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第20話 溺愛モードは……★

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「あっ、はっ、やぁぁっ」

 下から激しく突き上げられる。身体が浮き上がるくらいの勢いなものだから、俺は目の前のユージスにしがみつかずにはいられない。

「可愛いな。フィルリート」
「んんっ」

 嬌声を上げる俺の口を、自身のそれで塞ぐユージス。
 俺たちは今、対面座位の形で致しているところだ。だけど……激甘対応に変化してからの性行為は四度目。未だに慣れない。
 キスしている間にも攻めが止まることなく、俺の意識が飛んでしまいそうになる。その、あまりにも気持ちがよくて。以前は苦痛だったノルマ性行為だけど、今日はなんだろう。妙に感じてしまう。

「ユー、ジス……も、ダメェェ」
「ああ。一緒にイこう」

 ガクガクと揺さぶられてから、一息に貫かれると、あっさり達してしまった。同時に俺の中へとユージスの蜜液が放たれて……下腹部が熱い。
 肩で息をする俺にユージスはキスをして、ゆっくりと寝台に押し倒した。そのまま男根を抜くんだろうなと思ったんだけど、なんとユージスの雄は再び硬さを取り戻していく。
 え、ちょっと、おい。まさか――二連戦!?
 内心ぎょっとする俺の耳元に、ユージスは吐息をこぼすように囁く。

「もっとあなたを愛したい」

 え、えっと……なんで? 一回、射精すれば、今月のノルマは達成だろ。それで十分のはずじゃん。それなのにまだ続けたいのか? 性欲旺盛なお年頃ってやつ?

「いいだろうか」
「べ、別にいいけど……」

 うっかり許可を出してしまう、俺。我ながらなんでだ。もう疲れたからって断ればよかったのに。丸っきり嘘ってわけでもないし。
 戸惑いつつ、受け入れて二ラウンド目に突入。なんだか、激甘対応が加速している気がするのは、気のせいか……?

「フィルリート。愛している」

 全身にキスの雨を降らせるユージスの愛の睦言。
 俺は不意打ちを食らった気分で、どきりとしてしまった。平静を装って顔には出さなかったけど、でも身体は正直だ。中がキュンと引き締まって、ユージスをきつく締めつけた。
 そんなちぐはぐな反応の俺に、ユージスは小さく笑う。

「幸せにするから」

 もう一度キスをして。
 ユージスは俺の身体を、熱く、激しく、それでいて優しく、貪った。




 結局、その日の性行為でも、子どもは授からなかった。
 ……子ども、か。欲しい気持ちは変わらないけど、でもこんな考え方でいいのかっていう迷いが今の俺にはある。子どもができるなら相手は誰でもいい、なんてさ。『元恋人』と同じ思考回路じゃん、って。
 俺は……本当にそれでいいのか?

「フィルリート」

 ユージスから名前を呼ばれて、俺ははっと顔を上げる。広間で紅茶を飲んでいたところなんだけど、いつの間にかユージスが傍にきていた。

「あ……ユージス。なんだ?」

 へらっと笑って応えると――。
 ――こつんっ。
 俺の額に、ユージスの額が軽くぶつかった。
 驚いて飛び上がりそうになる俺に対して、ユージスは至極真面目な顔だ。

「熱は……ないようだな。ぼぅっとしているようだったが」

 思考の海に沈んでいた俺が、体調を崩しているのかもしれないって思ったみたいだ。これも純粋に心配してくれているんだろうけど、過保護感が否めない。

「だ、大丈夫だよ。心配性だな。それより、どうしたんだ」
「ん? ああ、そろそろ新婚旅行へ行かないかという誘いをしにきた」

 新婚旅行? ああ、そういえば俺たち、新婚旅行も行っていなかったっけ。仮面夫夫なんだから別に行く必要はないだろうって思う反面、屋敷から外界に出られる貴重なチャンス。
 何か珍しいお花の種も手に入れられるかもしれないし、行ってみてもいいかも。

「ふぅん……いいけど、どこに行くんだ?」
「カトリシア地方伯爵領だ。ちょうど雪洞祭りのシーズンだから、どうかと思ってな」

 俺は目を瞬かせた。……ん? カトリシア地方伯爵領? あれ、カトリシア地方伯爵領って――ユージスの故郷じゃないか?
 ユージスは、元はカトリシア地方伯爵家の嫡男。だけど、この国では成人しないと家を継げない決まりだから、成人する前に両親を亡くしたユージスはザエノス侯爵領の孤児院で育ったという生い立ちなんだ。だから、カトリシア地方伯爵領は、現在は別の家系が治めている。
 故郷に顔を出したい思いがあるのかな。いやでも、別の家系が治めている故郷に戻るのも複雑な心境のような気もする。どうなんだろう。
 そんな考えが表情に出ていたらしく。ユージスは苦笑いで、ぽんと俺の頭に手を置いた。

「あなたに雪洞の美しさを見せたいだけで、場所選びに深い意味はない」
「あ……そ、そうか」

 なんだ。俺の考え過ぎか。思考が踏み込み過ぎていたかも。
 不快感を与えてしまったかもしれないと反省したけど、ユージスの優しげな眼差しが俺を見下ろして、そのまま流れるようにキスをされた。

「俺の心を慮ってくれてありがとう。だが、俺はもう『ザエノス侯爵』だから」

 かつての地位や故郷にもう未練はない、ってことかな。
 地位的な意味ならまぁ、地方伯爵と侯爵とじゃ比べるまでもないだろうけど、それはそういう問題じゃないだろう。権力にさほど執着のないユージスだ。できるなら、両親の跡を継いでカトリシア地方伯爵領を治めたかったという思いは少なからずあったはず。
 それでも今は、ザエノス侯爵としてザエノス侯爵領の民を守るために一生懸命頑張っているんだよな。えっと、もちろん跡取りを残すことにも。
 あ、っていうか。俺……キスされることに、もはや驚かなくなってしまった。だってさ、ここ三ヶ月以上前から事あるごとにキスされるものだから……慣れって怖いな。
 でも、忘れるな。俺。ユージスはただ俺に跡取りを産んでほしくて、俺を逃すまいと激甘対応しているに過ぎないんだ。だから。
 跡取りの子どもを産んだら――この溺愛モードはあっさりと終わるんだよ。

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