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小話
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しおりを挟む「グレン、あなたどういうつもりなの! いくらこの子に心配をかけたくないからといって、なにも話していないだなんてあんまりよ!」
「お前……夫人に伝えていたんじゃなかったのか!?」
オリアーナを迎えにと、グレンと一緒に来たフレドリックがクローディアの言葉を継いでグレンに詰め寄る。
「だからあれほど帰れと言ったのに!」
ああもう、と呆れと怒りをふんだんに含んだ叫びをグレンにぶつけ、フレドリックが心底申し訳なさそうにフェリシアに近付く。
「申し訳ない、フェリシア。グレンが大丈夫だと言うのを鵜呑みにしていた私の落ち度だ。こういう男だと充分すぎる程に知っていたのに」
「あ……の、グレン様が、どうかされたんです……か?」
グレンは一言も発しないままでいる。普段であれば、穏やかな声と柔らかな笑みを浮かべて「フェリシア」と名を呼んでくれるのに。
チラリと視線を動かすと、グレンは露骨に気まずいという顔をしてみせる。これは一体何事かと、フェリシアはフレドリックに答えを求めた。それを受けて、フレドリックは「すまない」と前置きと共にフェリシアに告げる。
「風邪の引き始めで軽く熱を出したんだが、その影響で今は声が出なくなっているんだ」
微熱で済んだものの、運悪く喉に菌が移って声帯が炎症してしまった。その為に全く声が出ないわけではないが、非常に声が出辛くなっている。それが今のグレンの状態だ。
なるほどそれを自分はこれっぽちも知らされていなかったのかと、ここでようやくフェリシアは理解する。
とにかく心配をかけたくなかった、というこちらへ対する過剰なまでの気遣いなのは分かる。分かるが、それとこれとは別だ。ムクムクと腹の底から沸き上がる怒りに、フェリシアはここが王宮で、そして王太子妃や第二王子、その婚約者がいるという事まで一瞬忘れてしまう。溢れ出る激情のままに、想いの丈をぶつけようと口を開いた。
「本当に愚かな男ね、あなたって人は!!」
「いくらなんでも酷すぎますグレン様!」
しかしそれより先にクローディアとオリアーナの怒りが炸裂してしまい、結果としてフェリシアは己の怒りを吐き出すタイミングを失ってしまった。
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