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終章『転生×オメガ=幸せになる』
07
しおりを挟む何度も最奥に精を打ち付けられ、私も数え切れないくらいに絶頂を迎える。底なし沼のような情欲に二人、獣のように溺れた。
体力が尽きたら、二人で休んでお風呂に入って。お風呂でも愛を確かめ合う。お腹が空いたら適当にご飯を摘まんで、また身体を重ねて――…。
「真緒は発情期だから。これは普通だよ」
我に返って、異常な性欲に悩んだ私に在昌さんはそう言った。そう言えばそんな描写がオメ蜜にもあった気がした。そう。気が、したのだ。私の中であれだけ大好きだったオメ蜜の記憶が薄れていく。でもそれでも良かった。私の在昌さんは此処に居る。私だけの、在昌さん。
「どうしたの。嬉しそうな顔して」
「…私だけの在昌さんなんだなぁって思ったら嬉しくて」
「そうだよ。真緒だけの、俺。俺だけの、真緒なんだ」
にこりと笑みを浮かべながらカラーを外した項に口付けを落とし、歯を立てる。在昌さんは私のうなじに歯を立てるのが好きだ、と言っても軽く歯の痕が付くくらいの強さで、番になる行為のように血が滲む程、強く噛んだりはしない。
「ん…」
「大丈夫?痛くない?」
「大丈夫です」
振り向けば、心配そうに私の表情を伺う在昌さん。安心させるように微笑めば、表情が綻んだ。
「どう?落ち着いたかな」
「は、はい。ありがとうございました」
おおよそ一週間程だろうか。在昌さんとひたすら互いに求めたのは。自分でも驚きだ。ヘトヘトどころか、力が漲る程に元気になっている。
「在昌さん…」
「ん、どうしたの。そんなに可愛い顔して」
「…私、在昌さんに出逢えて良かった」
不安も沢山ある。けれど、それを凌駕する程に沢山の幸せが私を包んでいた。沢山、悩んだ。沢山、泣いて、みっともないところを何度も見せた。
けれど、在昌さんはこんな意気地無しの私をずっと愛していてくれた。
きっと私はこれからこの世界で死ぬまで生きていく気がする。そんな、予感がしたのだ。徐々に薄まっていく前の世界の記憶。オメ蜜だけでは無い。前の世界の事すら薄れているのだ。
「…俺も真緒に出逢えて良かった」
私を抱きしめる在昌さんが私の全て、なのだ。
何者でもない、この世界で私は生きている。そして在昌さんと何時までも、生きていく。
*****
「如月桃、死んだよ」
「そうか」
実験中に、如月桃が死んだ。ついでにアルファの男もだ。最後まで哀れな女だった。ずっと在昌との狂言を呪禁のように吐き散らしながら、投与された薬に耐えられず苦しみながら消えた命。転生した命はまた違う世界に行くのだろうか。それとも業の深いあの女はそのまま消滅してしまうのだろうか、気になるところだ。
一応は、と思って報告したが在昌はとっくの前に興味を失っている――いや、元々興味無かった為、返事も適当だ。
在昌は真緒ちゃんにしか興味が無いのだ。
「で、結婚式は挙げるの」
「んー。挙げるよ。けど二人きりで、ね」
「ふぅん」
そう言う在昌は本当に幸せそうだった。正直、結婚のどこが良いのか分からない。たった一人の番を愛していくだなんて俺には不可能だ。適当に遊びたい。これでも俺だってオメガには苦労した。それなりに美形だしね。自分で言うなって?しょうがない。在昌の傍に居ると霞んでしまうんだよ。だからと言ってこの長い付き合いを止める気はないけどね。
――俺も運命の番に出逢ってしまったら在昌のようになるのだろうか。幸せそうな在昌を見ているとそれはそれで違う楽しさがあるのかも、と思ってしまう。まぁ、あり得ないと思うけど。
「どうせお前の事だから真緒ちゃんのウエディングドレス姿を誰にも見せたくないんだろ」
「――……」
無言は肯定だ。日に日に独占欲が強くなっていく在昌に笑わずにはいられない。
「ふは、本当にお前の独占欲は凄まじいな」
「…お前にもわかる日が来るさ」
いやいや、職業柄沢山のバースカップルを見てきたけど、こんなに番に対して独占欲が激しい奴お前が初めてだよ。突っ込みたくなったが止めておいた。変なスイッチが入ったら困る。
「婚姻届は出したのか?」
「いや、今日社長に証人のサイン貰ったから後で真緒拾って速攻出してくる」
わざわざ鞄から婚姻届を出し、俺に見せつけてくる。婚姻届の証人は二人必要らしく、俺の汚い字と社長の達筆な字が並んでいる。あ、真緒ちゃんも達筆だ。綺麗な字を書く人は心が綺麗な人って誰かが言っていた。だとしたら俺の心は汚い訳?そんな訳ない。誰が信じるか。そんな迷信。
「真緒ちゃんもとうとう人妻か…」
ぽやーんとした真緒ちゃんを思い出す。最初彼女を見た時、あれで三十歳って驚いた。二十代半ばだと思ってたよ。ぷにぷにしている子は若く見えるね。
と、何となく真緒ちゃんの事を考えていたら何故か在昌に小突かれた。こっっっわ!こいつ、俺が真緒ちゃんの事考えてたって分かっただろ。こわー。怖いわー。
「じゃあ俺は帰る。…発情期の件では世話になった」
「おーう。これでも俺はお医者様だからね。また何かあったらいつでもおいで」
きぃきぃと椅子を揺らしながら在昌の背中を見送ると同時に後輩が入ってきた。
「はー…いつ見ても先輩の友達格好良いですね」
「おう。俺の悪友だからね。因みにあいつ妻帯者よ」
「え、そうなんですか…ああ、何時も付き添ってますもんね、可愛い女性に」
「お前、ソレあいつの前で言うなよ。ああ見えてやべぇ奴だから」
俺は優しいからね。一応警告してやる。そうすれば眉を顰めながら先輩よりもやべぇ奴いるんですか、と言ってきた。生意気な奴め。まぁ、嫌いじゃないけどさ。
「悪友で似た者同士ってやつかな」
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