそここに集え!
 そう唱え、どうにか簡単な英単語だけでも聞き取ろうと全神経を耳に集中させると、一瞬「ソーリー」って聞こえた──なんで謝ってるの!?

「本当にごめんなさい。メンバーのキム・ジミンは、ついさきほど体調を崩し……」

 その声に驚いて隣を見れば、律が画面上のWJを見ながらつらつらと喋っている。

「えっ!?」

 これはもしや、WJが今喋ってる内容!?
 律、英語、できたんだ!?

「こ、これはもしや、同時通訳というやつですか……?」
「公演の途中ですが、抜けさせて頂くことになりました。しかし僕たち4人は、最後まで全力で……」
「律、すごい! 英語分かるんだ!」
「……これくらいなら人並みでしょ。もういいの?」
「うん、ありがとう! まじですごいね、幼馴染なのに知らなかったよ! もしかしてペラペラ?」
「いや、出川イングリッシュ」
「出川イングリッシュ(笑)」

 わりとクールなタイプの律が、カタコトの英語を連発してるのを想像してしまい、つい笑ってしまった。
 するとそのとき、聴き馴染みのあるイントロが流れはじめ、画面を見ればたった4人だけでフォーメーションを組んで踊っている。
 ああ、ジミン様の、不在が、大きい──!

「あぁ~、もう……大丈夫なのかな……」

 やっぱり具合が悪くなったんだ──どこが、どのくらい悪いのかがよく分からないから、ますます心配になってしまう。おなかが痛いのかな? それとも頭とか? 激痛だったらどうしよう──それとも熱が出て難儀がってたら切ない──ちゃんと薬を飲んで、せめて早く治るといいんだけど──もうちゃんとホテルに帰って休んでるかな? それとも、ジミン様のことだからスタジアムに残って、休みながらもメンバーの様子を見守ってるのかも──。

「会ったこともないやつの心配してどうすんの」

 ──そうだけど。会ったこともないけど。
 しょせん私なんてただのファンのひとりで認知さえされてないし、アイドルなんて、札束のために作られた商品だってこともちゃんと分かってる。たくさんのファンからの金と愛でできてる、ただの偶像だ。彼らの真の姿なんて私たちは知りえない。会ったこともないし、ふたりきりで話せることもないし、ましてや恋人になれることも結婚できることもない。いつか彼の美貌に見合った、女優とかモデルとかアイドルとかと結婚して子ども作って豪邸で幸せに暮らすに違いない。
 でも、それでも好きなんだ。
 嫌いになんかなれないんだ。
 キム・ジミンが好き。キム・ジミンこそ私の推し。
 それだけでいいじゃんか。

「律にも推しがいれば分かるよ~」

 これは賢者タイム到来だ。
 悟ったふうに律の肩を優しく叩いてそう言うと、小さな呟きが聞こえてきた。

「……推しくらい、いるし」
「え、いるの!? だれ!? どのグループ!?」

 し、知らなかった──!
 けっこう仲良いほうだと思ってたのに!
 だってこの前TWICEとかBLACK PINK見せて「どの子がかわいい?」って聞いたら、「みんな顔同じに見える」って律のくせにディスってたじゃん!律のくせに!
 あ、ってことは、韓国のアイドルじゃないのか?

「もしかして日本のアイドル? だれだれ!?」
「響には言いたくない」
「なんでよ~!」
「言ったらうるさいの想像できるから。てかもうすでにうるさい」

 ──あ、これはフリですね。そうですね。

「わ、ごめんねうるさくて、だってだれのファンかものすごく気になっちゃって、律ってば昔から秘密主義なんだもん、でもこれからはちゃんとしずかに喋るように気をつけるから大丈夫だよ安心して、ほら、ウィスパーボイス♪」
「……。」

 ちゃんと流行りのASMRばりに小声で囁いてみたのに、律はしずかにスマホいじりを再開していた。
 自分からフッておいて、ひどくないですか?この人。
 ということで、ひとり足りない生ライブを静聴していると、突然、部屋に着信音が鳴り響いた。
 この、木琴がチャランポラン鳴ってるみたいな着信音は、私のじゃない。律のスマホだ。

「ごめん、ちょっと電話出てくる」
「は~い」

 ライブも終盤だ。時計を見れば22時半を過ぎている。
 今頃、電話?
 ──さては、新しいカノジョでもできたな。

「……一応言っとくけど、彼女とかじゃないからね」
「ふぅ~ん?」

 いや、絶対カノジョでしょ!

「そのふぅ~んムカつくな」

 すると律がいきなり踵を返して近づいてきた。あっという間に大きな手が頭上へと伸びてくる。
 一体何をされるのかと一瞬身構えるも、その手は私の頭に触れ──なんだかワシャワシャしだした。
 しかもなんだか優しい手つきで。
 でも、ライブ前にせっかく梳かした髪の毛はグシャグシャになってると思う。

「はは、おしおきー」

 う~ん、おしおきというより、反対になんだか気持ちよいし、これはあんまり認めたくないけれども──律の家のワンコになった気分だ。
 ──だからこれも、律なりの私への愛情表現なのである。

「しかたない、甘んじて受けてやる」
「はいはい」

 そう言ったのに、すぐ手がはなれていってしまった。
 まあ、電話鳴ってるからね。

「待たせたんだから、ちゃんと謝りなよ~」
「はいはい」

 やっぱりテキトーな返事を返して、律は部屋を出て行った。
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