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終章『転生×オメガ=幸せになる』

08了

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「ほわぁぁぁ…わぁぁぁぁ…」

今日も家事をしていた私は、午前中に帰宅した在昌さんに拉致され、その足で市役所にやって来、二人で婚姻届を出した。
嵐のような行動力に呆気にとられていた私は我に返った途端、口から変な声が漏れた。

嬉しさでぞわぞわする。とうとう私達は夫婦になったのだ。夫婦に!在昌さんは私の旦那様なのだ。夫なのだ!
喜びが脳天を突く。耳から脳汁が溢れそうだった。

「真緒。真緒。戻っておいで」

恐らく白目を剥いていたであろう私の肩を叩きながら指を絡める。

「私達夫婦になったんですね」
「そうだね、奥さん。……じゃあ行こうか」
「へ?」

ぐいぐいと背中を押され、車に詰め込まれる。どこに行こうと言うのか。買い物?それにしては在昌さんは凄く嬉しそうで。何か違う気がする。
在昌さんに聞いても何も教えてくれない。口付けをされて誤魔化された。諦めた私は皮のシートに身を沈め、そのまま寝落ちてしまった。



******



「――まーお。真緒ちゃーん。起きて」
「んぅ……ん?あれ、私…」
「うん、すぅすぅ寝てたね」
「あぁぁ…す、すみません…!」

何て事だ。運転して貰って呑気に寝てしまうとは。申し訳無くて何度も謝罪すれば、ぽんぽんと頭を撫でてくれた。

「着いたよ、足下気を付けてね」
「は、はい…、あれ…海ですか」

窓から見える景色に驚く。まさか海に来ているとは思わなかった。結構距離がある筈だ。時計を見やれば少し昼を回ったところだ。二時間程眠っていた事になる。

驚いている私に、在昌さんが助手席のドアを開けてエスコートしてくれる。差し伸べられた手を取りながら、車から降りれば潮の匂いが鼻を擽った。

「わぁ…私、海って来た事無いんです。車から見た事はあるんですけど」

住んでいた町には海が無かった。社会人になって旅行やらドライブやらの趣味も無かった為、縁の無い風景だった。圧巻だ。

ざざぁ、と波の音が聞こえる。私の肩を抱いた在昌さんと並んで何も言わず唯々、海を見つめていた。

「…目的はここじゃないんだ。着いて来て」
「は、はい」

在昌さんに肩を抱かれたまま、導かれるまま足を進める。道中、たわいの無い会話を交わしながら歩けば目的地であろう場所に着く。

――着いて驚いた。海を見た時よりも驚いた。だって、目の前には寂れた教会が建っているのだから。

「え?え?」
「早く誰かに誓いたくて、ね」
「え?え?」

どういう事なの。在昌さんの言葉を読めば、結婚式って事?ちょっと待って。確かに結婚式を挙げる話はした。二人きりで。けれど話はまだ詰めていない。そもそも私、めちゃくちゃ私服なんだけど?在昌さんは仕事帰りだからスーツのままだけどさ!

「結婚式って訳じゃないよ。唯、俺の我が儘」
「我が儘、ですか」
「うん。婚姻届出して、夫婦になったけど…まだ足りないみたい」

そう言った在昌さんは私の手を離し、重厚で大きな扉を開け入っていく。私も倣って恐る恐る足を踏み入れれば、無人だった。無人教会ってあるのかな。私はキリスト教では無いから詳しい事は知らない。

「真緒、おいで」

在昌さんは講壇――牧師さんが立つ台の前に立ち、私へと手を差し伸べる。
在昌さんはステンドグラスから差し込んだ光に包まれ綺麗だった。何故か涙が溢れる。つぅ、と頬に涙が伝って床を濡らしながら私は一歩一歩在昌さんへと近付いた。

――そして手を取る。

「在昌さん…」
「真緒を永遠に愛す事をここに、誓うよ」
「――っ、私も、誓います」

視界が滲む。それは在昌さんも同じようで口付けを交わした際に触れた頬に一滴、ぽたりと落ちた。
長い、永い口付けだった。唯触れるだけのキス。誓う。在昌さんに、全ての存在に、未来永劫在昌さんだけを愛して、傍で生きていく事を。

「はは、ちょっと照れくさい、ね」
「でも嬉しいです」

涙が途切れ、視界がクリアになる。目の前には頬を赤く染めた在昌さんが私を見つめながら微笑んでいて。私だけに見せてくれる、私だけの在昌さんの表情に愛しさが募る。日に日に好きになっていく。日に日に焦がれていく。まるで限界が無いかのように、貪欲に。

「好きすぎてばかになっちゃいそう」
「俺はもう真緒ばかだよ」

心の中で思った事が口に出ていたようで、在昌さんがすかさず好きの上塗りをする。けれど、私だって負けていない。

「私は在昌さん大ばかあほですから」
「え、何ソレ」
「私の方が好きって事ですー」

自称ニヒルな笑みを見せてやれば、在昌さんも負けじとニヒルな笑みを返してくる。うわぁ、ニヒルな笑みも格好良すぎですよね。

「じゃあ俺は真緒厨同担拒否で」
「ちょっと、そんな言葉どこで覚えてきたんですか」
「え、真緒を知ろうとティーンズラブの転生モノを読んで」
「ンンンンン!!」

何だろう。対戦ゲームで暴言吐いてたら、息子が真似して取り返しが付かなくなった的な、この感情は…。

そもそもこんな格好良くて美しくて凄くて凄くてスパダリな在昌さんがキラキラした表紙の小説を読んでるシュールさ…。少し見てみたい。

「俺の方が真緒が好きって事で、帰ろうか」
「そこは譲りませんけどね!」

手を差し伸べる在昌さんの腕に絡みつきながら、再度どっちが好きか論争を繰り広げる。どんな夫婦だ。

「――誰よりも好きだよ」
「私もですよ。私だけの、在昌さん」

ああ、凄く幸せだ。きっと私は世界一幸せな存在だと思う。え、分けて欲しいって?駄目だよ。この幸せも、在昌さんも私だけのものなのだから。

ほら、見て。この晴れやかな空も、凪いでいる海も、かぁかぁ鳴いているカラスも私達を祝福してくれている。



――んんん!なんちゃって。流石に寒い。痛い。恥ずかしい。これは無しと言う事で。


「どうしたの真緒。一人で赤くなったり青くなったり黄色になったり」
「え、信号扱い?いや、確かに黄色人種ですけどね。…上手い事言いますね」



おわり。


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