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第13話 結婚お披露目パーティーに向けて4
しおりを挟む「なんなら、私が代わりにロイさんをぶん殴って……」
「――ラナ!」
言いかけた時、なんとロイさんが息を弾ませてやってきた。
すぐに追いかけてきた……にしては、遅すぎる。追おうとしたけどあの女性と揉めて、なんとか宥めてから遅れてやってきたってところかな?
「ラナ……違うんだ。話を聞いてほしい」
ラナさんの前まで、進み出るロイさん。俺のことは眼中になし。
「ロイ……」
ラナさんはベンチに座ったまま、戸惑った表情でロイさんに応じる。膝の上で握り拳を作って、震える声で問うた。
「話、って何?」
「さっきのことだ。僕は浮気なんてしていない。ラナの早とちりだ」
ラナさんの眦に険が宿る。
「あんな分かりやすい会話をしておいて、白々しいわね」
「本当に違う。あの子は、君が思っているような浮気相手じゃない」
「じゃあ、誰なのよ」
「僕の妹だ」
黙って聞いていた俺は、呆気に取られた。――え、妹!?
そ、そういえば、ラナさんのことも、あの女性のことも大切だって言っていたっけ。あれって、家族だからあの女性のことも大切だって答えていたってこと?
嘘……じゃないな。ロイさんのご両親に確認をとればすぐに分かる。ユージスが調べ上げるのでもいい。とにかく、嘘ならあっさりとバレる主張だ。
ラナさんも同じように感じたんだろう。ますます困惑した顔になった。
「妹さん……? ほ、本当に?」
「本当だよ。信じてほしい。近々、僕の両親と一緒に紹介しようと思っていたんだ。一度、僕の実家にきてくれたら、両親が証人になってくれる。だから……このまま、別れるなんて言わないでくれ。僕にはラナが必要なんだ」
「………」
押し黙るラナさん。しばし沈黙が下りたけど、ロイさんの言葉に嘘はないって信じたみたいだ。ベンチから立ち上がって、ロイさんの頬に手を触れた。
「そうだったの。ごめんなさい、殴ってしまって」
「それはいいんだよ。いっときでも、君を傷つけてしまった僕が悪いんだ」
二人は向き合いながら、小さく笑い合う。
仲直り、か。でもまさか、あの女性が妹さんだとは思わなかったな。すっごい、ブラコンってことなのか。
ともかく――俺はぽつんと一人だけベンチに座って、リア充たちの様子を温かく見守るほかなかった。
その後、目的だった仕立て屋さんにラナさんと行き、夜会服の色を見繕ってもらった俺。淡い紫色の夜会服を注文することになり、俺たちは帰路についた。
ザエノス侯爵邸の敷地に入ったところで――
「あれ? ユージス?」
屋敷の前で、ユージスが難しい顔をしてウロウロしていた。まるで不審者だ。何をやっているんだ、あいつ。
そんな挙動不審のユージスだけど、俺の顔を見た途端、僅かに安堵の顔を浮かべた。
「帰ってきたか。遅かったな」
「ああ、うん。ちょっと寄り道をしてきて。あんたはこんなところで何をしているんだ?」
謎でしかない。侯爵としての仕事があるだろうに……いや、まぁ今日の分の仕事はあらかた片付けてはいるだろうけども。
怪訝な顔をする俺を、ユージスはそっと抱き寄せた。
「無論、あなたの帰りを待っていた。その、心配していたんだ」
えーっと、俺たちの帰りが遅いから、気になって屋敷の前で待っていたってこと? 過保護だな。俺は小さな子どもじゃないんだから。
っていうか、なんでさりげなく俺を抱き寄せているんだ、こいつ。
「心配性だな」
「ひととはいつ何が起きるか分からないものだろう。もしも、あなたの身に何かあったらと考えたら怖いんだ」
ふむ。俺の身に何かあったら、跡取りを産めなくなるもんな。そりゃあ心配もするのか。それにしたって、怖いっていうのは大袈裟だろうと思うけど。
俺はユージスの腕の中で、ふわりと笑った。
「あんたの子どもを産み育てるのは俺だ。それまでは意地でも死なないよ」
可愛い我が子の顔を見るまで、たとえ殺されたって死なないぞ。
迷いなく言い切ると、ユージスはなぜか頬を朱に染めて僅かにたじろいだ。
「そ、そうか。それは頼もしい限りだ」
ユージスはようやく俺を解放した。俺たちは三人揃って屋敷の中へと戻る。あちこちにカレンデュラのお花が飾られている華やかな屋敷内へと。
違う仕事に戻るラナさんと別れ、二人っきりになる俺とユージス。階段をのぼって、俺たちもそれぞれの自室へ戻ろうとしたところ、ユージスに呼び止められた。
「フィルリート。その、早く子どもを授かれたら嬉しいな」
「え、あ、うん。そうだな」
可愛い我が子を産みたい俺と、跡取りが欲しいユージスだ。俺たちの利害は一致しているわけで、特におかしい言葉じゃない。
へらっと笑って応じる俺の口に、ユージスの柔らかい唇が押し当てられた。
――ん!? またキス!?
俺を逃がしたくないからって一生懸命すぎるだろ。背景にブリザードを吹雪かせていたお前は、一体どこに行ったんだ。
「あなたも、子どもも、俺が守るから」
大事な跡取りを守るのは分かるけど、俺も守備範囲に入れるのは生みの父になるからか?
っていうか、よくよく考えたら、もし俺が跡取りを産んだら、その先の俺への態度はどうなるんだろう。激甘対応が続投するとは思えん。手の平を返して冷たくなるんだろうか。それでもまぁ、俺は気にしないけど……その辺りが気になると言ったら気になる。
なんにせよ、キャラ変ぶりに肌が粟立つんだけど。
――ちなみに、後日談として。
ロイさんと一緒にいた女性は、本当にロイさんの妹だと判明した。度がつくほどのブラコンで、兄であるロイさんが結婚することに猛反対していたのだと。
あの時の会話は浮気発覚テンプレみたいなやりとりだったけど、兄妹間のやりとりに過ぎなかったというわけ。よってロイさんは無実だった。だから、仲直りをした二人は予定通り結婚話を進めることにしたみたいだ。
あの強烈なブラコン妹がいるのは大変だろうけど、でも苦楽をともにするのが夫婦ってものだ。少なくとも、ラナさんは苦労すると分かっていてもロイさんへの愛を貫く決断をした。
なんというかすっごく、尊いことだよなぁ。
「私、フィルリート様に一生ついていきますね!」
報告してきたラナさんは、最後に笑顔でそう引き結んだ。嬉しいけど、一生って。好感度がカンストしてしまったよ。
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