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婚約者編
ⅩⅩⅩⅠ
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「こっちもどうぞ」
「……」
クッキーだ。困惑気味に一つ取り、口へと運ぶ。小さな桃色の唇が開き、小さな一口を齧る。
「………」
サクサクと残りを食べていくヴァレンティーナをちょっとハムスターみたいだなと思いながら、ジルベルトは彼女の反応を逃すまいと食い入る様に見詰める。
「美味しい」
その一言で安堵の溜め息を漏らすとヴァレンティーナはいつも下げていた目線をこの時初めてジルベルトと合わせた。
「!」
目の合ったヴァレンティーナの藍色の瞳は、興味という色を読み取ったジルベルト。それはクッキーへの興味なのか、もしくは自分への興味か判断できずにいると
「名前は…」
「名前?ん~紅茶クッキーかな?クッキーの生地に紅茶の茶葉を練り込んだんだよ。どうかな?これなら食べられる?」
少し不服そうな雰囲気だったが、なんで、そう感じたのかは分からない。ただの直感だったような気がする。
「なんで、甘いのが得意ではないと分かったんですか?」
今までで一番長く喋っている気がする。ジルベルトは感動した。これ迄は必要最低限しか喋ってくれなかったのに今日は、どうした事だろう。心境の変化か、気を遣ってかは分からないが、それでも嬉しかった。
「前に来てくれた時の紅茶とチョコチップクッキーの反応かな」
「よく分かりましたね。お父様もお母様も気付かなかったんですよ」
家族はヴァレンティーナの表情が読めないのだろうか。初対面の自分でも、よく観察すれば、なんとなく分かったのに。
不思議そうに首をこてりと傾げるとヴァレンティーナも同じ様にこてりと首を傾げた。
「!」
『可愛い!!』そう思った瞬間にジルベルトの胸の奥が締め付けられた。
初めての感触に胸を押さえて耐えているとヴァレンティーナは反対の方に首を傾げた。
また胸を締め付けられ、顔を赤くするジルベルト。見られたくなくて、両手で顔を隠して、暫く悶絶しているとヴァレンティーナから先程の質問が投げ掛けられた。
「名前…」
「…もしかして僕の?」
「はい」
無表情だが、こくんと頷いて肯定するヴァレンティーナ。どうやら先程の質問も自分の名前を聞いていたらしいと分かるとまた嬉しくなってしまった。
ヴァレンティーナが自分に興味を持ってくれた事がこんなにも嬉しいなんて思わなかった。嬉しくてフワフワする。目の前がキラキラと輝いて見える。世界がこんなにも色鮮やかだったなんて知らなかった。
「僕はジルベルト。ジルって呼んで」
「私はヴァレンティーナです。ジル」
「ヴァレンティーナ……ティーナ…ティーナって呼んで良い?」
「はい」
ニコニコと笑っているとヴァレンティーナの口角が少し上がったような気がした。
「ティーナが笑った」
「笑ってません」
「笑ったよ!絶対!」
嬉しさのあまりジルベルトはヴァレンティーナを抱き締めていた。抱き締めたヴァレンティーナは小さくて、柔らかくて、直ぐに折れてしまいそうな程細かった。それと、とても良い匂いがした。
思わず抱き締めてしまったがヴァレンティーナは抵抗しなかった。
「ティーナ、嫌じゃない?僕に抱きつかれて」
「いいえ」
ヴァレンティーナはジルベルトの腕の中で少し身動きすると下からジルベルトの顔を見上げた。
「可愛いね」
「そうですか?」
「うん。ティーナは可愛い」
「そうですか」
ヴァレンティーナはジルベルトの腕の中で力を抜くと彼の胸に頬を擦り付けた。
「!」
あまりにも可愛らしい仕種にジルベルトの意識は遥か彼方へと飛んでいった。ヴァレンティーナの頬がほんのりと色付いていたのをジルベルトは見逃してしまった。
「……」
クッキーだ。困惑気味に一つ取り、口へと運ぶ。小さな桃色の唇が開き、小さな一口を齧る。
「………」
サクサクと残りを食べていくヴァレンティーナをちょっとハムスターみたいだなと思いながら、ジルベルトは彼女の反応を逃すまいと食い入る様に見詰める。
「美味しい」
その一言で安堵の溜め息を漏らすとヴァレンティーナはいつも下げていた目線をこの時初めてジルベルトと合わせた。
「!」
目の合ったヴァレンティーナの藍色の瞳は、興味という色を読み取ったジルベルト。それはクッキーへの興味なのか、もしくは自分への興味か判断できずにいると
「名前は…」
「名前?ん~紅茶クッキーかな?クッキーの生地に紅茶の茶葉を練り込んだんだよ。どうかな?これなら食べられる?」
少し不服そうな雰囲気だったが、なんで、そう感じたのかは分からない。ただの直感だったような気がする。
「なんで、甘いのが得意ではないと分かったんですか?」
今までで一番長く喋っている気がする。ジルベルトは感動した。これ迄は必要最低限しか喋ってくれなかったのに今日は、どうした事だろう。心境の変化か、気を遣ってかは分からないが、それでも嬉しかった。
「前に来てくれた時の紅茶とチョコチップクッキーの反応かな」
「よく分かりましたね。お父様もお母様も気付かなかったんですよ」
家族はヴァレンティーナの表情が読めないのだろうか。初対面の自分でも、よく観察すれば、なんとなく分かったのに。
不思議そうに首をこてりと傾げるとヴァレンティーナも同じ様にこてりと首を傾げた。
「!」
『可愛い!!』そう思った瞬間にジルベルトの胸の奥が締め付けられた。
初めての感触に胸を押さえて耐えているとヴァレンティーナは反対の方に首を傾げた。
また胸を締め付けられ、顔を赤くするジルベルト。見られたくなくて、両手で顔を隠して、暫く悶絶しているとヴァレンティーナから先程の質問が投げ掛けられた。
「名前…」
「…もしかして僕の?」
「はい」
無表情だが、こくんと頷いて肯定するヴァレンティーナ。どうやら先程の質問も自分の名前を聞いていたらしいと分かるとまた嬉しくなってしまった。
ヴァレンティーナが自分に興味を持ってくれた事がこんなにも嬉しいなんて思わなかった。嬉しくてフワフワする。目の前がキラキラと輝いて見える。世界がこんなにも色鮮やかだったなんて知らなかった。
「僕はジルベルト。ジルって呼んで」
「私はヴァレンティーナです。ジル」
「ヴァレンティーナ……ティーナ…ティーナって呼んで良い?」
「はい」
ニコニコと笑っているとヴァレンティーナの口角が少し上がったような気がした。
「ティーナが笑った」
「笑ってません」
「笑ったよ!絶対!」
嬉しさのあまりジルベルトはヴァレンティーナを抱き締めていた。抱き締めたヴァレンティーナは小さくて、柔らかくて、直ぐに折れてしまいそうな程細かった。それと、とても良い匂いがした。
思わず抱き締めてしまったがヴァレンティーナは抵抗しなかった。
「ティーナ、嫌じゃない?僕に抱きつかれて」
「いいえ」
ヴァレンティーナはジルベルトの腕の中で少し身動きすると下からジルベルトの顔を見上げた。
「可愛いね」
「そうですか?」
「うん。ティーナは可愛い」
「そうですか」
ヴァレンティーナはジルベルトの腕の中で力を抜くと彼の胸に頬を擦り付けた。
「!」
あまりにも可愛らしい仕種にジルベルトの意識は遥か彼方へと飛んでいった。ヴァレンティーナの頬がほんのりと色付いていたのをジルベルトは見逃してしまった。
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