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1章『転生×オメガ=あほ顔になる』
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しおりを挟む顔を真っ赤にした在昌さんはまるで照れているようだった。私の言葉に照れる要素なんてあっただろうか、と思い返せば、私はその要素を何度も言っていた。
私は何度『大好きな在昌さん』と言っただろうか。馬鹿だ!自滅だ!これは照れているのでは無い!気持ち悪すぎて血圧が上がったんだ。間違い無い。
「ご、ごめんなさい…!!私っ!本当に在昌さんが大好きで、ファンで!あの!ああ!本当に気持ち悪いですよね!?今までありがとうございました!お金は用意次第ポストに入れますので!!」
オタク特有の早口で捲し立て、席を立ち颯爽と帰ろうとした。だが、在昌さんが私の腕を掴んで、椅子に戻されたのだった。
「真緒ちゃん、あーん」
「あーん?」
有沢先生にあーんとされ、条件反射で口を開けてしまった。その隙に入れられた何か。
「ん!?」
「抑制剤。興奮すると発情しやすいからねぇ。男二人に犯されたくないでしょ?」
綺麗な顔で怖い事を言う有沢先生の言葉に何度も頷きながら、差し出された水で薬を嚥下する。
「真緒ちゃん、落ち着いた?」
「は、はい…。取り乱してしまいすみまぷぅ」
…だから何故頬を突くのか。
有沢先生の先生っぷりに感動していたというのに。
「なんで頬を突くの!」
「そこにぷにぷにの頬が有るからー」
「山みたいに言わない!」
ぜぇぜぇと肩を揺らしながら全力で突っ込みに回る。日頃、人との関わりが少ない私にとって、大変な状況だった。
でも、先程の緊張やら何やらが吹き飛んでいる事に気付く。何だかんだ言っても先生なんだな。有沢先生は…。
「真緒ちゃん。俺に惚れるのは構わないけれどね」
「惚れてなーい!私は永遠の在昌さん推しなんで……」
しまった。
「だって。ほら、在昌。なんか言ってやんなよ」
「……」
何だろう、帰っても良いですか?
駄目だ。いかん。現実逃避は駄目だ。何度過ちを繰り返すのか。まずは謝罪だろう。私は30歳になったんだ。30歳にもなってごめんなさいも言えないだなんて社会人失格だ。
「申し訳ございませんでした」
「……」
「……不快ですよね。あの、きっと不快で血圧上がってると思うので、有沢先生に測ってもらってください…。お薬処方されましたら、私が治療代お支払い致しますので…」
まさか、異世界に来て借金を背負うとは思ってもみなかった。前の世界では慎ましく生きていたのに…。でも、大好きな在昌さんに出逢えたんだもの。在昌さんの為の借金だと思えば幸せかもしれない…。
「心の声出てるよー」
「アァッ!」
「在昌フィーバーすごいね」
「大好きなので」
「即答かい」
未だに何も言わない在昌さんに私の胸は破裂しそうになった。話をしたくないくらい、私の事が嫌いになってしまったんだ。そりゃそうだ。話だけ聞くと、ストーカーも良いところだ。
だって、考えてくださいよ。見知らぬ女が、自分の事を色々と知っていて、大好きな在昌さん!て叫んでいるんですよ?ストーカー案件ですよね?
「在昌さん…色々とありがとうございました。こんな私を助けてくれて本当に嬉しかったです…。あの、先程も言った通りお金は絶対にお返し致しますので…在昌さん?」
再び立ち上がった私の腕を先程と同じ様子で掴み、椅子へと戻らされた。
「あ、あの…」
「…本当、君は……」
はぁ、と大きな溜息を吐きながら在昌さんが正面から私を抱きしめた。微かに漂う濃く、甘い匂いに目眩を感じながら私は、怖ず怖ずと在昌さんの広い背中に腕を回す。
「俺に熱烈な告白しておいて逃げるの」
「そ、それは…気持ち悪いかなって…思いまして」
「それを決めるのは俺だけど」
「…その通りです」
抱擁は更にキツくなり、私を締め上げていく。
「あ、ありま、ささ…」
「うん?」
「く、苦しい…です」
「うん、そっか」
にっこりと笑っているであろう在昌さんにギブギブと何度か肩を叩けば、クツクツと肩を揺らす在昌さん。
そういえば在昌さんはイジワルな面が有ったんだった。忘れていた。
「離してほしい?」
「は、はひ…」
「じゃあ、俺から離れるだなんて考えないで」
「え?」
「うん?」
「ぷぎゅっ」
このままでは潰されて内臓が飛び出てしまう。在昌さんを汚してしまう…!
私は奇声をあげながら何度も頷いた。その度に緩まる抱擁。
「約束。もう二度と変な事考えないで」
「…はい」
「嘘も駄目」
「はい」
「帰ったら今後の事を二人、で考える事」
「はい」
「佑司に色目を使わない事」
「はいぃ?」
「うん?」
抱擁の力が更に強くなり、再度私を締め上げた。異議あり!意義あり!色目なんか使ってません!そもそも私に色気なんてありません!
…後ろの眼鏡!笑ってないで助けろ!!
暫くしてやっと在昌さんから解放された私は、息も絶え絶えだった。
はっきり言って良いですか?
期待しちゃうよね?在昌さんが言っている事さぁ!…は?鏡見て出直せって?あっ…。
そうですよね。本人が今は認めていなくても在昌さんには桃ちゃんが居るのだから…。何を血迷った事を言ってしまったのだろうか。
「ほら、そろそろ帰ろうか」
「は、はい」
「ばいばーい、楽しかったよ、真緒ちゃん」
「んんんんはげ眼鏡!」
「何イチャイチャしてるのかな?」
在昌さんの麗しい指に頬をぷにぷにされながら半強制的に病院から出た私は、人生で一番疲れた日だと思った。記念日だ。
…本日は人生で一番疲労を感じたdayと名付けよう。
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