悪役令嬢にならないための指南書

ムササビ

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Lesson.3 学園生活の始まりが、悪役令嬢の始まり

17.ピンクのふわふわヘアの少女

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ヴィオラから“ヒロイン”についての話を聞くことなく、ユニカ高等学院への視察の日が来てしまった。
その日の朝、リーリウムは“ヒロイン”についても気にならない訳ではなかったが、ヘンリクスと初めての公務とあって、珍しく緊張を隠し切れなかった。

王宮へ向かい、応接室でヘンリクスを待つと、ほどなくヘンリクスが部屋に入ってくる。

「おはよう。今日は楽しみだね。」

ヘンリクスは緊張など全く感じられない、屈託のない笑顔をリーリウムに向けている。
その笑顔を見ていると、リーリウムの心も落ち着きはじめた。
すらりとした背丈のヘンリクスは、王妃から受け継いだ少しクセのある銀髪を短く切りそろえ、青空のようなブルーの瞳で今日もリーリウムを見つめていた。

二人は前もって今日の服装を相談し、華美になりすぎない格好でそろえている。
視察と便宜上は言っているが、公式訪問ではなく、王太子の社会見学のようなものである体裁をとっていたことと、生徒たちが緊張しないように、という配慮だった。
ヘンリクスは清潔感のある白いシャツにブルーのパンツ、リーリウムはブルーとホワイトのストライプが軽やかな木綿のワンピースがよく似合っている。
そして、おそろいのレースであつらえたヘンリクスのジャボットとリーリウムの髪飾りが二人の仲の良さを表しているようだった。

「いこうか。」

ヘンリクスは手を差し出し、その手にリーリウムがそっと手を乗せる。
少数の護衛騎士をつけた二人は、さっそく視察先のユニカ高等学院へ向かう馬車へ乗り込んだ。

王宮からすぐの場所にあるユニカ高等学院には、ほんの数分で到着した。
学院長をはじめ教師陣と生徒会のメンバーたちが、校門の前で馬車から降りる二人を出迎えてくれる。

学院長は60過ぎのやさしそうな女性で、リーリウムとヘンリクスを優しい笑顔で歓迎する。
彼女のうしろで控えていた教師たちは男性も女性もいるが、ほとんどが貴族出身の人間で、そのほとんどがエレンシア貴族学園の出身者だった。

彼らの教え子であり、学院の代表ともいえる生徒会のメンバーたちは、平民の子どもたちでありながらも完璧なマナーでヘンリクスとリーリウムに挨拶をしてみせ、二人を驚かせた。

ひとまず学校を歩きたいと申し出たヘンリクスたちは、教師たちとは一旦離れて、生徒会長と副会長をしている生徒二人に校舎を案内してもらうことになった。

生徒会長をしているエリザ・サバーニは隣国の商会の長女ということだったが、会話をしているだけで聡明さが伝わってくる少女だった。
今すぐにでも王宮にスカウトしたいほどだが、卒業後は家業を継ぐために帰国するのだという。
王国では女性が家を継ぐことはほとんどなく、隣国では男女関係なく長子が継ぐことが多いことを聞き、ヘンリクスとリーリウムはそのことにも新鮮な驚きを覚えた。

「殿下、リーリウム様、我が校きっての天才は彼女ですよ。」

ヘンリクスよりもさらに背が高く、メガネがよく似合う副会長ジョン・ハモンドが前方にいる少女を敬うように紹介した。
綿菓子のように柔らかそうなふわふわとした薄ピンクの髪の毛に、やはりピンクがかったうさぎのような赤い瞳の愛らしい少女は、ヘンリクスとリーリウムの前に立つと、優雅に挨拶をした。

「ヘンリクス殿下、お会いできてうれしいです!
アイリと申します。」

うるうるとした大きな瞳でヘンリクスを見つめるアイリ。
リーリウムの存在には気づいていないのか、わざとそうしているのか分からないが、一切目を合わせない。

(王子様に憧れているのかしら……。)

リーリウムは、今まで出会ったことのないタイプの少女に驚いていた。
なにせ、リーリウムが隣にいるにもかかわらず、
ヘンリクスに好意を露わにする女の子は初めてだったのだから。

「アイリ、今は殿下とリーリウム様は校舎内を視察中なのです。
邪魔をしないようにね。」

エリザがひと言注意をするが、アイリは気にも留めず、
「そうなのですね! では、私がご案内します!」と言い出す始末。

ジョンが「まあまあ」と仲裁し、アイリに何事か優しく話しかけると、
アイリは挨拶をしてしぶしぶと離れて行った。

「大変、申し訳ございませんでした。
本当に優秀な子なのですが、まだマナーが伴っておらず……。」

エリザはヘンリクスとリーリウムに丁寧にお詫びをする。

「少しびっくりしたけれど、大丈夫だよ。
ねえ、リーリウム?」

「ええ、まだ幼い少女でしたし、優秀ということでしたら今後が楽しみですね。」

ほんわかとした雰囲気で、エリザに気にすることはないと伝える二人。

ヘンリクスもリーリウムも、まさかあの「アイリ」がこれからさまざまな波乱を呼び寄せるとは、この時は露とも思わなかった。
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