悪役従者

奏穏朔良

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ナテュール達が水面下でロイ奪還作戦を進めているなんて欠片も知らないロイは、意気揚々と神殿の内部を漁りに漁っていた。

手始めに、神官のトップである神官長の部屋を勝手に開けて引き出しを漁り、本棚裏の隠し部屋を見つけつつ、ついでに神官長のお宝春画の隠し場所と性癖もチェックしておいた。

(それにしても本棚裏の隠し部屋は裏金と財宝置き場になっているだけで、これといった証拠がない。とはいえこれだけの金額、そして財宝を集めるなんてやはり裏に貴族がいるとしか思えないな……)

現在神殿は権威を失いつつある。それに伴い貴族からの寄付金や奉納金を収めない豪商なども出てきている。
もちろん回復ポーションに頼る機会の多い冒険者や騎士などは未だに奉納金を収めてはいるが、神殿に対して反骨的だ。

だからこそ、神殿がこれほど金を貯められるわけが無い。
神官長含めあるだけ贅に使うのが神官達だ。
つまり使っても余るだけの金が神殿に集まっているということになる。

(……となると帳簿なんかは付けていなさそうだ。)

経営とは違い、あくまで寄付金は善意での寄付。
売上等とは異なり帳簿を記す必要も無い。
いや、本来なら金銭管理のために必要だが、ここの神官たちが付けているとは到底思えない。

(そうなると貴族の印の入った寄贈品を探す方が無難かな。)

恐らく友好の印として紋章入りの贈り物があるはず。
流石にそれを売ってしまう程神官達も馬鹿では無いはずだ。多分。

(次に探すなら金庫部屋かな。以前と場所は変わっているはずだからそれなりに目星をつけて……)

僕がここで過ごしていたのは9歳まで。
改築や増設部分もあるため、神殿内部の間取りは若干変わっている。
神殿は僕のことを警戒していたはずだし、かつて僕が金庫から古代遺物である『古の魔法具』を見つけ出したことを考えればいくら馬鹿でも同じ部屋にしておくはずが無い。

警備をある程度固めつつ、参拝者等の部外者が出入りする場所からは遠い位置。
神官長の性格からして自分の部屋から遠すぎると不安になるはずだ。

(神官長の部屋からもそこそこ近いところで奥ばった部屋となれば場所は限られる……)

幸いにも改築工事の際の地図が出てきたので、その地図を見ながらいくつか候補を見つけておく。

(恐らくこの辺の部屋だな。)

およその範囲を絞れればあとは警備が厳重な場所を当たりと思えばいい。

もう用はないと、部屋を出ようとした時だった。

「……ば、この……」
「……かし、それは……」

(まずい、もう戻ってきたのか……)

扉の先から僅かに聞こえる話し声に、扉に伸ばしかけた手を引っ込める。

神官長の部屋は廊下の突き当たりだ。1本道の廊下では出たらすぐに姿が見えてしまう。

(隠し部屋に……いや、隠し部屋に入ってしまえば棚が動いたままになってしまう。侵入がバレて証拠を隠滅でもされたら困る。)

思案しながらも動きは止めずまずピッキングで開けた鍵を内鍵から施錠する。
そして、頭の中で先程見た地図を広げながら、逃走経路を何パターンか計算しつつ、天井をぐるりと見渡した。

(……あった、換気口。)

棚や壁に足をかけ、するすると天井に登り、換気口をこじ開け、ダクトへと体を滑り込ませる。
換気口と言えどこれは昔の名残で、構造上残っているだけのただの穴だ。教会創設時の通気口として作られたもの故、ココ最近でてきた魔法具で動かすファンの付いた換気口でなかった事が幸いした。

(魔法具のファンが付いていた場合、外すのはそれなりに時間がいるからな……)

古いダクトに体を滑り込ませてすぐに、神官長と、僕を連行したあの神官が部屋に入ってきた。
ギリギリだったな、とダクトの中で静かに息を吐く。

「ですが、神官長!」
「話は終わりです。計画を忘れた訳では無いでしょう。」
「ええ、忘れてはいません!しかし、血なんて殺した後だって採れるではありませんか!やつのあの舐め腐った態度……!あれ・・をやらせたら早急に殺すべきです!! 」
「いい加減にしなさい。向こう・・・の要求は古の魔法具を使用した者を生きたまま引き渡すこと。」

(……『あれ』?『向こう』?)

思わぬ会話に、離脱しようと思ったが、そのままダクトで耳をそばだてる。

それに、あの神官が馬車で言っていた「やってもらうこと」と地下牢での「用が済めば」と言うのが『あれ』だとして、僕の血なんて何に必要なのか。
神官長の口ぶりからすると、後ろ盾にとなった貴族は、どうやら僕の身柄を欲しがっているようだ。

(……いや、僕というより古の魔法具を発動できた者が欲しいのか。)

何か発動させたい古の魔法具があるのだろうか?

現代に流通している魔法具は魔石を核にしそれをエネルギーとして道具を起動させるが、古の魔法具は魔石の核が設計に組み込まれていない。
そのためずっと起動方法がわからず、現代で使われることはなかった。出来なかった、のほうが正しいかもしれない。
恐らく、魔法使いにはわかる何かがあるのだろう。

僕の場合、なんか触ったら起動したからこれ幸いにと使ってみたけど。

(古の魔法具を所持している貴族なんてごく一部だ。それこそ魔法使いがまだ多くいた頃から家名を継いでいたような古い家でなければ。)

仮に、魔法具を発動させたい家が後ろ盾についたとすればかなり絞られるが、現状情報が足りなすぎて確定に至れない。

「それよりもあれ・・の準備は滞り無いでしょうね?」
「ええ、それはもう万全に。あとは日が暮れるのを待つのみです。」
「宜しい。日が暮れ次第神官を地下の聖堂に集めなさい。もちろん、ロイも連れてくるのですよ。」
「お任せ下さい!」

鼻をふんすふんすと膨らませる神官は、ドスドスと象のような太い足を踏み鳴らしながら、神官長室を出ていった。
先程まで怒っていたのは忘れたのか上機嫌で廊下を引き返していくのが足音でわかる。

これ以上情報を引き出すことは無意味かと、ダクト内を移動しようとした時、「ふふふふふ ……」と神官長の不気味な笑い声が漏れ聞こえた。

「……我々を甘くみたロイ……君の負けです。教会を出てすぐにギルドへと赴き、教会の悪評を広め、リュミエール神教を陥れようとしたことなど、5年前から分かっていたのですよ。」

と、何故か自席に座って独り言を言い始める神官長。
一瞬自分の存在がバレたのかと思ったが、どうやら完全な独り言らしい。

「残念ながら君の悪巧みは失敗する。君はあの出来損ないの第7王子を踏み台にゆくゆくは王家すら操るつもりかもしれないが、今の王家は神に見放され滅ぶのさ!次代の王座はエドワーズ家と召喚される聖女に継承される!お前の悪巧みなど私にはお見通しだったのさ!アーハハハッ!!」

なんて、チープな悪役のような高笑いをしたかと思えば、立ち上がりご機嫌で軽いステップを刻み、棚の後ろの隠し部屋へと消えていった神官長。

神官長の高笑いが消え、静まり返った部屋の中。
僕は正直困惑していた。

「……え、なんか神官長が全部喋ってくれたんだけど。」

とりあえずナテュール様を侮辱したので神官長は徹底的に潰すとしよう。
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