妹を監禁するはずの悪役から、なぜか執着されています

夏目みや

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第一章 妹を守ってみせる

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 そして迎えた舞踏会当日。

 まったく気乗りしなかったが、ふんわりとしたチュールスカートからのぞく、レースが歩くたびにエレガントな輝きを放つドレスに身を包む。髪はまとめ、パールをたっぷり編み込んだヘッドドレスで飾る。
 自分のことのようにはしゃぐシアナに見送られ、ハモンド家の馬車に乗り込んだ。
 
 ハモンド家の別荘は丘の上にあった。ここら辺一体、貴族たちの別荘が立ち並ぶが、その中でも一番大きな建物だった。華やかな光が外に漏れだし、そこだけ別世界のようだ。

 足取りは重いが、格上のハモンド家、相手の好意を無視しては、いらぬ反感を買うことになる。

 サッと挨拶をして、すぐさま帰宅しよう。理由は体調不良でもいいじゃない。
 私は馬車から降り、意を決してハモンド家へと向かった。

 華やかな人々が集まり、皆が談笑している。
 正直、別荘に来てまで舞踏会なんてしなくていいじゃない。開催するなら王都でやって、別荘ではゆっくりしていなさいよ、と私は勝手に思うけどね。

 リチャードは私の姿を見つけると、すっ飛んできた。

「リゼット様、本日はお越しいただきありがとうございます。ジェラール様のもとへご案内いたします」

 うっ、緊張で喉の奥から胃液がこみあげてくる。

 リチャードが案内する後ろを、緊張しながらついていく。
 やがて人ごみのなかで、目を引く人物が現れた。

 茶色の髪に薄紫の瞳は鋭い知性を感じさせる。長身で細身だが、体つきは筋肉がついていて、鍛えているとわかる。彼に精霊の加護はなく、代わりに剣術が優れている。そして、一般的にすごくかっこいい部類に入るだろう。

 だが、私は騙されない! 彼、ジェラールはエディアルドの手下であり下僕だった。

 優しそうに見えるし、常識人のようだが、カーライル家に仕えているので、エディアルドに逆らうことができない。エディアルドのお守り役でもあり、お世話係だ。

 小説の中で、シアナが軟禁されていることを知りつつ、結局はエディアルドに逆らえず、見ないふりをした薄情者だ。
 ぐぬぬと表情が険しくなったところで、リチャードがジェラールに近づいた。そっと耳打ちをすると、静かにジェラールが顔を上げ、私を視界に入れた。

 ひとたび視線が交わり、鋭い知性に射抜かれたような感覚になった。

「リゼット・グリフです。本日はこのような場にご招待くださり、ありがとうございます」

 内心の緊張を隠し優雅に微笑むと、相手もまたそれに返す。

「よく来てくれた、リゼット嬢。ジェラール・ハモンドだ。先日はエディアが世話になったようだ」
「いえ、当然のことをしたまでですわ」

 頼むから、ここでエディアルド本人を登場させて挨拶とか、言わないでくれよな……!

 冷や汗をかいていると、楽師たちが曲を奏で始めた。
 ジェラールが優雅にスッと手を差し出す。

「一曲お願いできるだろうか、リゼット嬢」
「もちろんですわ、ジェラール様」

 だから目立つことは、したくないんだってば!!

 内心では頭をかきむしりながら、ジェラールに向かって微笑む。彼は私の手を引き、会場の中央へ進む。

 皆が私たちに、いや、主催者であるジェラールに注目しているのだろう。婚約者でもないのに、ファーストダンスの相手だなんて、嫌でも注目を浴びるに決まっている。

 若い女性たちから嫉妬と憧れが入り乱れた視線を浴びながら、踊り始めた。
 そういえば、ジェラールはまだ、婚約していなかったよな。年齢は十九歳だったから、婚約者がいてもおかしくはないが、エディアルドの世話で忙しいからかな。

 なかなか苦労しているのかもしれない。ま、かといって同情はしないけどね。

 ようやく一曲、踊り終えようとした時、ふと強い視線を感じ、顔を上げる。
 フロアには二階があり、そこで会場を見下ろすことができるが、気のせいか……?

 やがて踊り終えると、ジェラールと挨拶をして別れることに。

「今日はありがとうございました」
「いや、こちらこそ。エディアに会って――」
「ああっ、すみません」

 ジェラールの言葉を遮り、額に手を当て、フラフラと倒れ込むような真似をする。

「実は私、体調が良くありません。申し訳ありませんが、今日はこれで失礼いたします」

 心配そうな眼差しを送るジェラールが言葉を挟む隙を与えずに、一気にまくしたてる。

「では、エディア様にもよろしくお伝えください。あと、今後はこういったお気遣いは結構ですから。妹の療養に来ているものですから、しばらくは側についていたいのです」

 これっきりでいいから、今後も社交辞令的に誘うなら、勘弁してくれよな、って意味を込めた。もっとも、伝わっているのかわからないが、言うことは言ったので、さっさとこの場を離れよう。

 ジェラールが声をかけようとすることに気づいたので、先手を打つ。

「――では、失礼いたしますわ」

 カーテンシーを優雅に決め込み、いざ退散と踵を返した。
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