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 そんな願いがまさかこんなにもすぐに叶う事になろうとは、フェリシアとしても驚きである。
 そして非常に贅沢であるけれど、叶ったからには今すぐ終わらせて欲しい。
 無理、絶対無理、だってこんな、と身悶えるフェリシアの背中は重くそして温かい。ソファに深く腰掛けたグレンの膝の上に、背後から抱きかかえる様に座らせられている現状が理解できない。一体どうしてこんなことになったのだろうかと考えるも、腰に回った力強い腕の感触だとか、時折首筋に掛かる彼の吐息だとかですぐに思考は霧散する。
 だから無理だってばー! こんな状況で考えられるわけがないもの!!
 ひええええ、とフェリシアは何度目かの抵抗を試みるが、あえなく失敗に終わる。より一層きつく抱き締められ、あげく項に軽く口付けられた。

「ひっ……!」

 堪らず漏れた悲鳴に、しかしグレンは楽しそうにクスクスと笑っている。

「グレン様……あの、ですね」
「うん」
「少しだけこう……離していただけるととてもうれし」
「だめ」

 だめって! グレン様がだめって!! そう叫びそうになったのをフェリシアはグッと腹筋に力を篭めて耐えた。プルプルと震えながらどうにか首を動かして背後から抱き付くグレンを見る。

「ん?」

 とろりと蕩けた瞳のグレンが幸せそうに笑みを浮かべているではないか。あまりの威力にフェリシアはどうして振り返ったのかと己の軽率さを呪う。あとついでに、本当に、数日前に「酔っ払ったグレン様を見たい」と叫んでいた自分が恨めしくて仕方がない。

 そうだそうだったわ、とフェリシアはようやくこんな事になったいきさつを思い出した。 遅い時間に帰宅したグレンは疲れ切っていた。早々に寝室に向かう様進めたが、明日は久方ぶりの休みであるし、あと何よりも君が足りないから、とグレンはフェリシアと少しでも長く過ごす事を求めた。
 時間が時間なので軽めの食事を摂るグレンに、たまにはゆっくり寝てくださいねとカーティスがワインを勧め、グレンもそれを気軽に飲んでいた。

 あれだわ、あれよあのワインがきっとだめだったのよ、とフェリシアは再び背後で楽しそうに笑うグレンの声を聞きながら確信を得る。

 自分が酔った彼を見たいと言ったがために、カーティスがそう仕向けてくれたのだ。もちろんそれだけではなく、本当に主人をぐっすり眠らせてやろうという思いからでもあるだろうが。
 つまりはこれはフェリシアにとっては自業自得である。誰も責められないし、誰も助けを呼べない。

「……フェリシア」
「ッ! なんですかグレン様?」
「フェリシア」
「はい」
「フェリシアー」

 名を呼ぶ度に笑いが加わる。まるで幼い子どもが親の名を呼び、それに答えが返るのを喜ぶ様なその姿に、フェリシアの乙女心と淡い母性が音を立ててときめいた。


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