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本編
40.光り輝く砂糖と不穏な影
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「…………第一王子? …………」
誰かの声がして、僕は自分が呼ばれたのだと気付く。
「…………ぶ? ……ひ!? …………」
僕がハッと我に返ると、目の前には食べ尽くし、食い荒らされたような惨状が広がっていた。
部屋の扉の前には、こちらを見て全員が呆然と立ち尽くしている姿が見える。
皆が立ち尽くす中、最初に声を上げ笑い出したのは宰相だった。
「……はは……やはり、卑しく汚らわしい第一王子は、どうしようもない白豚王子ですな……くくくく……皆、騙されていたんです……私が言った通りではないですか……くくくくく……なんて滑稽だ……」
「……これは……まさか、第一王子がやったんですか? 全部、食べてしまったんですか? ……」
バニラ王子は部屋の惨状を見回して、信じ難いといった様子で僕に質問した。
僕が食べてしまったスイーツは、バニラ王子が騎士達の為に用意したものだったのだろう。
言い逃れができる筈もなく、ごくりと唾を飲み込み、なんの言葉も出てこないまま僕は頷く事しかできなかった。
「…………」
騎士団員達の白い目が一斉に向けられ、僕は睨み付けられる。
「……やはり、第一王子は白豚王子でしかなかったのか……我々を揶揄って遊んでいたのか!?」
「俺たちはまんまと騙されていた訳か……なんて性悪な、白豚王子め!」
「見直していたのに、弄ばれていただけだったとは……馬鹿にしやがって、白豚王子が!」
「バニラ殿下の心遣いを台無しにして、何もかも踏み躙られた気分だ! ……なんて意地汚い、食い意地の張った暴食の豚だ!!」
一時前まで、温かく感じられていた視線が、冷たく軽蔑するものへと変わってしまった。
憎悪の罵声を浴びせられて、僕は竦み上がりぷるぷると震えてしまう。
「………………」
おろおろと目を彷徨わせた僕は、無言のまま立ち尽くしていた騎士団長と目が合った。
その目に浮かんでいたのは、怒りでも軽蔑の色でもなく、落胆と失望の色だった。
「……ひぅ……ご、ごめん……なさぃっ……」
期待を裏切ってしまった罪悪感に堪えきれなくなり、僕は部屋から飛び出して逃げた。
◆
僕は泣いた、大泣きした。
「バカバカバカ! 僕のバカアアアア!! 強制力のバカアアアアアアアア!!!」
今更ながら、思い出してしまった。
ゲームでも、バニラ王子が騎士達へと用意した菓子を白豚王子が奪い取り食べてしまうという、バニラ王子が語るちょっとした過去談があったのだ。
僕は自分の不甲斐なさを憎み、謎の強制力を心底恨んだ。
「僕はもう己に打ち勝つまでスイーツを食べない! 絶対にスイーツを食べない!! スイーツ断ちをする!!!」
その時、僕はスイーツ断ちをする事を強く強く決意したのだ。
給仕係に置手紙をして、スイーツの一切を断った。
甘い物の気配を少しでも察知したら、避けて逃げて回避した。
もう、後ろめたくて騎士団の訓練を覗きに行く事もできない。
もう、騎士団に交じって訓練する事もできない。
そう思ったら、また涙が滲んでくる。
涙が零れると余計に惨めになるから、僕は必死に堪えていた。
そんな風にスイーツ断ちをしようと決意して二日が過ぎた。
僕はなんとかスイーツ断ちができている、そう思っていた。
◆
三日目の夜、僕はハッと我に返る。
「……ぶひっ!? ……」
そこは、僕の知らないどこかの部屋だった。
貯蔵庫のようなその場所で、僕は地べたに座り込み瓶に手を突っ込んでいた。
瓶にはキラキラと光り輝く粉の粒が僅かに残っていて、同じように僕の手の平にもキラキラする粉が付いていた。
キラキラを目にすると、僕は反射的にペロリとそれを舐めてしまう。
甘くて美味しい甘味料、それは砂糖のようだった。
そして、僕の周りには空になった瓶が大量に散らばっていた。
スイーツ断ちできてると思い込んでいた僕は、スンと遠い目をしてしまう。
僕は我慢すれば我慢するほど、夢遊病のように夜な夜な歩き回り、スイーツの原料である砂糖にまで手を出して食べてしまっていたのだ。
何となくそんな気はしていた――それまで食べていた大量のスイーツを全く食べなくなり、ほとんど物を口にしなくなっていたのに、僕のお腹は一向に変化する様子が無かったのだから。
がっかりと肩を落とし、僕はとぼとぼと、否、ぽよぽよと自分の部屋へと帰って行った。
◆
白豚王子が隠し部屋のようなその場所から出て行き、しばらく経った頃、何者かがその部屋へと訪れた。
そして、白豚王子が食べ尽くしてしまった瓶の中身を見て、その者は舌打ちし怒りに打ち震える。
「……ちっ、白豚王子め! ……毎度、毎度、邪魔ばかりしてくれる!!」
悪態をつき、苛立った勢いのまま瓶を蹴り散らかし、踏みつけて粉々に砕いていく。
「……何故、いつも、いつも、上手くいかない!? ……早々に始末できる筈だったのに! …………くっ……だが、次こそは逃がさん、必ず始末してくれる!! ……くくく、くくくくく……」
その者は不気味な笑い声を響かせて、その部屋にある物の全てを消し去る。
部屋自体をも魔法で消滅させて、その者は立ち去って行った。
◆
誰かの声がして、僕は自分が呼ばれたのだと気付く。
「…………ぶ? ……ひ!? …………」
僕がハッと我に返ると、目の前には食べ尽くし、食い荒らされたような惨状が広がっていた。
部屋の扉の前には、こちらを見て全員が呆然と立ち尽くしている姿が見える。
皆が立ち尽くす中、最初に声を上げ笑い出したのは宰相だった。
「……はは……やはり、卑しく汚らわしい第一王子は、どうしようもない白豚王子ですな……くくくく……皆、騙されていたんです……私が言った通りではないですか……くくくくく……なんて滑稽だ……」
「……これは……まさか、第一王子がやったんですか? 全部、食べてしまったんですか? ……」
バニラ王子は部屋の惨状を見回して、信じ難いといった様子で僕に質問した。
僕が食べてしまったスイーツは、バニラ王子が騎士達の為に用意したものだったのだろう。
言い逃れができる筈もなく、ごくりと唾を飲み込み、なんの言葉も出てこないまま僕は頷く事しかできなかった。
「…………」
騎士団員達の白い目が一斉に向けられ、僕は睨み付けられる。
「……やはり、第一王子は白豚王子でしかなかったのか……我々を揶揄って遊んでいたのか!?」
「俺たちはまんまと騙されていた訳か……なんて性悪な、白豚王子め!」
「見直していたのに、弄ばれていただけだったとは……馬鹿にしやがって、白豚王子が!」
「バニラ殿下の心遣いを台無しにして、何もかも踏み躙られた気分だ! ……なんて意地汚い、食い意地の張った暴食の豚だ!!」
一時前まで、温かく感じられていた視線が、冷たく軽蔑するものへと変わってしまった。
憎悪の罵声を浴びせられて、僕は竦み上がりぷるぷると震えてしまう。
「………………」
おろおろと目を彷徨わせた僕は、無言のまま立ち尽くしていた騎士団長と目が合った。
その目に浮かんでいたのは、怒りでも軽蔑の色でもなく、落胆と失望の色だった。
「……ひぅ……ご、ごめん……なさぃっ……」
期待を裏切ってしまった罪悪感に堪えきれなくなり、僕は部屋から飛び出して逃げた。
◆
僕は泣いた、大泣きした。
「バカバカバカ! 僕のバカアアアア!! 強制力のバカアアアアアアアア!!!」
今更ながら、思い出してしまった。
ゲームでも、バニラ王子が騎士達へと用意した菓子を白豚王子が奪い取り食べてしまうという、バニラ王子が語るちょっとした過去談があったのだ。
僕は自分の不甲斐なさを憎み、謎の強制力を心底恨んだ。
「僕はもう己に打ち勝つまでスイーツを食べない! 絶対にスイーツを食べない!! スイーツ断ちをする!!!」
その時、僕はスイーツ断ちをする事を強く強く決意したのだ。
給仕係に置手紙をして、スイーツの一切を断った。
甘い物の気配を少しでも察知したら、避けて逃げて回避した。
もう、後ろめたくて騎士団の訓練を覗きに行く事もできない。
もう、騎士団に交じって訓練する事もできない。
そう思ったら、また涙が滲んでくる。
涙が零れると余計に惨めになるから、僕は必死に堪えていた。
そんな風にスイーツ断ちをしようと決意して二日が過ぎた。
僕はなんとかスイーツ断ちができている、そう思っていた。
◆
三日目の夜、僕はハッと我に返る。
「……ぶひっ!? ……」
そこは、僕の知らないどこかの部屋だった。
貯蔵庫のようなその場所で、僕は地べたに座り込み瓶に手を突っ込んでいた。
瓶にはキラキラと光り輝く粉の粒が僅かに残っていて、同じように僕の手の平にもキラキラする粉が付いていた。
キラキラを目にすると、僕は反射的にペロリとそれを舐めてしまう。
甘くて美味しい甘味料、それは砂糖のようだった。
そして、僕の周りには空になった瓶が大量に散らばっていた。
スイーツ断ちできてると思い込んでいた僕は、スンと遠い目をしてしまう。
僕は我慢すれば我慢するほど、夢遊病のように夜な夜な歩き回り、スイーツの原料である砂糖にまで手を出して食べてしまっていたのだ。
何となくそんな気はしていた――それまで食べていた大量のスイーツを全く食べなくなり、ほとんど物を口にしなくなっていたのに、僕のお腹は一向に変化する様子が無かったのだから。
がっかりと肩を落とし、僕はとぼとぼと、否、ぽよぽよと自分の部屋へと帰って行った。
◆
白豚王子が隠し部屋のようなその場所から出て行き、しばらく経った頃、何者かがその部屋へと訪れた。
そして、白豚王子が食べ尽くしてしまった瓶の中身を見て、その者は舌打ちし怒りに打ち震える。
「……ちっ、白豚王子め! ……毎度、毎度、邪魔ばかりしてくれる!!」
悪態をつき、苛立った勢いのまま瓶を蹴り散らかし、踏みつけて粉々に砕いていく。
「……何故、いつも、いつも、上手くいかない!? ……早々に始末できる筈だったのに! …………くっ……だが、次こそは逃がさん、必ず始末してくれる!! ……くくく、くくくくく……」
その者は不気味な笑い声を響かせて、その部屋にある物の全てを消し去る。
部屋自体をも魔法で消滅させて、その者は立ち去って行った。
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