3 / 3
せっ
しおりを挟む
「えっ、キム・ジミンの昨夜の体調不良はデタラメ……!? あちっ!!」
あ、熱っ!
気付けば、マグカップに注いでいたはずの熱湯が指に──!
すぐシンクにかけこみ、急いで蛇口をひねって水道水で冷やすも、近頃気候がだんだんと暖かくなってきたからか水もあまり冷たくない。
しかも、ジミン様の体調不良が嘘だなんて記事が出回っているなんて──ガッデム! 一体、どういうことなんですか!? たったひと晩のうちに何が起きちゃったの!?
まあ、ネットニュースなんて所詮、真偽は定かではないし、鵜呑みにしちゃいけないってことは分かってるのに──スクロールが止められない!
一体、ジミン様とCatchYaに、昨日何が起きたというの──?
「キム・ジミンは体調を崩した」。昨夜4月8日、「Secret: The World Knows」ツアーのLA公演最終日、CatchYaのリーダーであるWJは約5万人のCatchMe(ファンの総称)の前で、そう嘘を吐いた。
当日に会場整備等を行っていたとあるアメリカ人ライブ関係者によると、キム・ジミンはCatchYaの末っ子イ・リュジュンによるソロ楽曲「Hope In Your Heart」が披露されていた間に、ライブ会場であったSOFIスタジアムから忽然と姿を消したそうである。スタッフ必死の総出で会場内をくまなく捜索するも、その姿はどこにも見当たらず、キム・ジミンのいた楽屋には、その直前に披露された楽曲「You’re My Secret」 で彼が纏っていたきらびやかな白い衣装だけが残されていたと──
「いやに真剣ね? 仕事中よりも」
「や、山ノ井さん」
その声ではっと現実に戻った。
気付けば、レンジにお弁当を突っ込んでいるところの、山ノ井さん。
ダメだ──火傷といい、気もそぞろすぎる。
「あ、分かった。CatchYaだ」
「大正解です……」
さすが鋭い──。
まあ、この前の新人歓迎会(という名のただの飲み会)でCatchYaのファンだと告白したのはもちろん私なんだけども。
なんなら、山ノ井さんにも布教するつもりでいるけども。
「一週間前に初めて会ったのにね。そんな感じしないわ、鈴木さんは」
「え。なんでですか?」
これはもしかして、意外と気が合うとか思ってもらえてたり──?などと期待してしまったけど。
「普通の社員の3年分くらいはすでに説教した気がする。てかさっきから何してるの? 火傷した?」
が、がーん──。
自分でも人よりデキてないことは感じてたけど──やっぱり、そうなんだ──。
「CatchYaの記事に夢中になりすぎてしまい、火傷してしまいました……」
「あら、それなら氷水で冷やしたほうがいいわよ。もう最近は水がなまぬるいでしょう。ちょっと待ってね」
「え、大丈夫ですよ、自分でやりま」
私がそう言ってあたふたしているうちに、山ノ井さんは戸棚からさっと紙コップを取り出し、冷凍庫から氷をざっと投入すると、水を注いで私に渡してくれた。
それまでおよそ5秒(体感)。早い!
「少し溶かしてからね」
「あ、ありがとうございます!」
少しコップを揺らして氷を溶かしてから指を入れると、とてもひんやりした。
山ノ井さん、優しすぎる──。
山ノ井さんみたいな仕事のできる人って、人のために動けるように、役に立てるようにきっと努力してきた人だから、厳しく見えても本当はすごく優しい人なんだろうな。
──私も、もう少し仕事頑張って、人の役に立つ人になろう──と仕事へのやる気が出てきたとき、給湯室に一陣の風が吹いた。
「すっ、鈴木さん!! ジミンくんがぁっ……!!」
血相を変えて給湯室に飛びこんできたのは──同期の、同志。
──ジミンくんの話題といえば分かりきっている。
「梅本さんっ! 私もいま知ったよ! ジミンくんが……」
「そう、ジミンくんがっ、いま、日本にいるなんてっ! 同じ空気吸えてるなんてもうどうすれば!? え、語彙力足りな」
「……え?」
いきなり飛びこんできて、梅本さん何言ってるの?
日本に?
キム・ジミンが?
来ているだと?
そんなわけないでしょ、100%嘘でしょ。
エイプリルフールならもう終わりましたけど。
──あ、そうだ、きっとまたフェイクニュースに騙されてるんだ!
「でも梅本さん、あのジミンくんがワールドツアーを蹴っ飛ばして、このに、ににににににににに日本に来てるなんてそんなわけ……」
だめだ、動揺が隠しきれない──。
「え、鈴木さん、知らなかったの? 情報遅いよ~! ツイッターじゃもう10分前くらいから、ジミンくんの成田空港目撃情報で大騒ぎだよ!」
「えっ、うそ!?」
10分前という早さにも驚きだけど、成田空港と言われると一気に現実味が出てきてしまう──!
「ほんとほんと、ツイ見てみなよ!」
ジミンくんが──成田に?
ちょっとまだ飲みこみきれてないけども、急いでスマホの小鳥さんマークをタップ。
開いた画面を見れば、検索しなくとも、フォロー中の神CatchMe様たちのツイートが、それはそれはもう──大漁だった。
スクロールしてもスクロールしても、目に飛びこんでくるのは──そう、いやにスラッとした、不審者。
「こ、これはっ……」
プライベートでは、いつも真っ黒。黒の上下スウェットに、黒のスニーカー、それから黒いニット帽を目深にかぶり、黒いマスクで顔の大部分を隠し、ちょっとした不審者風情。
でも、このやや大股な歩き方、猫背ぎみの背格好、そして何より、帽子とマスクの間から覗くこの大きくて美しい双眸が、彼こそカリスマ、キム・ジミンだという事実を私たちに知らしめている。
そしてこの写真や動画は同時に、窓越しの滑走路やら到着ロビーやら長すぎるエスカレーターやら、周りの人が運んでいる巨大スーツケースやらをおさめていて、どう見たって空港のターミナルであり、しっかりと写りこんでいる日本語の標識や日本人ぽい人の多さが、そこが日本の空港だということを認識させてくる。
「ほっ、本当だ……」
ジミン様は、たしかに今、この国に来ている──。
「久々のご降臨だ……!」
「ね。最近はアメリカに夢中で来てくれてなかったもんね」
そうなのだ。
でも以前から、「日本に早く行きたいです!」と言ってくれていたのは、本心だったんだ──。
日本人としてうれしすぎるんですが。
──昨夜の雄叫びを、思い出す。
きょう、あいにいくからぁ~!
──だめだ、どうしても〝謎の日本語〟の意味が、気になってしまう──。
「しかも今日のツイッター、どうかしてるぜ」
「え、なんで?」
「国内じゃなくて世界のトレンドの、1位と2位がキム・ジミンと成田空港だよ! ……3位はプーチンだけど」
「それはやばすぎ」
あ、熱っ!
気付けば、マグカップに注いでいたはずの熱湯が指に──!
すぐシンクにかけこみ、急いで蛇口をひねって水道水で冷やすも、近頃気候がだんだんと暖かくなってきたからか水もあまり冷たくない。
しかも、ジミン様の体調不良が嘘だなんて記事が出回っているなんて──ガッデム! 一体、どういうことなんですか!? たったひと晩のうちに何が起きちゃったの!?
まあ、ネットニュースなんて所詮、真偽は定かではないし、鵜呑みにしちゃいけないってことは分かってるのに──スクロールが止められない!
一体、ジミン様とCatchYaに、昨日何が起きたというの──?
「キム・ジミンは体調を崩した」。昨夜4月8日、「Secret: The World Knows」ツアーのLA公演最終日、CatchYaのリーダーであるWJは約5万人のCatchMe(ファンの総称)の前で、そう嘘を吐いた。
当日に会場整備等を行っていたとあるアメリカ人ライブ関係者によると、キム・ジミンはCatchYaの末っ子イ・リュジュンによるソロ楽曲「Hope In Your Heart」が披露されていた間に、ライブ会場であったSOFIスタジアムから忽然と姿を消したそうである。スタッフ必死の総出で会場内をくまなく捜索するも、その姿はどこにも見当たらず、キム・ジミンのいた楽屋には、その直前に披露された楽曲「You’re My Secret」 で彼が纏っていたきらびやかな白い衣装だけが残されていたと──
「いやに真剣ね? 仕事中よりも」
「や、山ノ井さん」
その声ではっと現実に戻った。
気付けば、レンジにお弁当を突っ込んでいるところの、山ノ井さん。
ダメだ──火傷といい、気もそぞろすぎる。
「あ、分かった。CatchYaだ」
「大正解です……」
さすが鋭い──。
まあ、この前の新人歓迎会(という名のただの飲み会)でCatchYaのファンだと告白したのはもちろん私なんだけども。
なんなら、山ノ井さんにも布教するつもりでいるけども。
「一週間前に初めて会ったのにね。そんな感じしないわ、鈴木さんは」
「え。なんでですか?」
これはもしかして、意外と気が合うとか思ってもらえてたり──?などと期待してしまったけど。
「普通の社員の3年分くらいはすでに説教した気がする。てかさっきから何してるの? 火傷した?」
が、がーん──。
自分でも人よりデキてないことは感じてたけど──やっぱり、そうなんだ──。
「CatchYaの記事に夢中になりすぎてしまい、火傷してしまいました……」
「あら、それなら氷水で冷やしたほうがいいわよ。もう最近は水がなまぬるいでしょう。ちょっと待ってね」
「え、大丈夫ですよ、自分でやりま」
私がそう言ってあたふたしているうちに、山ノ井さんは戸棚からさっと紙コップを取り出し、冷凍庫から氷をざっと投入すると、水を注いで私に渡してくれた。
それまでおよそ5秒(体感)。早い!
「少し溶かしてからね」
「あ、ありがとうございます!」
少しコップを揺らして氷を溶かしてから指を入れると、とてもひんやりした。
山ノ井さん、優しすぎる──。
山ノ井さんみたいな仕事のできる人って、人のために動けるように、役に立てるようにきっと努力してきた人だから、厳しく見えても本当はすごく優しい人なんだろうな。
──私も、もう少し仕事頑張って、人の役に立つ人になろう──と仕事へのやる気が出てきたとき、給湯室に一陣の風が吹いた。
「すっ、鈴木さん!! ジミンくんがぁっ……!!」
血相を変えて給湯室に飛びこんできたのは──同期の、同志。
──ジミンくんの話題といえば分かりきっている。
「梅本さんっ! 私もいま知ったよ! ジミンくんが……」
「そう、ジミンくんがっ、いま、日本にいるなんてっ! 同じ空気吸えてるなんてもうどうすれば!? え、語彙力足りな」
「……え?」
いきなり飛びこんできて、梅本さん何言ってるの?
日本に?
キム・ジミンが?
来ているだと?
そんなわけないでしょ、100%嘘でしょ。
エイプリルフールならもう終わりましたけど。
──あ、そうだ、きっとまたフェイクニュースに騙されてるんだ!
「でも梅本さん、あのジミンくんがワールドツアーを蹴っ飛ばして、このに、ににににににににに日本に来てるなんてそんなわけ……」
だめだ、動揺が隠しきれない──。
「え、鈴木さん、知らなかったの? 情報遅いよ~! ツイッターじゃもう10分前くらいから、ジミンくんの成田空港目撃情報で大騒ぎだよ!」
「えっ、うそ!?」
10分前という早さにも驚きだけど、成田空港と言われると一気に現実味が出てきてしまう──!
「ほんとほんと、ツイ見てみなよ!」
ジミンくんが──成田に?
ちょっとまだ飲みこみきれてないけども、急いでスマホの小鳥さんマークをタップ。
開いた画面を見れば、検索しなくとも、フォロー中の神CatchMe様たちのツイートが、それはそれはもう──大漁だった。
スクロールしてもスクロールしても、目に飛びこんでくるのは──そう、いやにスラッとした、不審者。
「こ、これはっ……」
プライベートでは、いつも真っ黒。黒の上下スウェットに、黒のスニーカー、それから黒いニット帽を目深にかぶり、黒いマスクで顔の大部分を隠し、ちょっとした不審者風情。
でも、このやや大股な歩き方、猫背ぎみの背格好、そして何より、帽子とマスクの間から覗くこの大きくて美しい双眸が、彼こそカリスマ、キム・ジミンだという事実を私たちに知らしめている。
そしてこの写真や動画は同時に、窓越しの滑走路やら到着ロビーやら長すぎるエスカレーターやら、周りの人が運んでいる巨大スーツケースやらをおさめていて、どう見たって空港のターミナルであり、しっかりと写りこんでいる日本語の標識や日本人ぽい人の多さが、そこが日本の空港だということを認識させてくる。
「ほっ、本当だ……」
ジミン様は、たしかに今、この国に来ている──。
「久々のご降臨だ……!」
「ね。最近はアメリカに夢中で来てくれてなかったもんね」
そうなのだ。
でも以前から、「日本に早く行きたいです!」と言ってくれていたのは、本心だったんだ──。
日本人としてうれしすぎるんですが。
──昨夜の雄叫びを、思い出す。
きょう、あいにいくからぁ~!
──だめだ、どうしても〝謎の日本語〟の意味が、気になってしまう──。
「しかも今日のツイッター、どうかしてるぜ」
「え、なんで?」
「国内じゃなくて世界のトレンドの、1位と2位がキム・ジミンと成田空港だよ! ……3位はプーチンだけど」
「それはやばすぎ」
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
【完結】たぶん私本物の聖女じゃないと思うので王子もこの座もお任せしますね聖女様!
貝瀬汀
恋愛
ここ最近。教会に毎日のようにやってくる公爵令嬢に、いちゃもんをつけられて参っている聖女、フレイ・シャハレル。ついに彼女の我慢は限界に達し、それならばと一計を案じる……。ショートショート。※題名を少し変更いたしました。
短編 お前なんか一生結婚できないって笑ってたくせに、私が王太子妃になったら泣き出すのはどういうこと?
ヨルノソラ
恋愛
「お前なんか、一生結婚できない」
そう笑ってた幼馴染、今どんな気持ち?
――私、王太子殿下の婚約者になりましたけど?
地味で冴えない伯爵令嬢エリナは、幼い頃からずっと幼馴染のカイルに「お前に嫁の貰い手なんていない」とからかわれてきた。
けれどある日、王都で開かれた舞踏会で、偶然王太子殿下と出会い――そして、求婚された。
はじめは噂だと笑っていたカイルも、正式な婚約発表を前に動揺を隠せない。
ついには「お前に王太子妃なんて務まるわけがない」と暴言を吐くが、王太子殿下がきっぱりと言い返す。
「見る目がないのは君のほうだ」
「私の婚約者を侮辱するのなら、貴族であろうと容赦はしない」
格の違いを見せつけられ、崩れ落ちるカイル。
そんな姿を、もう私は振り返らない。
――これは、ずっと見下されていた令嬢が、運命の人に見初められる物語。
みんながみんな「あの子の方がお似合いだ」というので、婚約の白紙化を提案してみようと思います
下菊みこと
恋愛
ちょっとどころかだいぶ天然の入ったお嬢さんが、なんとか頑張って婚約の白紙化を狙った結果のお話。
御都合主義のハッピーエンドです。
元鞘に戻ります。
ざまぁはうるさい外野に添えるだけ。
小説家になろう様でも投稿しています。
乙女ゲームは見守るだけで良かったのに
冬野月子
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した私。
ゲームにはほとんど出ないモブ。
でもモブだから、純粋に楽しめる。
リアルに推しを拝める喜びを噛みしめながら、目の前で繰り広げられている悪役令嬢の断罪劇を観客として見守っていたのに。
———どうして『彼』はこちらへ向かってくるの?!
全三話。
「小説家になろう」にも投稿しています。
お前は要らない、ですか。そうですか、分かりました。では私は去りますね。あ、私、こう見えても人気があるので、次の相手もすぐに見つかりますよ。
四季
恋愛
お前は要らない、ですか。
そうですか、分かりました。
では私は去りますね。
【完結】花冠をあなたに ―信じ尽くした彼女の、最期の言葉―
桜野なつみ
恋愛
病弱な婚約者を支え続けた令嬢ミリアーナ。
幼いころから彼を想い、薬草を学び、研究し、元気になったら花畑で花冠を編ごう」と約束していた。
けれど、叔母と従妹の影がその誓いをゆがめ、やがて誤解と病に蝕まれていく。
最期に彼女が残したのは――ただ一つの言葉。
全十話 完結予定です。
(最初は全四話と言っていました。どんどん長くなってしまい、申し訳ありません。)
不治の病の私とは離縁すると不倫真っ最中の夫が言ってきました。慰謝料、きっちりいただきますね?
カッパ
恋愛
不治の病が発覚した途端、夫であるラシュー侯爵が離縁を告げてきました。
元々冷え切っていた夫婦関係です、異存はありません。
ですが私はあなたの不貞を知っておりますので、ちゃあんと慰謝料はきっちり支払っていただきますね?
それから・・・わたしの私物も勿論持っていきますから。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる