君を想う

ゆっけ

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婚約者編

ライラ

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 あの、クソ忌々しい女に絶望を与えてやった。ゾクゾクした。あの綺麗な顔が絶望の色に染まり、涙を流す様は最っ高に綺麗だった。あの表情をもっと見ていたくて、もっと欲しくなった。
 でも次の瞬間には、私が斬られていた。膝から力が抜け、倒れた視界の端に赤いものがゆっくりと広がっていくのが見える。

――アツイ

――イタイ

――サムイ

死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない




 この世界に来る前の私は毎日つまらなかった。パパとママがいてお金がいっぱいあって、家が大きかった。お手伝いさんだって沢山いた。
 でも、つまらない。つまらないから刺激が欲しくて“遊び”を始めた。煙草、かつあげ、いじめから始めてみた。
 凄く興奮した。今、私生きてるって感じた。でも、すぐに刺激は無くなった。

 次に夜の繁華街に出てみた。両親のおかげで顔は整っている方だったから色んな男からナンパされ、一夜限りの相手をした。
 特に制服で会うと喜ばれた。“背徳的”だと。でも毎回違う男と朝を迎えるのにも飽きた。

 次は何しようと思っていたら友達がゲームに嵌まっていると言う。それが乙女ゲームだと言う。最初は馬鹿にしていたが、キャラ設定集を見せられて熱心に進めるので、やっても良いかと思うようになった。

 次の“遊び”は万引きにした。ゲームを取り扱っている店に入り、彼女のお気に入りのゲームを見つけた。それを手に取ると学校指定の鞄の中にそっと入れ、店内を足早に移動する。
 店を出て、感じたのは誰にも見られずに持ち出せた事への高揚感と快感だった。そのまま、緩む顔で路地裏へと入ると

『ちょっと、君!』

 エプロンを着た若い女に腕を掴まれた。無表情だが、目には怒りの感情が宿っている。

『え?』

『万引きは犯罪なんだよ!名前と学校は?』

 見られていた!私を追ってきたんだ!不味いと感じた私は、隠し持っていたナイフで刺した。

『え?何っ…』

 何が起きたのか理解できないって顔が間抜けだ。女の脇腹を何度も何度も何度も何度も何度も刺した。持っていたナイフや手、制服は、真っ赤になった。

『ぐふっ』

 刺された箇所を押さえて女は蹲った。これで追ってこれないだろう。女を刺したナイフは、その場に捨てて、そのまま家へ走って帰った。


 家に帰ると誰もいない。今日は両親が旅行に行き、家政婦は休みだ。
 キッチンへ行き、血に濡れた制服を脱ぐと生ゴミ入れへと捨てた。
 下着姿になったが構うものか。そのまま手を洗って、部屋へ行く。

 鞄の中からゲームを取り出してパッケージを食い入る様に見詰める。“彼”と目が合う。それだけで、胸が高鳴った。
 ゲームを抱き締めたまま、ベッドへと寝転がり、いつの間にか、そのまま眠ってしまった。


 ふと、目を覚ますと部屋は真っ暗だった。電気をつけようと起き上がろうとしたが、起き上がれない。なんで?と不思議に思ったら覆面を被った男が私の上に馬乗りに乗っていた。

『ひっ!…んぐっ!』

『騒ぐんじゃない!』

 男は私の口を塞ぐとナイフを頬に当て、ピタピタと叩く。それだけで分かった。騒いだら殺すぞと言うことだろう。
 静かになった私に満足したのか、口から手を離すと私の下着を剥ぎ取り始めた。
 
『!』

『おとなしくしてろ!』

 頬を叩かれた。一拍遅れて頬に痛みが走る。口の中が切れ、口の端から血が伝うとそれを男は興奮した息を吐き出しながら舐めとる。そのまま男の舌は、顎から首へ鎖骨へと降りていく。
 別に初めてでは無いが、それでも私の意思に関係無く、勝手に身体を蹂躙されるのは鳥肌が立った。男は私の身体を弄り、生臭い息を吐く。私は堪らずに目を瞑り、怖気を逃がそうとするがやはり無理で。
 

怖い!!

気持ち悪い!!


 気を失っていたのか、カーテンから太陽の光が差し込む。明る過ぎて目を開けると見知らぬ部屋のベッドで寝ていた。私はキョロキョロと部屋を見回していると見知らぬ女が入ってきた。

『ライラお嬢様、おはようございます』

 と言われ、慌てて鏡を覗き込むとハニーブロンドの髪にピンクの瞳の美少女が此方を見ている。
 誰?と思ったけど、気が付いた。あの乙女ゲームのヒロインの名前だ。私は何故かは知らないが乙女ゲームの世界にやって来たのだと確信した。

 それからは、友達に聞いていたシナリオの流れとゲーム設定集などの知識を使って、まず第一王子のロイトを攻略した。

 それとゲームには、無かったが身体を使って縛る事にした。ロイトは『好きだ』『愛している』『俺だけのライラ』と甘く囁きながら私を抱いた。

 次にケネスを攻略した。ケネスには『暴漢に襲われて』と嘘をついた。

 ジョナサンを攻略し、『使用人に無理矢理』 と嘘を付いて抱かれた。

 最後にジルベルトを攻略した。何故かジルベルトは、私に身体を触らせなかった。不思議に思ったが、どうせ捨てゴマなのだし、気に留めなかった。まったく、折角美しい私を抱けると言うのに変な男ね。

 そして、運命の卒業式での婚約破棄の場に彼――レナードがやって来た。金の髪は彼が歩く毎にキラキラと舞い、藍色の瞳も美しい。

 私は彼に一目で恋をした。なんて美しいのだろう。天使の美貌と謡われる彼の美しさに胸が高鳴る。熱い吐息を吐き、うっとりとレナードに見蕩れる。

 そんな彼はジルベルトを庇い、ロイトとケネスとジョナサン、あまつさえ私をも糾弾し、断罪した。そして、自分は女なのだと言った。

 裏切られた。こんなシナリオなどなかった。ヒロインが断罪されるなどおかしい!裏切られた。許さない。

 すぐに馬車で修道院へと送られることになったが、運良く逃げられた。必死に森を抜け、村に辿りつく事ができた。でも、そこでブタの情婦になる事を強要された。苦痛だった。

 そんな時、町から兵士がやって来た。村を出るチャンスだと思った。でも、ブタが暴走した。一晩中私を離さなかったのだ。

 それでも、なんとか町へ行く事ができ、診療所から騎士団で働くようになり、王族の人と会う機会があった。
 毎日着飾って楽しく過ごし、騎士や偉い人、既婚者の貴族なんかと遊んだ。

 そんなある日、王子が私に堕ちた。あっさりと体の関係を結んだ。聞いてみると綺麗な子がいて気になっていたんだって。美しいって罪ね。

 あの女と男の結婚式があると聞いた。これだ!と思った。
 結婚式なら多国から沢山、客が来る。その中に紛れ込めば、あの女と男に近付けると思った。これで、あの女に復讐できる。煮え湯を飲まされた事を忘れるわけない。


 結婚式が近付き、私は王太子と共に母国である地に足を踏み入れた。
 久々の王宮を歩いているとあの女がいた。復讐したかった相手が今、目の前にいる。
 隠していた短剣を取り出し、女の体に突き立てるべく走って近づく。そのまま、勢い良く突き刺してやった。

 でも、突き刺したのは女ではなく男だった。失敗してしまった。短剣を男から引き抜くと私の全身に血が飛び散った。

 今度こそ、女を刺してやると短剣を構えた ――――瞬間、私の身体を熱が走った。理解するのに数秒掛かり、次に凄まじい痛みが襲った。その場に倒れ込み、熱さと痛みとで動く事も出来ず、赤が広がっていくのを霞む瞳で見ていた。



 息苦しさに咳き込んで、身体を起こした。暫く咳が止まらない。漸く落ち着く頃には、今いるのは自分の部屋だと認識できた。帰って来たのだ。我が家へ。
 あの私には優しくない世界から私に優しい世界へ戻って来た。

 ぶるっと寒さに身震いすると服を着ていなかった。なんでか分からない。
 それからシャワーを浴びて電子レンジで冷凍食品を解凍して広いリビングで寛ぎながら夕食を食べて、その日は寝た。

 それからが大変だった。あのゲームの店の女を刺した事がバレて事件として捜査され始めていた。パパにお願いして握り潰してもらった。あの女にも示談金として金を握らせて、黙らせた。

 暫くすると私は太った。ありもしない事件を追う刑事や記者が家や学校を彷徨くせいだ。そのストレスで食べまくったからかな?
 次に食べ過ぎたのか吐くようになり、暫くすると体が慣れたのか吐かなくなった。でも、どんどん太っていく。おかしい。

 こっそりと病院に行くと妊娠していた。なんで?いつ?誰の子?と思ったが、医者にどうにかできないか聞くと、臨月だと言われた。ショックで放心状態だった私はどうやって家に辿り着いたのかは、分からないが気付いたら自分のベッドに腰掛けていた。

 そして数日後、両親が寝静まった深夜に腹痛に襲われた。両親を起こしてはいけないと唇を噛み、苦痛に耐えた。あまりの激痛に気を失ってた。

 気を失っていたのは、どれ位だったろうか。気付くと腹痛も無くなっていた。そして、どこからか鳴き声のようなものが聞こえる。足元の方だ。
 布団を捲ると産まれたばかりの胎児が動いていた。産んじゃった。誰の子供か分からない子を産んでしまった。
 子供は、むにゃむにゃと何か言っている。何だろう?と抱き上げてみるとしわくちゃで顔付きは、誰かに似ているような気がする。誰だったろうと思っているとまた、むにゃむにゃ言っている。
 なんだろうと思い、聞き耳をたてると今度は、はっきり聞こえた。



「お前は儂のものだ」








ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

恐怖以外の何ものでもないですね~。生まれたのは誰か分かったかな?正解はデイブでした。彼は自分の命と引き換えにして女性の胎を介して転生する魔法特性を持ってました。えげつないし、おぞましいので滅多に使いません。そして考えた作者も怖い。元々の終着点としてこうなるようにしていましたが改めて読むと気持ち悪いですね。

因みにゲーム屋さんの女性は重症でしたが命に別状はなかったです。酷い事するもんだ。
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