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第1章

7 誓い

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「昨日までは何事も無く日本という国で暮らしてたんだ。ところが、一晩眠って朝に目が覚めたらこの世界にいた。……本当に、なんかの小説かなって言いたくなる状態で」

 苦笑する俺に二人は慮るような目を向けた。

「やはり、そうなのですか。何と言えばいいのか……」

「神隠しみたいなものなんかな。なんつうか、気を落とすなよ」

 少し湿っぽい空気になってしまう。
 しかし、この二人は俺みたいな常軌を逸するブサイクに対して、随分優しいなぁ。

「あ、いや、あんまり心配しないでください。俺はあんまり気にしてないんです。元々、なんというか……天涯孤独な身の上だったので。体の調子もあまりよくなかったのに、こっちに来てから妙に体の調子がいいですし」

 俺は元気に見えるように笑みを浮かべるが、二人は俺を見てさらに沈痛な表情を浮かべる。

「なんと気丈な……」

「ああ、心細いだろうに」

 なんか幼い子供を見守る親御さんみたいだな……。

「ええと、そんなわけで近くに町みたいなのがあれば教えていただけると助かるんですけど」

「ノブル殿!」

「は、はい」

 唐突にミリアムが大声を出すので、びっくりしてしまった。
 そんな俺ににこりと微笑んだミリアム。

「ご安心くだされ。このミリアムが責任を持ってノブル殿を後見させていただきます!」

「え!?」

「今回、ノブル殿とアノア殿のおかげで魔獣たちから荷も馬車も守ることができました。ズェンの町に商品を運べば少なくない利益が出るでしょう。それを元に、ノブル様が二テラで心を安んじて生活できるよう、バックアップさせていただきます」

「ミリアムさん……」

「おいおい、ミリアムだけにいい格好はさせないぜ。もしノブルがいなかったら、油断していたオレは真っ先にシャドウウルフの餌食になっていただろう。五体満足でいられるのはノブルのおかげなんだ。オレはミリアムみたいに頭は回らないけど、腕っ節はそこそこのもんだと自負してる。だから、さ」

 アノアは俺の肩に手を置く。

「そんなに心配そうな顔をするなよ。何かあったら絶対にオレが助けるからさ」

 その言葉に俺の心が激しく揺らいだ。

「な、なんで」

 胸の奥から何かがせり上がってきそうだった。
 
「なんで、そんなに俺に優しくしてくれるんですか……。俺みたいにどうしようもない奴に。俺はお二人に返せるものなんて何も無いんですよ」

 そう、俺みたいなワールドクラスのブサイクをそこまでして助ける義理なんてないのだ。
 二人のような美少女は俺とは縁の遠い存在だ。
 月とスッポンで、ブタに真珠。
 彼女たちのような美の神に選ばれたような人たちとは住む世界が違うのだ。
 それなのに、二人はどこまでも優しかった。

「さっきも言ったろ、ノブルは俺たちの命の恩人だって。それに」

 アノアさんは照れくさそうに鼻をかきながら頬を染めた。

「ノブルはオレみたいな奴でも顔を逸らさずに、笑顔でじっと目を見て話してくれるじゃんか。そういう些細なことがとても嬉しいんだ。だからなんとかしてやりたいって心底思うんだ」

 勅使が躊躇われる……?
 意味がよくわからないが、俺の今までの対応が良かったってこと?

「それは私も同じですぞ。ノブル様が私たちに誠意をもって話をしてくれるということを強く感じております。そんなノブル様だからこそ、力になりたいと思うのです」

 胸に手を当てて言うミリアム。
 その二人の言葉に、俺は目頭の奥が熱くなる。
 奥底から溢れてくる涙をおしとどめられなかった。
 体が震え、腰が砕け、足に力が入らない。
 俺は立っていられなくなって、思わず目の前のアノアにかぶさるように抱きついてしまっていた。

「わわわっ……、ど、どうしたノブルっ……。どっか痛いのかっ……!?」

「な、なんとうらやま……ではなかった! ノブル殿大丈夫ですかっ?」

「うっ……うっ……」

 暖かいものが胸に溢れ、俺は涙を流していた。
 そして心の中で決意していた。
 アノアとミリアムが俺を助けてくれるといったように、もし彼女たちに何かが起こったら俺が必ず助けようと。
 無力な俺にできることがあるとも思えなかったが、それでもその誓いを胸に持っていれば二人のためにできる何かが見つかるかもしれないって思えたから。
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