魔人狩りのヴァルキリー

RYU

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新たな道標 ③

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あれから半年が経った。

サトコは、あの時、目覚めの悪い朝を迎えた事を覚えている。

頭がずっしり重く、全身にダルさを感じた。


あの夜のアリアは、本物だったのだろうか?それとも、夢だったのだろうか?

あの時の自分は、寝落ちしていた。そして、サトコは、自分の頭を酷くガンガン叩いた。



いつもの和やかな日常ー。

これがいつまで続くか、分からないー。


サトコは、自転車を漕ぐと工場へと向かった。

あの夜の次の翌朝、サトコは黒須の札がないのに気づいた。
五十音順で、木村の次に黒須の札がある筈だがそれは無かったのだ。
予感はしていたが、サトコは、その時、急に胸がざわめくような厭な予感がした。
サトコは、首を傾げ黒須の下駄箱やロッカーを見たが、名前の記されたシールはなかったのだった。

サトコは、そんな事を思い出しながら自室の作業部屋に行くと、部品の検品作業に取り掛かった。

黙々と検品作業をしている中ー、サトコは、一あの旅館での事を考えていた。車の中で感じた黒須の深鬱そうな顔が気になっていたのだ。

黒須は、どうして自分なんかの相手をしてくれたのだろうー?

自分は、卑小な存在だ。あらゆる能力が、平均未満。得意分野無し偏差値50未満。授業についていけない。計算・漢字ボロボロだった。
誤字脱字多発する、
現在進行形で勉強ができない、
その他得意分野ない卑小な人間だ。
まともにコミュニケーションとれない、仕事もまともに出来ない、
そんな絶望的している存在なのだ。


そして、時折、誰でもできる雑務的な仕事しか出来ない自分に絶望することがある。
自分は、どうしてこうなったのだろうと、うつのような状態になる
かといって、どこいってもお荷物状態だった。
他に稼げる対したスキルがあるわけではないし、先も不安だしこのままの状態が続くとなると恐怖が強くあるが、現状打開策は分からないー。

せめて、地頭が良くなりたいけど、何をどんなに頑張っても水の泡で空回りする。あらゆる能力値が平均以下で何も進展がないから、悲しい。
使える頭が欲しかった。
二次障害も併発しているし、単純作業しか出来ない自分が悔しい。

サトコは、自分の生い立ちに苦しんできた。


黒須は、そんな自分に手を差し伸べてくれた。光の差し込むことのない暗闇から自分を救い出してくれた。
黒須は、眩しいー。
彼女は、救世主だ。


サトコは、いつもの在り来りな日常に戻って事に溜め息をついた。

それは、絶望を意味していたが、良い夢を見せてくれた黒須に感謝した。

短い間だだったが、サトコは、黒須から沢山の事を学んだ。


ー黒須といる時間は、そう長くなくいつか彼女が消えてしまう事を、自覚していた筈なのにー。



    サトコは、これでもかという深い溜め息を着くと検品作業を使い研磨作業に取り組んだ。
    チャイムが鳴り、休憩時間に入る。サトコは、施設の人が作ってくれたおにぎりを頬張るー。

ー母親は、死んですっかり枯れ草のように変わり果てたになった。

ー最後の頼みの綱の黒須は、もう何処にも居ないー。

ー自分は、一人になったのだ。
これから一人で強くならなくてはならないー。


いつものおにぎりだが、そこには温もりのような物を感じ、サトコの目頭は熱くなった。

ー否ー、施設の仲間が居るじゃないかー。


自分は、周りに心を閉ざして生きてきたー。


これからは、自分で切り開いて生きて行かなくてはならないー。



一服し、仕事場へ向かう。


サトコは、検品と研磨作業に黙々淡々と集中する。

マンネリとした、何気ない日常ー。

平和なような漠然とした不安が漂う日常ー。


定時で仕事を終え、サトコは自転車を漕ぎ出し帰路へ向かう。


ふと、気分転換にショッピングモールへと足を運ぶ事にした。



当たりを見渡す。
喉かな田園都市が、辺りを優しく包み込む。サトコの胸は熱くなり、何かあらゆる不安定な感情が込み上げてきたのだ。

涙が頬を伝う。

黒須に会いたいー。

初めてココロを許せる友人が出来たのだ。

黒須は、霊障にあい死にかけた自分を助けてくれた。自分のテリトリーには介入せず、太陽のように自然と自分の心を溶かして開いてくれたー。

自転車を停め、涙を脱ぐう。

サトコは、深く深呼吸する。

また、自分はひとりぼっちに戻ってしまうのだー。

これから、どうやって生きていけば良いのだろうかー?

強い不安感が、脳内を満たしてくる。


気晴らしに空を眺める。
ピンク色に照らされた雲が、優しくサトコを包み込む。

サトコの目には、益々涙が浮かび上がる。


ーと、にょきにょきと伸びてくる黒々とした奇妙な樹木が、視界に入ってきた。

サトコは、ハッとしあたりを伺う。

その奇妙な樹木は、街の至るところに突如と出現する。


不安になり、周りをキョロキョロ見渡す。

周りの者は、普通に談笑し、ふざけあい、何気ない平和な時を過ごしている。

彼等には、何も見えてないー。


サトコしか、見えてないのだ。

黒々とした樹木から、硫黄のような生臭い匂いがあたりを充満する。

サトコは、直感で分かった。


ーこれは、アリアの仕業だ。

アリアの魔力が強まっていくー。


「助けて!誰か!」

振り返ると、遠くの方から、女の子の霊が必死に逃げ惑うのが見えた。

「助けてー!!!」


「……!!」

サトコは、サジタリウスの引き金をを引く。
弾丸は、魔物の頭部に命中した。魔物は、ぶくぶく紫の泡を吹き出し水蒸気に包まれ蒸発した。


「お姉ちゃん、ありがとう……」

女の子は、涙を浮かべながらぶるぶる震えペコペコお辞儀をした。

「あなたは、何処から来たの…?」

「私は、サチが心配で…私、死んじゃったけど…サチを守らないといけないから…」

女の子は、涙ぐむ。
女の子は、自分が死んでいる事が分かっているらしいー。

「この、サチって子は妹さん…?」

女の子は、頷く。

「サチが、サチが、お父さんに…」

女の子は、涙ぐむとしきりにサトコに詰め寄る。
「どうすれば…」
サトコは、困惑した。
黒須が居ないと、不安でそこからどう動けばいいのかが、分からないー。


しかし、目の前の女の子はサトコに救いの手を求めている。
サトコの力を必要としている。
邪険にする事は、出来ない。
「お姉ちゃん、お願い…。」
「…」
「…このままじゃ、サチが…」
「その、妹さんの所に連れてってくれる?」
「うん。」
サトコは、樹木や魔物を避けながら女の子と街中を走る。

途中で、サジタリウスの引き金を引きながら、樹木や魔物から女の子を守った。

樹木や魔物は、動きを一旦停止させた。今まで自分は、守られる側の人間だったが、今度は守る側の人間だ。

自分には、守るべき人がいる。これが、今、自分に課せられた使命であり、試練なのだ。自分が、ここで強く精神的に自立しなくてはならないのだ。

頼れる存在は、もう、居ないー。

2人は、ゼェゼェ息を切らしながら大きな一軒家の前まで辿り着いた。
その庭に巨大な樹木が突き抜けて生えており、そこの一番高い所で幼い少女が縛られていた。
「これ、これなんです…この木が…この木が…」
女の子の目から、涙が溢れ出てくる。

サトコは、サジタリウスを胸ポケットから取り出すと引き金を引き連射した。

樹木は、弾丸を飲み込むと益々魔力を強め大きく生い茂っていく。

「そんな…これじゃあ、逆効果じゃない…」
サトコは、撃つのをやめると眉間に皺を寄せ唖然と眺めるしかなかった。
「…サチ…!」
少女は、めいいっぱい声を張り上げて叫ぶ。
妹は、眠っておりガックリ俯いていた。


サトコは、樹木まで駆け寄るとそれに登ろうとした。しかし、地面から次々と根の先が出現し2人を襲おうとする。
「いやっ…!」
サトコは飛ばされ、尻もちをつく。

「こ、これは…」
サトコは、為す術なく呆然と立ち尽くした。


ーどうすれば、一体、どうすればいいのー?


ーアリアは、一体、何の為に……どうして、一般の人間を……

サトコは、ひたすら頭を抱えて悩んだ。

樹木の枝の縛る力は、益々強くなっていく。

「サチーーーー!」

少女は、しきりに妹の名前を叫び続ける。

あの夜ー。アリアが自分の所に現れた事に大きく関係があるのだろうかー?

アリアは、あの時、眼を細めてサトコの前世をペラペラ得意げに喋った。

アリアは、わざと挑発しサトコの感情を昂らせ弄んだ。


ーわざと、挑発しー?

だったら、一体、何の為に…?


サトコに前世の記憶を蘇らせた所で、何のメリットもないではないか…?

しかし、アリアは何かを狙って待っているのだとしたら…

サトコの前世が蘇り、彼女にとって邪魔な黒須に刃を向けさせる…?

アリアにとって、黒須は、目の上のコブのような存在である。


ーいや、違う…。何か、もっと深い真実が隠されている筈だ…。



サトコが、悩ませ呆然としているその時だった。



青磁色の眩い光が、辺り覆った。


「く、黒須…!?」


この光は、紛れもなく黒須のものだー。

いつの間にここに居たのだろうかー?彼女の気配は、無かった筈だー。


「残念だったな。アリア。もう少しで、貴様の野望は完遂される所だったのにな。」

黒須は、鎖を握る力を強める。
そして、地面から鎖を次々と出現させ、樹木をドーム状に囲った。
彼女の全身は、汗だくのようになっており呼吸は荒くなっていた。
「黒須……?黒須なの……?今まで、どうして……」
サトコは、声を震わせた。
目の前の黒須の姿に、サトコは胸が熱いもので一杯になった。
「この話は、後だ。」
黒須は、鎖を咥えるとパンと手を叩いた。そして、再び次々と鎖が出現した。

「黒須、女の子は、あの女の子が…」

サトコは、女の子を指さした。

「あの子は、大丈夫だ。この木は、もうじき溶けていく筈さ。」

黒々が言い終わるや否や、樹木は粘土細工のように奇妙にぐにゃぐにゃ曲がる。
そして、その拍子に幼い妹の身体は離れ、黒須は彼女の身体をキャッチした。黒須は、女の子を近くのベンチに寝させると、ドーム状の結界を張った。

「サトコ、この子らを頼むぞ。」

「分かった。」

サトコ、強く頷くと女の子を案内しサジタリウスを構え待機していた。

全神経を研ぎ澄ませ、感覚を集中する。

女の子は、横たわる妹の前にオロオロしている。

今は、自分は強くならなくてはならない時なのだ。
これが、自分に課せられた使命なのだ。
いつまでも、黒須に頼ってはならないー。
弱い自分のままでは、駄目なのだ。

黒須は、鎌を構え蛇のように襲ってくる枝を次々と切り刻んでいった。

強い突風が巻き起こり、硫黄の匂いは益々強まっていく。

「鼻を抑えてろ!引き寄せられるぞ!」
 
黒須に促され、サトコは女の子に合図をし自分も鼻を塞いだ。

樹木だった奇妙な塊は、みるみる溶けていく。そして、ぶくぶく泡を吹き出した。
すると、辺りに硫黄のような不快な匂いが充満する。

「アリア…。」

ぶくぶくした混沌とした塊から、アリアの顔が出現した。
「これで、私を殺せる気?」
顔だけのアリアは、悪戯げに顔を傾げた。
「いいや、これは、ほんの序章さ。」
黒須は微笑むと、引っ張る力を強めた。
「だったら、やってご覧なさい。」
アリアは、小馬鹿にしたように眼を細めた。すると、ぶくぶくした塊から次々と人の顔が出現した。
「こ、これは…?」
「これは、死霊だ。アリアは、死霊の魂を沢山吸収してやがる。」
「でも、残念なのよ…。どれもこれも不味くて堪らないわ。」
アリアは、カラカラ嗤った。
そして、塊からアリアの制服姿が出現した。

「アリアは、沢山街中の死霊の魂を喰らい尽くした。そして、捕まっていた少女は、霊力が強い。」
「御託は、あとで沢山聞かせてよ。貴方の魂も、美味しそうね。」
アリアは、両腕を鞭のようにぐにゃぐにゃ振るいながら黒須目掛けて伸ばしてきた。
「いくぞ。最終戦争だ。」
黒須は、アリアを睨みつけると鎌を構え全身に力を込めた。

地響きが起き、青磁色の炎が黒須の全身から滝のように迸った。
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