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本編

第12話 急展開3

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 その日の夜に、ジェイラスは離宮に顔を出した。

「ノア! 大丈夫か!」

 気遣わしげな表情で駆け寄ってきて、俺を抱き締める。遅いんだよこのバカ、と突き飛ばしたい衝動をぐっと堪え、弱々しい声で「はい……」と返答しておいた。
 いやでも、マジでくるのが遅いだろ。まさか、こんな時間まで王都の街の視察に出ていたわけじゃあるまいに。何していたんだよ。

「話は臣下から聞いた。尋問なんてされて怖かっただろう」

 怖いっていうか、腹立たしかったな。でも、俺が作ったキャラ的には、怖がっていたという方がいいんだろうな。
 というわけで、「はい、怖かったです……」とまたも弱々しい声で答えた。
 ジェイラスはしばし俺を抱き締めた後、体を離して俺の両肩を掴んだ。真っ直ぐな眼差しで俺の顔を覗き込む。

「今、側近たちと真犯人を探しているところだから。君の潔白は必ず晴らす。こんなところに住まわせてすまないが、それまで耐えてくれ」
「……分かりました」

 どう考えても、黒幕はヴィクターなんだけどな。そう伝えても、なんでそう思うんだって聞かれたら上手く答えられない。だから、俺はそれとなく誘導することにした。

「あの、ジェイラス陛下。エマニュエル殿下が平民出身のことはご存知でしょうか」
「ん? ああ、ヴィクターから聞いている。君も知っていたのか?」
「はい。エマニュエル殿下が毒殺未遂に遭った日に、ひそかに打ち明けられまして……それでその、もしかしたら平民出身の私やエマニュエル殿下を正婿にはつけたくない選民派の方が、黒幕なのではないかと私は思うのです」

 ジェイラスは感心したような目を俺に向けた。

「……なるほど。確かに、俺はレスターを正婿に選ばないと宣言したばかりだ。ありえるな。その線も調べさせよう」

 よしよし。こういう時は素直な奴で助かるな。
 と思っていたら、ジェイラスは少々戸惑った目で俺を見下ろした。

「それにしても、今日はなんだかいつもと雰囲気が違うな。やけに冷静だ」

 げっ!? しまった。俺の作ったキャラじゃなかったか。
 俺は慌てていつものわがまま側婿を演じた。

「ジェ、ジェイラス陛下がすぐにきて下さらなかったから、待ちくたびれて自分でも真犯人ついて考えていたんです! もうっ、どうして顔を出すのがこんなに遅いんですか!」

 眦をつり上げて理不尽に責めると、ジェイラスは慌てふためいた。

「す、すまない。そうだな、まず君に会いにくるべきだった。君を助け出すことを優先させるべきだと判断してしまって……本当にすまなかった。不安にさせてしまって」
「すまないと思うのなら、早く真犯人を見つけ出して、私をここから解放して下さい! そうしたら……ゆ、許してあげますよ」

 まっ、こんなもんでいいか。俺の考えるわがまま側婿でこいつを心変わりさせるのは難しそうだし、何より今は罪人ルートから外れることが第一だ。
 ジェイラスは表情を引き締めて頷いた。

「分かった。全力で真犯人を突き止める。それまではここにはこない。寂しい思いをさせるかもしれないが、俺を信じて待っていてくれ」
「はい。信じています」

 俺たちは再び抱き合い、そして別れた。……な、なんか、雰囲気に流されて抱き合ってしまった。いつもはただ抱き締められるだけなのに。
 肌が粟立つのを感じつつ、俺は立ち去っていくジェイラスの背中を見送る。
 ……そういえば。あいつ、俺が無実かどうかを確認すらしなかったな。濡れ衣だって心から信じているみたいだった。
 そりゃあ、寵愛を受けている俺がそんなことをするわけがないと思うのは、当然と言えば当然だろうけど……でも、なんか。
 胸の辺りがぽかぽかと温かい。




 それからあっという間に一週間が過ぎた。
 ジェイラスは本当に離宮へ足を運んでこない。きっと、側近たちと俺を助け出すべく真犯人を突き止めるために、寝る間も惜しんで奔走しているんだろう。
 それはありがたいことなんだけど……でも、毎晩のように通ってきていたのがぴたりとこなくなって、なんだか変な感じ。
 ちゃんと休憩もとっているのかな、あいつ。ぶっ倒れていないだろうな。

「寂しいですね」

 宮女の声が聞こえて、俺はぎくっとした。
 寂しい? 寂しそうな顔をしているのか、俺。あいつの顔を見られないから?
 ははっ、そんなわけないじゃん。俺はあいつのことなんて鬱陶しく思っているんだから。

「そ、そんなことありませんよ。ただ、毎晩顔を合わせていたのが急になくなって、変な感じがするだけです」

 昼食から顔を上げてそう返答したら……あれ? 宮女たちが不思議そうな顔をして振り向いた。二人は顔を見合わせてから、くすくすと笑う。

「ノア様、私たちがお話していたのは、白薔薇宮へ残した他の宮女たちのことですよ」
「ふふ、ジェイラス陛下がいらっしゃらなくなって、お寂しいのですね」

 わわっ、俺に話しかけていたんじゃなかったのか! は、恥ずかしい……!
 俺は耳まで熱くなるのを感じ、俯いた。くそっ、これもジェイラスのせいだ。あいつがさっさとヴィクターの悪事を暴けないのが悪い。
 早く日常に戻せよ。正婿ルートから外れる方法を必死に考えて、奮闘していたあの日々に。それで俺は……後宮から解放してもらって、第二の人生を謳歌するんだ。
 だから、とっととヴィクターをとっ捕まえたって、俺に報告しにこい。

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