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2章『転生×オメガ=当て馬になる』

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「何故君がここにいる」

最初に聞こえたのは冷たい在昌さんの声だった。

「あの、ずっと顔色が悪かったので心配で…」

在昌さんの声の後に、続くこの声は――…

「如月さん。帰ってくれないか」

間違い無い。桃ちゃんだ。
可愛らしい高い声に、男性なら甘やかしてしまいたくなる程の甘さを含んだ声。

「神崎重役っ…!私……」

あれ。
この場面、私は知っている。
状況は違えど、そうだ。

あれ、待って。思い出して、私。

私が男性に追われているところ。
在昌さんに助けられるところ。
有沢さんを紹介されるところ。
自分の感情が分からなくて、在昌さんを突き放してしまうところ。
有沢さんに唆されて、この家に来る事――…

どうして今まで気が付かなかったのか。

全てでは無いが、私が今まで辿っている事柄は、全部桃ちゃんだ。

「重役…在昌さんの事が好き、なんですっ…!!」
「如月……」

このシーンなんて、そのままだ。
自分の気持ちに気付いて、家までやってくるところ。この後、在昌さんは桃ちゃんを抱きしめて――…

イヤだ。
嫌だ!

「在昌さんっ…!」

居ても立ってもいられなくなった。
唯々、怖かった。在昌さんが他の人のモノになってしまうのが、怖かった。

「真緒、ちゃん…?」

後ろから抱きついた私に驚いた在昌さんは、振り返ろうとするが私が必死にしがみ付いている為、何も出来なくて。

「ごめんなさいっ…!狡くて、弱くて、傷付けて、ごめんな、さぃ…っ」
「真緒ちゃん…」
「怖かった、んです…いつ――…痛っ…!」

言葉にしたと同時に、髪を引っ張られ後ろに転げてしまった。

「ヒッ…!」
「誰なのよ、あんた!!!」

凄い形相をした桃ちゃんが私に馬乗りになりながら私の頬を叩く。
いくら女性の力とはいえ、痛いものは、痛い。

「止めるんだ!」
「離せ!この女は悪魔だ!誰なのよ!!在昌さんを誑かしやがって、ブスババァ!」

私を何度も叩く桃ちゃんを捕らえる在昌さん。私の上から無理矢理剥がされても尚、私を睨み付けている。怖い。怖いけど…。

「ごめんなさい。私も在昌さんが好き、なんです」
「真緒ちゃん…」
「だから、殴られても、悪口を言われても消えません。絶対に」

私の言葉に、力を抜いた桃ちゃんは在昌さんから離れ、無言で部屋を出て行った。

「神崎様、申し訳ございません…!」

暫くして、コンシェルジュの方がやって来て、在昌さんと私に謝り通してきた。

桃ちゃんを居れたのは、先日来た事が有る事と、在昌さんが私のヒートにやられて家で苦しんでいると言われた為居れたそうだ。勿論、桃ちゃんが在昌さんの秘書だと言う事も知っている。

在昌さんはコンシェルジュの方を責めなかった。寧ろ巻き込んで申し訳無いと謝罪していた。

警察と救急車を、と申し出されたが、私が断った。
痛みは有るが、大した怪我ではないだろう。

救急箱を置いて、コンシェルジュの方は部屋を出る。
と、同時に静まる二人。

「真緒ちゃん、こっち来て。手当てするから」

沈黙を破った在昌さんが私の手を引き、ソファーに座らせる。私は逆らわず、在昌さんの治療を甘んじた。

一通り治療を終え、礼を告げたと同時に正面から抱きしめられた。

「――…ごめんっ」
「在昌さん…?」
「俺のせいでこんな痛い思いを…」

どうやら桃ちゃんの件は自分の責任だと感じているらしいが、それは違う。
どんな状況であれ、桃ちゃんが悪いのだ。

それに、謝らなければいけないのは間違い無く私の方で。

「在昌さんのせいじゃない、です…。私もすみませんでした…。在昌さんをいっぱい、いっぱい傷付けちゃって…っ……!」

じわぁ、と涙が滲む。声が震える。

「私、いつか自分が消えちゃうんじゃないかって…怖くて、でも、大好きな在昌さんの傍に、居たくって…でも、嫌われたくなく、て…」

顔も言葉もぐちゃぐちゃだった。けれど、在昌さんは私をキツく抱きしめながら何も言わずに聞いてくれた。

「ごめんなさい、在昌さん、ごめんなさいっ…」

何度も謝った。
声が枯れるまで、例え許してくれなくとも、嫌われたとしても、自己満足だと罵られようとも、ひたすら想いを乗せて言葉にした。

「真緒ちゃん、もう、良いから…」
「で、も…っ……」
「怖かったんだよね」
「っ…」
「不安だったんだよね」
「……」

在昌さんの声は慈愛に満ちていた。先程の怒りなど無く、唯ひたすらに優しく、甘い声。

「でも、言って欲しい。言葉にして、ほしい。俺って真緒ちゃんに頼りない?」
「そんな事ないですっ…!私、在昌さんにいっぱい救われて…!」
「だったら、今回もさ、二人で悩もう?一人で抱え込まないで、ね?」

優しい在昌さんの言葉に、私の弱々な涙腺は崩壊してしまった。
何度在昌さんの胸で泣いただろうか。その度に抱きしめられる腕の中はとても心が落ち着いて。ずっと居たい、と願ってしまう。




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