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悪役令嬢?
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リグロインと共に教室を出た私は人通りが少ない、しかし人目のつく場所へとやって来た。
この学園では、学生は等しく平等であることを基本とされている。それでも勿論、身分を笠に着るような人は後を絶たないのが現状ですけれど…歴代の王族の八割以上がそれを良しとせず、一般市民の生徒と同じように過ごされた過去から、学園内では皆等しく一生徒として過ごすのが習わしとなっている。
しかしそれは学園内及び学園に関係する事柄の話なだけで、一歩でもそこから出てしまえば王国内の身分制度が待ち受けている。前世風に言うのなら、公私を分ける、と言うのが近いだろうか。
もし身分を振りかざすような方が居たら……公私を分けられない方って、前世でも嫌われておりましたわね。要するにそういう事。
じゃなきゃ公爵令嬢の誘いなんてたかだか子爵家の私が断れる理由がないのよ!
「はー……お嬢、アンタいったい何やったんだよ。」
「……そんなの…。」
私が足を止めると、ため息混じりに呆れたような声色で話しかけてくる彼。
何を。何をしたと言うのかしら。
思わず、人目もはばからずに膝から崩れ落ち、四つん這いになってしまう。
「そんなの私の方が知りたいわよぉぉお!!」
「ちょ、お嬢?どうしたよ?」
焦ったように声を掛けすぐ傍に跪いてくるリグロインは、リロイと違って優しいわね。言葉遣いは家でも変わらないけど、私をお嬢と呼ぶのはあたしとしてはとても好感がある。小さい頃はアンナと呼んでいたんだけどね、思春期というやつかしら。これくらいの年頃の男の子って難しいのよねぇ、よく分かるわ。
「何度も言うようだけれど私は悪役が良いの。」
「あー…リロイから聞いた。悪役聖女だか何だか知らねぇけど、お嬢には無理。無理無理無理。」
問答無用で彼の弁慶の泣き所、つまり脛をグーパンする。魔法で自分の手をちょっと硬化させるのがコツ。
ゴツッと良い音をさせ、脛を押さえながら悶絶する彼を尻目に立ち上がってスカートに付着した埃を払い落とす。
身分を笠に着るのは嫌われる、けれどそれは一部の者に対してのみなら適応されない。それはその家に仕える者だ。私の場合はリグロインね。クラスが離れてしまったけれど、リロイも入る。何故なら彼等は一生徒でありながらも、護衛等の役割も持っているからだ。
「――…~っ、そもそもさあ!」
痛みで涙目になりながらも、尚言葉を投げかけてくるリグロインに目を向ける。
「聖女、だろ。悪役になるって、国を――いや、世界を亡ぼすつもりか?」
近くに人はいないとは言え、声を潜めたリグロインの言葉に思わず詰まる。
悪役聖女になると目標を掲げはした、でも確かにあたしはそこら辺のビジョンをまったくもって明確にしてはいなかった。
エルルカ様をハーレムヒロインに仕立て上げた、それが叶ったとして、ではその後は?
リグロインが言った言葉は大袈裟な事じゃない。それは歴史が証明している。
――国王からの手紙を受け取ってから二か月、あたしはずっと聖女に関係する資料を調べてきていた。まだ大々的に発表はされていないけれど、国王に聖女として改めて聖女に関する勉強がしたいと言えば、あっさり許可された上に、資料を集めるのは国でやってくれたから楽勝だった。
そうして知った事実。聖女とは、何故か短命だったのだ。世界の平均寿命は、地球の日本と近く80前後もある。冒険者に絞ってしまえば平均寿命はグンと下がって40~50だが、聖女となると平均寿命が冒険者の半分。どれだけ健康であっても、最も長く生きた聖女でさえ、50は越えていないとされていた。
リロイと話した時は、「何かが起こるとされている」という不明確な物言いだった。けれど、歴史を紐解いていくと、必ず世界の危機に瀕した何かが起こっているのだ。単純に、それが解決された時の規模が大きいか小さいかの違いなだけで。小さいからこそ、目立ってこなかっただけ。
そういった事象をすべて纏め、秘匿として来ていたのは国、というのも調べがついた。無駄に国民を混乱に陥れる必要も無いのだから、小さい規模のものが隠されるのはまぁ納得できない事ではないけれど。
でも、何故、何も知らない筈のリグロインが世界を亡ぼすと言えるのか。まるで必ず何かが起こるとでも言いたげに。
「リグ、あなた…?」
口を開き訝しさを滲ませた声色でリグロインの愛称を呟くと、彼は私に背中を向け、上着を捲って素肌を晒した。日に焼けて小麦色をした肌の、腰の位置。左側に、魔法陣のような円形の複雑な印があった。
あたしの知識として、彼が円卓の騎士になるというのは知っていた。けれど、その模様を見た瞬間に、私は本能に近い何かで、彼が真の円卓の騎士なのだと理解した。
「……二ヶ月くらい前に、急に熱くなったと思ったら浮かび上がってた。それからだ、毎夜の如く夢で世界が滅びかけていくのを見るようになって…そんで、一人の女性と、六人の男性が出てきて。毎回人は変わるんだけど、何でか、これは過去の聖女達なんだ、ってのが分かんだよ。」
そこまで語ってから、服を戻して再びこちらを向く――面倒臭いからもう愛称にしましょう。リグの顔は、どこか悲しそうだ。
「だから、……聖女が出るってことは、そういう事、だろ。」
そういう事、とは。世界が危機に瀕するという意味だろう。
そんな夢を見るだなんて…ゲームでは出てこなかったイベントだわ。そもそも、聖女が短命という事もゲーム内では出てこなかった内容…。
今の人生が私にとっての現実だと思っておきながら、あたしは心のどこかでゲームの世界なのだと認識していたようね。やたらとひっついてくるエルルカ様だって、ゲームとは大きく違うんだもの。
いえ、そもそもイベントと呼ぶのだって間違っている。
「……円卓の騎士である前に、リグは私の騎士見習いよ。そんなリグを不安にさせるだなんて、私は駄目な上司ね。」
「見習いを強調するのは悪意があるように聞こえるんだが。」
「人聞きが悪いわね、可愛がっているだけよ?」
「尚悪いわ!」
この学園では、学生は等しく平等であることを基本とされている。それでも勿論、身分を笠に着るような人は後を絶たないのが現状ですけれど…歴代の王族の八割以上がそれを良しとせず、一般市民の生徒と同じように過ごされた過去から、学園内では皆等しく一生徒として過ごすのが習わしとなっている。
しかしそれは学園内及び学園に関係する事柄の話なだけで、一歩でもそこから出てしまえば王国内の身分制度が待ち受けている。前世風に言うのなら、公私を分ける、と言うのが近いだろうか。
もし身分を振りかざすような方が居たら……公私を分けられない方って、前世でも嫌われておりましたわね。要するにそういう事。
じゃなきゃ公爵令嬢の誘いなんてたかだか子爵家の私が断れる理由がないのよ!
「はー……お嬢、アンタいったい何やったんだよ。」
「……そんなの…。」
私が足を止めると、ため息混じりに呆れたような声色で話しかけてくる彼。
何を。何をしたと言うのかしら。
思わず、人目もはばからずに膝から崩れ落ち、四つん這いになってしまう。
「そんなの私の方が知りたいわよぉぉお!!」
「ちょ、お嬢?どうしたよ?」
焦ったように声を掛けすぐ傍に跪いてくるリグロインは、リロイと違って優しいわね。言葉遣いは家でも変わらないけど、私をお嬢と呼ぶのはあたしとしてはとても好感がある。小さい頃はアンナと呼んでいたんだけどね、思春期というやつかしら。これくらいの年頃の男の子って難しいのよねぇ、よく分かるわ。
「何度も言うようだけれど私は悪役が良いの。」
「あー…リロイから聞いた。悪役聖女だか何だか知らねぇけど、お嬢には無理。無理無理無理。」
問答無用で彼の弁慶の泣き所、つまり脛をグーパンする。魔法で自分の手をちょっと硬化させるのがコツ。
ゴツッと良い音をさせ、脛を押さえながら悶絶する彼を尻目に立ち上がってスカートに付着した埃を払い落とす。
身分を笠に着るのは嫌われる、けれどそれは一部の者に対してのみなら適応されない。それはその家に仕える者だ。私の場合はリグロインね。クラスが離れてしまったけれど、リロイも入る。何故なら彼等は一生徒でありながらも、護衛等の役割も持っているからだ。
「――…~っ、そもそもさあ!」
痛みで涙目になりながらも、尚言葉を投げかけてくるリグロインに目を向ける。
「聖女、だろ。悪役になるって、国を――いや、世界を亡ぼすつもりか?」
近くに人はいないとは言え、声を潜めたリグロインの言葉に思わず詰まる。
悪役聖女になると目標を掲げはした、でも確かにあたしはそこら辺のビジョンをまったくもって明確にしてはいなかった。
エルルカ様をハーレムヒロインに仕立て上げた、それが叶ったとして、ではその後は?
リグロインが言った言葉は大袈裟な事じゃない。それは歴史が証明している。
――国王からの手紙を受け取ってから二か月、あたしはずっと聖女に関係する資料を調べてきていた。まだ大々的に発表はされていないけれど、国王に聖女として改めて聖女に関する勉強がしたいと言えば、あっさり許可された上に、資料を集めるのは国でやってくれたから楽勝だった。
そうして知った事実。聖女とは、何故か短命だったのだ。世界の平均寿命は、地球の日本と近く80前後もある。冒険者に絞ってしまえば平均寿命はグンと下がって40~50だが、聖女となると平均寿命が冒険者の半分。どれだけ健康であっても、最も長く生きた聖女でさえ、50は越えていないとされていた。
リロイと話した時は、「何かが起こるとされている」という不明確な物言いだった。けれど、歴史を紐解いていくと、必ず世界の危機に瀕した何かが起こっているのだ。単純に、それが解決された時の規模が大きいか小さいかの違いなだけで。小さいからこそ、目立ってこなかっただけ。
そういった事象をすべて纏め、秘匿として来ていたのは国、というのも調べがついた。無駄に国民を混乱に陥れる必要も無いのだから、小さい規模のものが隠されるのはまぁ納得できない事ではないけれど。
でも、何故、何も知らない筈のリグロインが世界を亡ぼすと言えるのか。まるで必ず何かが起こるとでも言いたげに。
「リグ、あなた…?」
口を開き訝しさを滲ませた声色でリグロインの愛称を呟くと、彼は私に背中を向け、上着を捲って素肌を晒した。日に焼けて小麦色をした肌の、腰の位置。左側に、魔法陣のような円形の複雑な印があった。
あたしの知識として、彼が円卓の騎士になるというのは知っていた。けれど、その模様を見た瞬間に、私は本能に近い何かで、彼が真の円卓の騎士なのだと理解した。
「……二ヶ月くらい前に、急に熱くなったと思ったら浮かび上がってた。それからだ、毎夜の如く夢で世界が滅びかけていくのを見るようになって…そんで、一人の女性と、六人の男性が出てきて。毎回人は変わるんだけど、何でか、これは過去の聖女達なんだ、ってのが分かんだよ。」
そこまで語ってから、服を戻して再びこちらを向く――面倒臭いからもう愛称にしましょう。リグの顔は、どこか悲しそうだ。
「だから、……聖女が出るってことは、そういう事、だろ。」
そういう事、とは。世界が危機に瀕するという意味だろう。
そんな夢を見るだなんて…ゲームでは出てこなかったイベントだわ。そもそも、聖女が短命という事もゲーム内では出てこなかった内容…。
今の人生が私にとっての現実だと思っておきながら、あたしは心のどこかでゲームの世界なのだと認識していたようね。やたらとひっついてくるエルルカ様だって、ゲームとは大きく違うんだもの。
いえ、そもそもイベントと呼ぶのだって間違っている。
「……円卓の騎士である前に、リグは私の騎士見習いよ。そんなリグを不安にさせるだなんて、私は駄目な上司ね。」
「見習いを強調するのは悪意があるように聞こえるんだが。」
「人聞きが悪いわね、可愛がっているだけよ?」
「尚悪いわ!」
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