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青くて硬い
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俺は本気でルイを愛しているのに時々それが上手く伝わらないことがある。
親友とは違う、俺達は好きあっているんだから、その関係を守るために必死になるのは仕方がないことなのに。どうしてわからないのと俺が必死になればなるほどルイは俺を嫌がり、すごく怒る。それでケンカになってしまった。
「なんで俺の付き合いにいちいち口を出すんだよ! 俺にはやましいことなんてないの本当はヒカルだってわかってるだろ!? お願いだからほうっておいてくれよ!」
ああ、爆発した、と思った時にはもう手遅れで、唇を強く結んでルイは俺の顔をきっと睨みつけていた。
俺の反論も言い訳も、眼差しでさえも跳ね返すような、強い意思を感じる表情だった。こういう時のルイには何を言ってもムダだ。
嘘をつけないルイは自分の感情にさえいつだって正直だ。とにかくムカついている、という感情を全てさらけ出し「俺は怒っているんだ!」という決意を表明するためにしっかりと怒った態度を貫いている。
あーあ、「もうヒカルなんか知らねー」モードに入っちゃったか、と思いながら俺はルイの横顔を見つめていた。
きっかけは本当に些細なことだった。
俺の部屋へ遊びに来ていたルイに「明後日はバイトが休みなら、明日はうちに来てそのまま泊まれるよね?」と聞いてみただけだ。べつに他に用があるならあると言ってくれればよかったのに、ルイは「休みだけど、ヒカルのとこに行けるかはわからない」と、なんだかハッキリしないものの言い方で話を有耶無耶にしようとした。
ああ、俺に隠れて出掛ける気なんだって、そんなことはすぐにわかってしまった。
「どこか行くの? 誰かと会う約束でもしてる?」
「……バイトの人と少し飲む。それだけ」
「じゃあさ、終わったら迎えに行くからお店の場所と時間を教えてよ」
おかしなことを言ったわけではないのに、ルイはすごく嫌な顔をしてからぷりぷりと怒り始めた。
ルイの言い分を要約すると「俺は子供じゃないから迎えなんて必要ない。恥ずかしいから迎えには絶対に来るな」ということだった。
ただ早くルイに会いたい、少しでも一緒にいたいだけなのに、どうして俺の気持が悪い方にだけ受け取られるのだろう。やっぱりルイは俺のことが……、と嫌な考えが頭に浮かんだのを掻き消すように「そんなに怒るなんて、何かやましいことがあるんだね」と吐き捨てるように言い返した。
それでケンカになってしまって、最終的にはルイも俺もむっつりと黙りこんだ。
もう数えきれないくらい、子供の頃からルイとはちょっとした小競り合いを繰り返してきた。けれど、今日のそれは、今までとは少し性質が違う、なんだか嫌な感じの揉め方だった。女との付き合い方を咎められた時に似ている。
ルイもそう思っているかもしれないけれど、俺はそれほど自分が悪かったとは思わない。だけど、選択をミスした、とは思う。
「飲み会が終わった後でもいいから会いたい。迎えに行ってもいい?」と言えばよかった。そうすればルイもそこまで気を悪くしなかっただろうし、きっと「しょーがねーなー」と笑ってくれた。
ルイがアルバイト先の女のことをなんとも思っていないのも知っている。全員を苗字にさん付けで読んでいることも、学校のことや漫画のことを話すお友達、としか思っていないことも。
けれども、「どうして付き合っているのに、迎えに行ったら駄目なんだろう? 俺のことを本当は好きじゃないから?」と思ってしまって、それで、ルイの気持ちを試すようなことをしてしまった。
その日は帰るのが面倒だったのか、一応ルイはそのまま俺の家に泊まっていったけど、意地があるのか決して俺に触れないようにベッドの端のギリギリで眠っていた。「怒っていないと思われるくらいなら、床に落ちた方がマシだ」とでも言うかのように、身を硬くして。
次の日、家を出ていく時に「今日迎えに来て」とふて腐れた様子で、ルイは店の場所と時間を教えてくれた。一応、ルイなりに気を遣ってくれているんだろうということはわかっていたから、俺もそれに頷いて、家から出て行く背中を黙って見送った。
その日の夜、近くのカフェで時間を潰して飲みたくもないミルクティーを飲んでルイを待った。
若い女の客や店員からの視線が鬱陶しい。だから、ルイから近くのコンビニにいるという連絡があった時にはずいぶんほっとしたし嬉しかった。皆と別れてきたのであろうルイが一人でポツンと待っているのが見えた時には嬉しくて走ってしまったほどだ。
だけど、飲んだことで昨日俺に対して感じた怒りがルイの中では再び燃えあがったのか、まだ、少し機嫌が悪いようで、完全に仲直りというわけにはいかなかった。
◇◆◇
ルイの住むアパートまで二人で戻って、それから面倒がるルイに水を飲ませてから無理やり風呂へ押し込んだ。風呂からパンツとTシャツだけで出てきて、どかっと座っているいつもと様子が違うルイを見ていると、酔うと恥じらいを無くすんだろうか、と密かに思う。
付き合い初めてから、ルイは普段自分の身体を俺に見られることを嫌がって、こそこそ隠れるようにして着替えるし、「一緒にお風呂に入ろう」と俺が誘うと本当に嫌そうな顔をする。
無理やりルイの口に歯ブラシを突っ込んでから、俺はその横に座った。
下半身は下着しか身に付けていないルイは、つくづく不思議な生き物だ。俺より身長が十センチ程度低いからかもしれないけど、どことなく少年ぽさがある。
といってもすごく背が低いというわけでもないから、身長だけで考えると特別そんなふうに見える理由にはならないはずだ。二十歳になってもまだ、骨格が成長しきってないのか、全体的に薄くて、細いからなんだろうか。喉仏も小さくて、男の身体特有のゴツゴツした感じがほとんどない肉体だった。かと言って女のように柔らかいというわけでもない。
高校生の頃と比べると、垢抜けているし、少しずつ男っぽくなってるのに、まだ「成熟しきった」という印象をほとんど感じさせない。食べ頃からはほど遠い、青い状態の果物を思わせた。なんだか、それが独特な魅力を醸し出していて、ずっと見ていられるし、何度触れても飽きることは無かった。
歯磨きを終えたルイは戻ってくると、「腹が減った」とポツリと呟いた。
「え? ご飯食べてないの?」
「エスニック系の料理って苦手だ……」
行った店がエスニック系の居酒屋で、パクチーもナンプラーもココナッツミルクも苦手なルイはほとんど何も食べられなかったのだと言う。俺が「なにか食べる?」と尋ねると黙って首を振って、ルイはベッドに横になった。
「俺の布団どこ? 勝手に出してもいい?」
「んー……」
ルイは俺のことをじっと見た後「こっちに来れば」と言った。いつもは「狭いから俺んちのベッドで一緒に寝るのは無理」としか言わないのに、意外と機嫌は悪くないのかもしれない。
「え、じゃあ入るよ」
「うん」
狭いルイのベッドに無理やり潜り込むと、ルイの顔がまだほんの少し赤いことに気がついた。ルイは飲むとすぐ顔を赤くする。俺は、なんだか、この酔ったルイを、ルイのバイト先の誰かに見られたことについて無性に腹が立った。
成長するにつれて、俺の知らない誰かとルイとの付き合いが増えていく。その度に俺は大事なものを取りこぼしたような気になる。きっと就職してしまえば、そういうことばかりになるはずなのに。自分自身にため息が出そうだった。
「ヒカル」
「あ、ごめん。電気?」
消そうか、と俺が体を起こすよりも前にルイが「違う」と起き上がるのを制した。
「あの……今日、できる?」
「えっ? 出来るって?」
ルイはほんの少し困ったような顔をしてから、ずっとモジモジして黙っていた。もしかしてセックスのことかな、と期待してしまう自分がいる。同じベッドで寝ることも許されているし、ルイも落ち着きがない。途端に、この状況がそういう雰囲気だと思えてくるから不思議だ。声の調子に気をつけながら「セックス?」と尋ねると、ルイが小さく頷いた。
「……出来ないなら、いい」
気恥ずかしくなったのか、そう言ってプイッと横を向いてしまったので、俺は慌ててルイの肩を掴んだ。
「きょ、今日はゴムが無いから、最後まで出来ないけどいい?」
「あっ、そっか……」
ルイはほんの少しだけしゅんとした後、また頷いた。最後まで出来ないことをガッカリしているようにも見えたし、自分の家にコンドームがないことを気まずそうにしているようにも見えた。
なんで俺は今日ゴムを持ってこなかったんだって本気で後悔したけど、ルイの様子から察するに、あったとしても最後まで出来るくらいの体力はきっと残っていないだろうから、手か口で手早く気持ちよくさせてあげて、さっさと休ませてあげよう、と俺は自分を無理やり納得させた。
「服、自分で捲って」
「ん……」
俺はルイにTシャツを胸の上まで捲るよう指示した。あえて、脱がせるんじゃなくて、自分の手で捲らせた方が「触ってください」とお願いさせているように見えるから好きだ。
ルイは俺に乳首を弄ばれる度にピクピクと反応しながら、服の上までずり上げた服を両手でギュッと握りしめていた。十本の指に力を込めて耐える姿は真面目で可愛かった。
ルイとセックスをすると、自分の中の加虐心が煽られる。というか、ルイはルイで「恥ずかしい、いやだ、やめろ」と言ってる時ほど、感じていることが多いような気がした。だから、意地の悪いことを言ってみたり、突き放したり、うんと恥ずかしい目に合わせたりして、その反応を見るのがやめられない。
たぶん、ルイには「俺は男だからセックスで女みたいに感じたくない」という思いが常にあるようだった。セックス中にどんなに感じてても必死で耐えて、自分の中のプライドを守ろうとするルイの姿はとても健気で可愛い。我慢が出来なくなって、グズグズになって、「もっとして」とすがってくるのはもっと可愛かった。
「んんっ……ヒカル、でんき、消して…」
「暗いと見えないよ」
そう答えるとルイは「明るいとこで見られるのは嫌だ」と訴えてきた。
「なんで? 別に何回も見られてるし恥ずかしくないでしょ?」
「うぅ…いやだ……」
「じゃあ、ココは上からでいい?」
下着の上からぺニスを触ってやるとルイは「もっと触って」とでも言うように身を捩った。
「ああ……、ヒカル、それ、やだっ……」
「じゃあ、ちゃんとお願いして」
自分でこれ脱いでお願いしてみなよ、と耳元で囁くとルイは困った様子でぱちぱちと瞬きを繰り返した。
「じゃあ、俺もするから、触って…」
「何を?」
「俺も、ヒカルの……口で…するから」
「え?」
思わず聞き返すと、ルイは俺の部屋着に手をかけてずり下ろそうとしてくる。慌ててその手を掴んだ後、「なんて?」ともう一度聞き返した。
「え、ルイが口でしてくれるってこと?」
「うん」
「でも……俺シャワーを浴びてきたのは、家を出る前にだし……、汚いからダメだよ」
「汚くねー」
そう言って、ルイはモタモタと俺の服を脱がせた。ああ、慣れていないんだって、興奮しながらルイの様子をじっと観察していた。頬に手を伸ばすと、ほんの少し赤いけど熱くはない。会話もちゃんと出来ているし泥酔してるわけでもなさそうだ。単に今日はそういう気分なのか、好奇心が湧いて興味本意でそうしてみたいと思ったのか、どちらなのかはわからなかった。
親友とは違う、俺達は好きあっているんだから、その関係を守るために必死になるのは仕方がないことなのに。どうしてわからないのと俺が必死になればなるほどルイは俺を嫌がり、すごく怒る。それでケンカになってしまった。
「なんで俺の付き合いにいちいち口を出すんだよ! 俺にはやましいことなんてないの本当はヒカルだってわかってるだろ!? お願いだからほうっておいてくれよ!」
ああ、爆発した、と思った時にはもう手遅れで、唇を強く結んでルイは俺の顔をきっと睨みつけていた。
俺の反論も言い訳も、眼差しでさえも跳ね返すような、強い意思を感じる表情だった。こういう時のルイには何を言ってもムダだ。
嘘をつけないルイは自分の感情にさえいつだって正直だ。とにかくムカついている、という感情を全てさらけ出し「俺は怒っているんだ!」という決意を表明するためにしっかりと怒った態度を貫いている。
あーあ、「もうヒカルなんか知らねー」モードに入っちゃったか、と思いながら俺はルイの横顔を見つめていた。
きっかけは本当に些細なことだった。
俺の部屋へ遊びに来ていたルイに「明後日はバイトが休みなら、明日はうちに来てそのまま泊まれるよね?」と聞いてみただけだ。べつに他に用があるならあると言ってくれればよかったのに、ルイは「休みだけど、ヒカルのとこに行けるかはわからない」と、なんだかハッキリしないものの言い方で話を有耶無耶にしようとした。
ああ、俺に隠れて出掛ける気なんだって、そんなことはすぐにわかってしまった。
「どこか行くの? 誰かと会う約束でもしてる?」
「……バイトの人と少し飲む。それだけ」
「じゃあさ、終わったら迎えに行くからお店の場所と時間を教えてよ」
おかしなことを言ったわけではないのに、ルイはすごく嫌な顔をしてからぷりぷりと怒り始めた。
ルイの言い分を要約すると「俺は子供じゃないから迎えなんて必要ない。恥ずかしいから迎えには絶対に来るな」ということだった。
ただ早くルイに会いたい、少しでも一緒にいたいだけなのに、どうして俺の気持が悪い方にだけ受け取られるのだろう。やっぱりルイは俺のことが……、と嫌な考えが頭に浮かんだのを掻き消すように「そんなに怒るなんて、何かやましいことがあるんだね」と吐き捨てるように言い返した。
それでケンカになってしまって、最終的にはルイも俺もむっつりと黙りこんだ。
もう数えきれないくらい、子供の頃からルイとはちょっとした小競り合いを繰り返してきた。けれど、今日のそれは、今までとは少し性質が違う、なんだか嫌な感じの揉め方だった。女との付き合い方を咎められた時に似ている。
ルイもそう思っているかもしれないけれど、俺はそれほど自分が悪かったとは思わない。だけど、選択をミスした、とは思う。
「飲み会が終わった後でもいいから会いたい。迎えに行ってもいい?」と言えばよかった。そうすればルイもそこまで気を悪くしなかっただろうし、きっと「しょーがねーなー」と笑ってくれた。
ルイがアルバイト先の女のことをなんとも思っていないのも知っている。全員を苗字にさん付けで読んでいることも、学校のことや漫画のことを話すお友達、としか思っていないことも。
けれども、「どうして付き合っているのに、迎えに行ったら駄目なんだろう? 俺のことを本当は好きじゃないから?」と思ってしまって、それで、ルイの気持ちを試すようなことをしてしまった。
その日は帰るのが面倒だったのか、一応ルイはそのまま俺の家に泊まっていったけど、意地があるのか決して俺に触れないようにベッドの端のギリギリで眠っていた。「怒っていないと思われるくらいなら、床に落ちた方がマシだ」とでも言うかのように、身を硬くして。
次の日、家を出ていく時に「今日迎えに来て」とふて腐れた様子で、ルイは店の場所と時間を教えてくれた。一応、ルイなりに気を遣ってくれているんだろうということはわかっていたから、俺もそれに頷いて、家から出て行く背中を黙って見送った。
その日の夜、近くのカフェで時間を潰して飲みたくもないミルクティーを飲んでルイを待った。
若い女の客や店員からの視線が鬱陶しい。だから、ルイから近くのコンビニにいるという連絡があった時にはずいぶんほっとしたし嬉しかった。皆と別れてきたのであろうルイが一人でポツンと待っているのが見えた時には嬉しくて走ってしまったほどだ。
だけど、飲んだことで昨日俺に対して感じた怒りがルイの中では再び燃えあがったのか、まだ、少し機嫌が悪いようで、完全に仲直りというわけにはいかなかった。
◇◆◇
ルイの住むアパートまで二人で戻って、それから面倒がるルイに水を飲ませてから無理やり風呂へ押し込んだ。風呂からパンツとTシャツだけで出てきて、どかっと座っているいつもと様子が違うルイを見ていると、酔うと恥じらいを無くすんだろうか、と密かに思う。
付き合い初めてから、ルイは普段自分の身体を俺に見られることを嫌がって、こそこそ隠れるようにして着替えるし、「一緒にお風呂に入ろう」と俺が誘うと本当に嫌そうな顔をする。
無理やりルイの口に歯ブラシを突っ込んでから、俺はその横に座った。
下半身は下着しか身に付けていないルイは、つくづく不思議な生き物だ。俺より身長が十センチ程度低いからかもしれないけど、どことなく少年ぽさがある。
といってもすごく背が低いというわけでもないから、身長だけで考えると特別そんなふうに見える理由にはならないはずだ。二十歳になってもまだ、骨格が成長しきってないのか、全体的に薄くて、細いからなんだろうか。喉仏も小さくて、男の身体特有のゴツゴツした感じがほとんどない肉体だった。かと言って女のように柔らかいというわけでもない。
高校生の頃と比べると、垢抜けているし、少しずつ男っぽくなってるのに、まだ「成熟しきった」という印象をほとんど感じさせない。食べ頃からはほど遠い、青い状態の果物を思わせた。なんだか、それが独特な魅力を醸し出していて、ずっと見ていられるし、何度触れても飽きることは無かった。
歯磨きを終えたルイは戻ってくると、「腹が減った」とポツリと呟いた。
「え? ご飯食べてないの?」
「エスニック系の料理って苦手だ……」
行った店がエスニック系の居酒屋で、パクチーもナンプラーもココナッツミルクも苦手なルイはほとんど何も食べられなかったのだと言う。俺が「なにか食べる?」と尋ねると黙って首を振って、ルイはベッドに横になった。
「俺の布団どこ? 勝手に出してもいい?」
「んー……」
ルイは俺のことをじっと見た後「こっちに来れば」と言った。いつもは「狭いから俺んちのベッドで一緒に寝るのは無理」としか言わないのに、意外と機嫌は悪くないのかもしれない。
「え、じゃあ入るよ」
「うん」
狭いルイのベッドに無理やり潜り込むと、ルイの顔がまだほんの少し赤いことに気がついた。ルイは飲むとすぐ顔を赤くする。俺は、なんだか、この酔ったルイを、ルイのバイト先の誰かに見られたことについて無性に腹が立った。
成長するにつれて、俺の知らない誰かとルイとの付き合いが増えていく。その度に俺は大事なものを取りこぼしたような気になる。きっと就職してしまえば、そういうことばかりになるはずなのに。自分自身にため息が出そうだった。
「ヒカル」
「あ、ごめん。電気?」
消そうか、と俺が体を起こすよりも前にルイが「違う」と起き上がるのを制した。
「あの……今日、できる?」
「えっ? 出来るって?」
ルイはほんの少し困ったような顔をしてから、ずっとモジモジして黙っていた。もしかしてセックスのことかな、と期待してしまう自分がいる。同じベッドで寝ることも許されているし、ルイも落ち着きがない。途端に、この状況がそういう雰囲気だと思えてくるから不思議だ。声の調子に気をつけながら「セックス?」と尋ねると、ルイが小さく頷いた。
「……出来ないなら、いい」
気恥ずかしくなったのか、そう言ってプイッと横を向いてしまったので、俺は慌ててルイの肩を掴んだ。
「きょ、今日はゴムが無いから、最後まで出来ないけどいい?」
「あっ、そっか……」
ルイはほんの少しだけしゅんとした後、また頷いた。最後まで出来ないことをガッカリしているようにも見えたし、自分の家にコンドームがないことを気まずそうにしているようにも見えた。
なんで俺は今日ゴムを持ってこなかったんだって本気で後悔したけど、ルイの様子から察するに、あったとしても最後まで出来るくらいの体力はきっと残っていないだろうから、手か口で手早く気持ちよくさせてあげて、さっさと休ませてあげよう、と俺は自分を無理やり納得させた。
「服、自分で捲って」
「ん……」
俺はルイにTシャツを胸の上まで捲るよう指示した。あえて、脱がせるんじゃなくて、自分の手で捲らせた方が「触ってください」とお願いさせているように見えるから好きだ。
ルイは俺に乳首を弄ばれる度にピクピクと反応しながら、服の上までずり上げた服を両手でギュッと握りしめていた。十本の指に力を込めて耐える姿は真面目で可愛かった。
ルイとセックスをすると、自分の中の加虐心が煽られる。というか、ルイはルイで「恥ずかしい、いやだ、やめろ」と言ってる時ほど、感じていることが多いような気がした。だから、意地の悪いことを言ってみたり、突き放したり、うんと恥ずかしい目に合わせたりして、その反応を見るのがやめられない。
たぶん、ルイには「俺は男だからセックスで女みたいに感じたくない」という思いが常にあるようだった。セックス中にどんなに感じてても必死で耐えて、自分の中のプライドを守ろうとするルイの姿はとても健気で可愛い。我慢が出来なくなって、グズグズになって、「もっとして」とすがってくるのはもっと可愛かった。
「んんっ……ヒカル、でんき、消して…」
「暗いと見えないよ」
そう答えるとルイは「明るいとこで見られるのは嫌だ」と訴えてきた。
「なんで? 別に何回も見られてるし恥ずかしくないでしょ?」
「うぅ…いやだ……」
「じゃあ、ココは上からでいい?」
下着の上からぺニスを触ってやるとルイは「もっと触って」とでも言うように身を捩った。
「ああ……、ヒカル、それ、やだっ……」
「じゃあ、ちゃんとお願いして」
自分でこれ脱いでお願いしてみなよ、と耳元で囁くとルイは困った様子でぱちぱちと瞬きを繰り返した。
「じゃあ、俺もするから、触って…」
「何を?」
「俺も、ヒカルの……口で…するから」
「え?」
思わず聞き返すと、ルイは俺の部屋着に手をかけてずり下ろそうとしてくる。慌ててその手を掴んだ後、「なんて?」ともう一度聞き返した。
「え、ルイが口でしてくれるってこと?」
「うん」
「でも……俺シャワーを浴びてきたのは、家を出る前にだし……、汚いからダメだよ」
「汚くねー」
そう言って、ルイはモタモタと俺の服を脱がせた。ああ、慣れていないんだって、興奮しながらルイの様子をじっと観察していた。頬に手を伸ばすと、ほんの少し赤いけど熱くはない。会話もちゃんと出来ているし泥酔してるわけでもなさそうだ。単に今日はそういう気分なのか、好奇心が湧いて興味本意でそうしてみたいと思ったのか、どちらなのかはわからなかった。
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