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小話
声・1
しおりを挟むフェリシアは激怒した。こればかりはどうあっても許しがたい。たとえどれだけ謝罪されようとも絶対に許すものか。
と、いう気概でいなさいと散々言い含められたので、どうにか怒っているフリだけは続けている。
相手はもちろんグレンだ。そのグレンは枕を背もたれにしてベッドに軽く横になっている。普段よりも赤く染まった頬に潤んだ瞳。醸し出される色気がいつもの倍どころの騒ぎではなく、それもあってフェリシアは必死に唇を噛み締めている。ともすればにやけそうになるからだ――病人を前にして。
第二王子・フレドリックの専属護衛であるグレンは、生活の中心が王宮にある。任務によっては数日から数週間、長ければ数ヶ月も自分の屋敷へ戻る事がない。一年ほど前からはだいぶその割合が減ったが、それでも数週間留守にするという事は今も度々ある。
だから、五日前の朝に屋敷を出たグレンが、そのまましばらく王宮に詰めるので留守にする、と連絡を寄越してきた時にフェリシアは特に疑問を持たなかった。伝えに来たグレンの部下に労いの言葉をかけ、差し入れにとグレンの好きな甘味とワイン、そしてお早い帰りを待っていますと綴った手紙を渡してもらうよう頼んだくらいだ。
いつもと変わらぬやり取りなので、心配はすれども不安になることはない。そう思っていたのが崩れたのは、フレドリックの婚約者であるオリアーナと共に王太子妃主催の茶会に招かれた時だった。
あくまで私的なものであり、参加者も三人だけ。初めて参加した時は緊張のあまりろくに紅茶の味も分からなかったが、両手の指に近い数だけ繰り返せば慣れもする。オリアーナも王太子妃であるクローディアも気さくであり、フェリシアを妹のように可愛がってくれるのもだから、最近は純粋に楽しみでもある。
そんな茶会に参加し、とても楽しく時を過ごしていたその日。
「ところでフェリシア、グレン様はもう大丈夫なの?」
オリアーナから飛び出たその一言が状況を一変させた。
なんのことでしょう? そう首を傾げるフェリシアに、オリアーナもクローディアも一瞬きょとんとした顔を見せ、そして何か思い当たる節があったのか一気に顔色を失う。
「フェリシア、あなたまさか……なにも聞いてはいないの?」
「なんてこと! ええそうよきっとそうに違いないわ!」
これだから男の方は、とクローディアが美しい眉を顰めて不快感をあらわにする。即座に手元のベルを鳴らし侍女を呼び、そのままグレンにここへ来るようにと命じる姿を、フェリシアは静かに眺める事しかできない。
当事者であるのに取り残されている感が半端ないフェリシアであったが、しばらくして茶会の席に現れたグレンを見てようやくその理由を知った。
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