悪役従者

奏穏朔良

文字の大きさ
51 / 55

51

(前書き)
いつもより短いです。すみません。

****


暴風の中、悲鳴が聞こえた気がした。しかし、それすらも風の轟音にかき消される。

再び風の濁流へと身を投げ出した僕は何とか飛ばされながらも足の止血を試みるも

(……思ったよりいってるな……)

右足は膝上5cm程まで持っていかれていた。
破いたシャツを足の断面に巻き、ベルトで絞める。本来ならば傷口を焼きたいが風に飛ばされながらではこれが限界だ。

暴風は勢いを増しこのままでは城壁が崩れるの時間の問題だろう。
そうなればナテュール様にも再び危険が及ぶ。

正直、他の王侯貴族がどうなろうが本当に、全く、非常にどうでもいいが、ナテュール様にこれ以上の傷をつけることがあってはならない。

痛みに滲む脂汗を目に入らないように甲で拭い、頬を軽く叩いた。

(しっかりしろ、ロイ!痛みなんて慣れたものだろう!片足がなくたって主の役に立つことこそ、従者の成すべきこと……!)

まずはこの暴風を巻き起こすあの魔法具を何とか停止させなければ。

僕の血で発動している以上、僕が止められるか?
いや、風の刃が僕に届いている時点で僕は魔法具の使用者にはなっていない。間違いなく発動者、使用者として認識されているのは条件を付与したエドワーズ公爵夫人だ。

公爵夫人を殺す?
いや、仮にそれで止まらなかった時、止められる手段の可能性を自ら潰したことになる。

(考えろ考えろ……!)

僕自身の血は魔法具の発動に使える。それを何とか活用して新しい条件を付与すれば……

(でも何て条件を付与すればこの暴風は止まる……!?)

恐らく暴風自体は魔法具の効能だ。
対象を切り刻むまで止まらないの言っていたが、それはルーカス様たちを守るためのブラフなのか。それなら単純に除外する条件のみしか付与できないのか。
はたまた何か上手い条件を付与してルーカス様達だけを対象外にできたのか。

疑問点が、不確定要素が多すぎる。

焦れば焦るだけ体温が下がっていく。
だめだ。このままだともうすぐ動けなくなってしまう!

(早く……早く何か打開策を……!)

グルグルと風に巻き上げられた体と同じように思考も渦を巻く。その時だった。

「ロイ!!!! 」

「ナテュール様!?」

抉られた壁の穴から顔を出したナテュール様が「これを使え!!」と1つの木箱を投げたのは。

「それは!」

風の刃に飲まれた木箱があっという間にただの木片と化す。
そしてその中から飛び出した赤い光沢に、公爵夫人の高笑いがピタリと止まった。

そう、ナテュール様が投げた物は、ルーカス様の一族が受け継いできた世界を滅ぼすこともできるあの古の魔法具であるイヤリングだ。

「何故貴様がそれを持っている!!」

それを視認した瞬間まるで悲鳴のような怒鳴り声を上げた公爵夫人。しかし、それよりも

「貴様ァ!!今ナテュール様のことを『貴様』と呼びやがったなぁ!?貴様の方が貴様で十分だわ貴様ァッ!!!」

ナテュール様に貴様など何たる狼藉!!万死!!!

「今それどころじゃないだろ!?それに言ってることめちゃくちゃだぞ!!!」

「申し訳ございません!!」

そうだ、ナテュール様に託されたイヤリングを危うく掴み損ねるところだった。
慌ててイヤリングを掴み取り、風の刃を避けながら片足で壁を蹴り暴風の中を移動する。

(巻き上げられた木々や瓦礫が増えていている。これ以上増えたら避けきれないな。)

小さな礫でも当たれば皮膚が裂けるほどの暴風だ。瓦礫が当たれば大怪我は免れないだろう。

(早く『条件』に『状況』を付与しなければ……!)

この状況で最も安全で迅速な、魔法具を無効化する状況の指定を!

(……そうだ、これなら……!!)

全身が痛みに悲鳴を訴える中、僕は古の魔法具を掲げた。

「『ナテュール様の半径5km圏内条件』では『古の魔法具は発動しない状況』!!」

「結局ナテュール様かよ!!」

「当然だろうが!!!」
感想 1

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

女神様、もっと早く祝福が欲しかった。

しゃーりん
ファンタジー
アルーサル王国には、女神様からの祝福を授かる者がいる。…ごくたまに。 今回、授かったのは6歳の王女であり、血縁の判定ができる魔力だった。 女神様は国に役立つ魔力を授けてくれる。ということは、血縁が乱れてるってことか? 一人の倫理観が異常な男によって、国中の貴族が混乱するお話です。ご注意下さい。

【最強モブの努力無双】~ゲームで名前も登場しないようなモブに転生したオレ、一途な努力とゲーム知識で最強になる~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
アベル・ヴィアラットは、五歳の時、ベッドから転げ落ちてその拍子に前世の記憶を思い出した。 大人気ゲーム『ヒーローズ・ジャーニー』の世界に転生したアベルは、ゲームの知識を使って全男の子の憧れである“最強”になることを決意する。 そのために努力を続け、順調に強くなっていくアベル。 しかしこの世界にはゲームには無かった知識ばかり。 戦闘もただスキルをブッパすればいいだけのゲームとはまったく違っていた。 「面白いじゃん?」 アベルはめげることなく、辺境最強の父と優しい母に見守られてすくすくと成長していくのだった。

モブっと異世界転生

月夜の庭
ファンタジー
会社の経理課に所属する地味系OL鳳来寺 桜姫(ほうらいじ さくらこ)は、ゲーム片手に宅飲みしながら、家猫のカメリア(黒猫)と戯れることが生き甲斐だった。 ところが台風の夜に強風に飛ばされたプレハブが窓に直撃してカメリアを庇いながら息を引き取った………筈だった。 目が覚めると小さな籠の中で、おそらく兄弟らしき子猫達と一緒に丸くなって寝ていました。 サクラと名付けられた私は、黒猫の獣人だと知って驚愕する。 死ぬ寸前に遊んでた乙女ゲームじゃね?! しかもヒロイン(茶虎猫)の義理の妹…………ってモブかよ! *誤字脱字は発見次第、修正しますので長い目でお願い致します。

異世界に転生したら?(改)

まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。 そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。 物語はまさに、その時に起きる! 横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。 そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。 ◇ 5年前の作品の改稿板になります。 少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。 生暖かい目で見て下されば幸いです。

御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜

伽羅
ファンタジー
【幼少期】 双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。 ここはもしかして異世界か?  だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。 ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。 【学院期】 学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。 周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。  

伯爵令息は後味の悪いハッピーエンドを回避したい

えながゆうき
ファンタジー
 停戦中の隣国の暗殺者に殺されそうになったフェルナンド・ガジェゴス伯爵令息は、目を覚ますと同時に、前世の記憶の一部を取り戻した。  どうやらこの世界は前世で妹がやっていた恋愛ゲームの世界であり、自分がその中の攻略対象であることを思い出したフェルナンド。  だがしかし、同時にフェルナンドがヒロインとハッピーエンドを迎えると、クーデターエンドを迎えることも思い出した。  もしクーデターが起これば、停戦中の隣国が再び侵攻してくることは間違いない。そうなれば、祖国は簡単に蹂躙されてしまうだろう。  後味の悪いハッピーエンドを回避するため、フェルナンドの戦いが今始まる!

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!