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1章『転生×オメガ=あほ顔になる』
04
しおりを挟むふふ、と笑う私に、在昌さんは安心したような表情で私の隣に腰を下ろした。在昌さんの重みで私の身体が揺れる。
「…高瀬さんはどこまで記憶があるのかな」
「どこまで、ですか」
「そうだね」
どこまでと言ったら良いのだろうか。オメ蜜の世界は知っている、と言っても小説の中に書かれた世界観しか知らないけれど。
現代小説だったから拘った設定は無かった筈。オメガバース設定を除いては。でも、下手に言ってしまうと変なところでボロが出てしまうかも知れない。
「済みません…混乱していて、自分の名前しか思い出せないんです」
…と言うしかないだろう。下手に言うよりかは、記憶喪失を使って知らんぷりを決め込んだ方が良い方向に進む筈だ。
そんな私の嘘の話を在昌さんは信じたようで、何も言わずに黙りこくっている。相変わらず罪悪感がメシメシと悲鳴を上げているが、どうしようも無いんだ。
「…君が何故、男性に追われていたか、なんだけど」
おぉ、正直言って忘れていた。在昌さんとのアハーン体験や、在昌さんの存在によって頭の隅の隅のそのまた隅に追いやられていた。あんなに怖かったのに、現金だな、と思う。
先程から、私の中で一つの可能性が挙がっている。一度、在昌さんに指摘された、という事もあるけど、体験して自分でも微かに思った。
あくまで可能性で、出来る事なら避けたいんだけど…。
「君、オメガだよね…?」
そう。私が何故かオメガという個体としてこの世界にいる可能性。
確かに、オメガバースの設定を考えればこれまでの事が納得出来る。だけど、信じたくなかった。何かしらのきっかけでこの世界に来てしまった事は認めざるを得ないけれど、自分があのオメガだなんて…。
絶賛処女を拗らせている私にはキツすぎる設定だ。
それに、オメガがどれだけ酷い目に遭ってきたか、知っている。勿論小説の中での話だけど、あんな辛い思いをしなきゃいけないなんて。オメガである桃ちゃんも凄く泣いてたなぁ…。女の虐めは怖いのよ。
「え、と…違うと思います……そう言った記憶は私には無くて…えーと…」
苦し紛れの言い分は、残念ながら在昌さんには届かなかった。それはそうだ。オメ蜜の世界がそのまま活かされていたら在昌さんは――…
「いや、君はオメガだ。俺のアルファがそう言っている」
――そう。在昌さんはアルファなのだ。だとしたら匂いとやらで直ぐに分かってしまう。恐らく私を追い回していた男性等も私のオメガが発する匂いに誘われたのだろう。
積んだ。積んでしまった。
これから私はどうなってしまうのだろうか。恐らく戸籍も無い、お金も無い、家も無い、誰も知らない世界で、どう生きていったら良いのか。
「…身体を売るしか……」
「は?」
ぽつり、と呟いた私の言葉に在昌さんがピクリと反応する。言葉にしたつもりは無かったけれど、思わず出してしまっていたようだ。一人暮らしは独り言が多くなるから…。
「高瀬さん、君…何て言った?」
私の名を呼ぶ在昌さんの声が怖い。確実に怒っている。
もう、正直に話すしか、ないよなぁ…。
「あ、の。私、何も持っていないので、働こうかな、と。家もわからないので、取りあえず棲む為に…わぁ!!」
気まずさから下を向きながら話す私の頬をぺちり、と叩く在昌さん。嫌、全く痛くないんだけどね。痛くないんだけど…。
――ぷちん、と何かが切れる音がした。
「ぅう…ぅうう…うわぁぁぁんっ!!」
涙が出て来た。出て来たってレベルじゃない。滝のような涙が、こうドバーッと溢れた。子供のように泣きじゃくる私に、在昌さんはしまった、と言うような表情を浮かべながら私の身体を抱きしめる。
怖い。不安。焦燥感。
沢山の感情が私の中でぐるぐる渦巻いていて。
私という存在が知らない存在になっていくような感覚に恐怖を覚えたんだ。誰も私の事を知らない。私は誰も、知らない。そんな世界。ひとりぼっちの、世界。
「ごめん、ごめんね。痛かったよね」
必死に私に謝罪しながら背中を撫でてくれる在昌さんに私は縋った。みっともないくらいに泣いて、服を涙でべちょべちょにして、必死に広い胸に縋り付いた。
「怖いっ、…うぅぅ……」
「……そうだよね。大丈夫。俺は君を知ってるよ、神崎さん」
「あう…在昌さん、在昌さん…っ!」
在昌さんの言葉に更に涙が溢れる。私、こんなに涙脆かったかな。こんなに泣くのは100万年ぶりかも知れない。
在昌さんは何も言わずに、私の背中を撫でている。その優しさに私の胸がきゅう、と痛む。この、優しさも、抗えない匂いも、ドクドクと早い鼓動も、どうしようもない程に痛かった。
身体が熱い。息が乱れる。
在昌さんが触れているところから、熱を帯びていくように、じわじわと浸食していく感覚は――…
「在昌さ…っ」
ああ、発情しているんだなって他人事のように思った。意識がトロトロと溶けていく。
私の下半身がじんわりと濡れていき、そこから発するむせ返る程の香りに頭がおかしくなってしまいそうだった。
「高瀬さん…っ……」
在昌さんを見やれば顔を赤くし、息を荒げている。
私は熱に浮かされたまま、在昌さんの頬に指を這わせば、ぐるり、と回る視界。
「ぁ……」
私は在昌さんに押し倒されていた。
「君のこの匂い…最高にクる……」
私の首筋に舌を這わせながら足に当たる硬い、モノ。刺激するように足を動かせば、在昌さんの大きな身体がピクリと揺れる。
在昌さんは私に感じているんだ――…、そう思うと私のお腹がきゅん、とした。
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