悪役令嬢にならないための指南書

ムササビ

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Lesson.5 物語の終わり

115.林の前

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中庭では、花々が咲き誇り、豪奢な噴水が平和そうにきらきらと夕焼けを反射した水を空中に送り出している。
一行はその美しい様子にもわき目もふらず通り抜けると、王宮の敷地の東の果て、うっそうとした林の前にたどり着いた。
光は、その林の中に真っすぐと伸びている。

「うーん。着替えてから来るべきだったかも……」

フレエシアがぼそりとつぶやく。
ウェスペル家の娘たちは、全員いつも以上に煌びやかなドレスに身を包んでいる。
舞踏会用にあつらえたドレスと宝飾品は想像以上に重たく、嵩張り、気を使う。
病み上がりのリーリウムはヘンリクスに支えながら、やっと立っているような状態だったし、元々身体を動かす習慣がなかったヴィオラとプリムラも肩で息をしていた。
木々が隙間なく生えている林の中に入っていくのは、ドレスのふくらみが邪魔をして物理的にも不可能に思える。
全員がどうしたものかと考えていると、ふとリーリウムが気づいた。

「リナ様、いつの間にお召し物が変わったのですか?」

リナも豪華なドレスを着ていたはずが、いつの間にかローブ姿になっている。

「洋服なら、変装用にここにいっぱい収納しているから。
部屋を出る直前に、魔法で“目くらまし”をかけて着替えておいたんだよ。」

そういうと、リナは何もない空間に真っ黒な穴を出して見せた。
そして、「着替えを貸そうか?」と言うと、その穴の中に頭と右手を突っ込み、ぞんざいな仕草で洋服を中からかき集める。

「ちょっとお姉様方には小さいかもしれないけど、我慢して。
“目くらまし”をかけてあげるから、その中でさっさと着替えてくれる?」

リナはそう言いながら、フレエシアに適当に見繕った山盛りの洋服を渡し、手を空中にかざして円を描くように回すと、モヤのようなものが四姉妹のいる空間一帯を覆った。

「目くらましと言っても、外で着替えるなんて落ち着きませんわね。」

「お姉様、どれを着ますか?」

「……これだけは着たくないわ。」

「え、じゃあ、私がこれを着ます! 仮装みたいで楽しいですね。」

「まあ、これが幾分かマシかしら? やっぱり、少し小さいですわね。」

「わたくし、これがいいわ! あ、リーリウムお姉様、ドレスを脱ぐのを手伝います。」

「プ、プリムラ、あまり大きな声で言わないで……。」

姿は見えなくても、四姉妹のにぎやかな声はモヤの中から筒抜けになっている。
ディナルドとルヴァリはみるみる内に赤面し、ルドヴィクは努めて平然としているふりをし、ヘンリクスは直立不動のままモヤとは反対の方向を見つめていた。

「終わったよー」

フレエシアの声を合図に、モヤが消える。
ヴィオラ、リーリウム、プリムラは無難に町娘が来ているようなワンピースに身を包んでいるが、フレエシアだけはまるで海賊の下っ端ような出で立ちになっていた。
丁寧にも、頭にはバンダナまで巻かれている。

「それはなんだ?」

ディナルドが憮然とした表情で尋ねる。

「だって、スカートよりもパンツスタイルの方が動きやすいでしょ?」

フレエシアはそう言うと、くるりとその場で回って見せた。

ディナルドは無言でフレエシアの頭に巻かれた大き目のバンダナを外すと、それを彼女の腰に巻きつけて、外れないようにきつく結ぶ。
ヒップ周りをカバーするように巻かれたバンダナをつまみ、フレエシアはディナルドに「ありがと」と礼を言った。

「さ、そろそろ行こう。ゴールは近そうだよ。
あるはずのない魔力を感じる。」

「あるはずのない魔力ですか?」

リーリウムが尋ねる。

「君がここにいるのに、微弱だけど向こうからも光属性の魔力を感じるんだよ。
もしかすると、私たちが近づいているのを相手も気づいているかもしれない。
慎重に、かつ素早く行動した方がいい。」

リナは、静かな声で忠告をした。
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