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二人の未来は前途多難
優柔不断②
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数日後。
「なあ、今日は肉が食べたいなあ」
今昼休みが終わったところなのに、奏多から夕食のリクエスト。
「お肉ですか?」
珍しい。
最近疲れ気味であっさりした和食がいいって言われることが多かったのに。
「明後日には出張だし、パワーをつけないとな」
なるほど。プロジェクトの正念場だものね。
「もしかして、今日は早く帰れそうですか?」
「いや、遅い」
やっぱり。
じゃあ冷めても困らないものか、煮込み料理。
「そうだ、ビーフシチューを作りましょうか?」
それなら保温しながらじっくり煮込めるし、時間がたった方が美味しくなる。
「いいなあ、食べたい」
「じゃあ、作っておきます」
「ありがとう。でも、芽衣は先に寝ていていいからな」
「はい」
そうと決まれば、帰りに材料を買って帰ろう。
お肉は駅前のお肉屋さんで買って、野菜とルーはスーパーでいいか。
あと、パン屋さんで美味しいパンも買っておこう。シチューにはパンだものね
ついでに私の主食になりつつあるゼリーとヨーグルトも買わないと。
相変わらず食事が進まない私はフルーツとゼリーとヨーグルトに頼って生きている。
このままではいけないとわかっているんだけれど・・・
***
定時に会社を出て、買い物をし七時過ぎには帰ってきた。
帰ってきたら買い物を片付けて、今日は着替えもせずに夕食を作り始めた。
下準備をして煮込み始めればあとは保温調理器で煮込むだけ。
それだけやってから着替えて横になろうと頑張った。
最近特に疲れやすい私は一度横になるとなかなか起き上がれない。
それがわかっていて一気に作業を進めようとした。
一時間後。
「うん、いい味」
ルーは市販だけれど、隠し味のワインやスパイスで美味しく仕上がった。
これを煮込めば美味しいビーフシチューになるはず。
「はあー」
夕食を作り終えた安堵感で、私はソファーに倒れ込んだ。
着替える元気はないけれど、目の前には半分に切ったキウイとヨーグルトを並べ夕食の準備はした。
でも、食べる気力がない。というか眠い。
奏多が帰ってくるまであと三時間はある。
それまでに着替えて何かおなかに入れて、お風呂の準備を済ませれば問題ないだろう。
睡魔に襲われた頭の中で、そんなことを考えた。
***
「芽衣、しっかりしろ。芽衣」
三十分後に携帯のアラームが鳴るはずだったのに、起こされたのは奏多の声。
何度も名前を呼ばれ、体をゆすられ、私はやっと目を開けた。
「ごめん、寝ちゃったみたい」
時刻は午前一時。
三十分で起きるつもりが、すっかり眠ってしまった。
「お前、体調が悪いんじゃないか?」
「そんなことないよ」
平気だよと起き上がろうとして、眩暈がした。
「お、オイッ」
よろけそうになった私を奏多が駆け寄って支えてくれる。
「ごめん、大丈夫だから」
「どこがだよ。真っ青な顔して」
「それは、少し寝不足で」
「じゃあ早く寝ろ」
「うん」
そのつもりだったけれど、寝室までがもたなかった。
「着替えもできないくらい眠かったのか?」
「ぅん」
「熱は?」
「ない」
本当は少し微熱気味。
「夕食は食べたのか?」
「うん」
返事をしながら、チラッとテーブルの上を見てしまった。
「これは?」
「デザート・・」
「夕飯は何を食べた?」
「ビーフシチュー」
「まだ手つかずで鍋にあるぞ」
「じゃなくて、買ってきたパンを」
「開封されずにテーブルの上にあるが?」
「だから、それとは別においしそうなパンがあって・・・」
「芽衣、嘘はやめろ。俺にごみ箱をあさらせたいのか?それとも袋まで食べたって言うつもりか?」
「・・・」
奏多にはわかっているんだ。
ってことは、これ以上言っても無駄。
私は嘘をつくのをやめた。
「ほら、少しでも食べろ」
奏多がビーフシチューとパンをテーブルに並べてくれた。
「ありがとう」
とは言ったけれど、とても喉を通りそうにない。
「どうした?」
スプーンを持ったまま動かない私に、奏多の怪訝そうな顔。
「ごめん。冷蔵庫のゼリーを食べたい」
「は?ゼリーが夕食なのか?」
「ぅん」
だって、さっきからビーフシチューの臭いで吐きそうなのに。
「なあ芽衣。はっきり言ってくれ。どこが悪いんだ?」
「どこも・・・」
「じゃあ、今朝から食べたものを全部言って見ろ」
「それは・・・」
朝キウイを半分食べた。
お昼は頑張っておにぎりを一個食べたけれど、結局戻してしまった。
さすがにそれではまずいと。三時に一口サイズのゼリーを二個ほど食べた。
って、言えるわけないじゃない。
「もういい。お前が言わないんなら医者に聞くだけだ。病院へ行くぞ。支度しろ」
「はあ?何をバカなことを。今何時だと思っているのよ」
「大丈夫だ。うちのホームドクターが診てくれる」
「バ、バカなこと言わないでっ」
体力なんて残っていないのに、絶叫してしまった。
叫んだ反動で、私はソファーに倒れ込んだ。
「大丈夫か、芽衣」
「うん、平気。お願い今夜はこのまま眠らせて」
眠れば体力は回復するはずだから。
「わかった。じゃあ明日の朝一で病院へ行こう」
「だから、明後日から奏多はシンガポール出張なのよ。明日は明日で予定がぎっしりなのに、どこにそんな時間があるのよ」
「それでも、こんな状態の芽衣をそのままにはできない」
困ったな、このままじゃシンガポールに行かないって言いだしそう。
「ねえ奏多、聞いて。この体調不良はきっとストレスだと思うの」
「ストレス?」
「うん」
「それって、今の仕事や俺との暮らしがストレスだってことか?」
「違う。そうじゃない。奏多と暮らしたいのは私の意志。でも、環境が変わることへの戸惑いはあるのよ。それに、蓮斗からのメールや電話もいまだに続いているし」
「は?何だよそれ。なんで俺に言わない」
「それは・・・」
奏多にこれ以上迷惑をかけたくなかったって言えば、絶対に怒るよね。
「私もこのままにするつもりはないのよ。最近食べれてないのは自覚しているし、治らないようなら週明けにでも病院へ行くつもりだったの」
「本当に?」
「うん」
これは嘘じゃない。
無事奏多をシンガポールに送り出してから、受診するつもりだった。
蓮斗とももう一度話をするつもりだし。
「わかった。今夜はもう寝ろ。話は明日だ」
「うん」
私ももう限界。今にも瞼が落ちそうだもの。
あんなに怒っていたくせに、奏多は優しく私を抱きあげて寝室へと運んでくれた。
「なあ、今日は肉が食べたいなあ」
今昼休みが終わったところなのに、奏多から夕食のリクエスト。
「お肉ですか?」
珍しい。
最近疲れ気味であっさりした和食がいいって言われることが多かったのに。
「明後日には出張だし、パワーをつけないとな」
なるほど。プロジェクトの正念場だものね。
「もしかして、今日は早く帰れそうですか?」
「いや、遅い」
やっぱり。
じゃあ冷めても困らないものか、煮込み料理。
「そうだ、ビーフシチューを作りましょうか?」
それなら保温しながらじっくり煮込めるし、時間がたった方が美味しくなる。
「いいなあ、食べたい」
「じゃあ、作っておきます」
「ありがとう。でも、芽衣は先に寝ていていいからな」
「はい」
そうと決まれば、帰りに材料を買って帰ろう。
お肉は駅前のお肉屋さんで買って、野菜とルーはスーパーでいいか。
あと、パン屋さんで美味しいパンも買っておこう。シチューにはパンだものね
ついでに私の主食になりつつあるゼリーとヨーグルトも買わないと。
相変わらず食事が進まない私はフルーツとゼリーとヨーグルトに頼って生きている。
このままではいけないとわかっているんだけれど・・・
***
定時に会社を出て、買い物をし七時過ぎには帰ってきた。
帰ってきたら買い物を片付けて、今日は着替えもせずに夕食を作り始めた。
下準備をして煮込み始めればあとは保温調理器で煮込むだけ。
それだけやってから着替えて横になろうと頑張った。
最近特に疲れやすい私は一度横になるとなかなか起き上がれない。
それがわかっていて一気に作業を進めようとした。
一時間後。
「うん、いい味」
ルーは市販だけれど、隠し味のワインやスパイスで美味しく仕上がった。
これを煮込めば美味しいビーフシチューになるはず。
「はあー」
夕食を作り終えた安堵感で、私はソファーに倒れ込んだ。
着替える元気はないけれど、目の前には半分に切ったキウイとヨーグルトを並べ夕食の準備はした。
でも、食べる気力がない。というか眠い。
奏多が帰ってくるまであと三時間はある。
それまでに着替えて何かおなかに入れて、お風呂の準備を済ませれば問題ないだろう。
睡魔に襲われた頭の中で、そんなことを考えた。
***
「芽衣、しっかりしろ。芽衣」
三十分後に携帯のアラームが鳴るはずだったのに、起こされたのは奏多の声。
何度も名前を呼ばれ、体をゆすられ、私はやっと目を開けた。
「ごめん、寝ちゃったみたい」
時刻は午前一時。
三十分で起きるつもりが、すっかり眠ってしまった。
「お前、体調が悪いんじゃないか?」
「そんなことないよ」
平気だよと起き上がろうとして、眩暈がした。
「お、オイッ」
よろけそうになった私を奏多が駆け寄って支えてくれる。
「ごめん、大丈夫だから」
「どこがだよ。真っ青な顔して」
「それは、少し寝不足で」
「じゃあ早く寝ろ」
「うん」
そのつもりだったけれど、寝室までがもたなかった。
「着替えもできないくらい眠かったのか?」
「ぅん」
「熱は?」
「ない」
本当は少し微熱気味。
「夕食は食べたのか?」
「うん」
返事をしながら、チラッとテーブルの上を見てしまった。
「これは?」
「デザート・・」
「夕飯は何を食べた?」
「ビーフシチュー」
「まだ手つかずで鍋にあるぞ」
「じゃなくて、買ってきたパンを」
「開封されずにテーブルの上にあるが?」
「だから、それとは別においしそうなパンがあって・・・」
「芽衣、嘘はやめろ。俺にごみ箱をあさらせたいのか?それとも袋まで食べたって言うつもりか?」
「・・・」
奏多にはわかっているんだ。
ってことは、これ以上言っても無駄。
私は嘘をつくのをやめた。
「ほら、少しでも食べろ」
奏多がビーフシチューとパンをテーブルに並べてくれた。
「ありがとう」
とは言ったけれど、とても喉を通りそうにない。
「どうした?」
スプーンを持ったまま動かない私に、奏多の怪訝そうな顔。
「ごめん。冷蔵庫のゼリーを食べたい」
「は?ゼリーが夕食なのか?」
「ぅん」
だって、さっきからビーフシチューの臭いで吐きそうなのに。
「なあ芽衣。はっきり言ってくれ。どこが悪いんだ?」
「どこも・・・」
「じゃあ、今朝から食べたものを全部言って見ろ」
「それは・・・」
朝キウイを半分食べた。
お昼は頑張っておにぎりを一個食べたけれど、結局戻してしまった。
さすがにそれではまずいと。三時に一口サイズのゼリーを二個ほど食べた。
って、言えるわけないじゃない。
「もういい。お前が言わないんなら医者に聞くだけだ。病院へ行くぞ。支度しろ」
「はあ?何をバカなことを。今何時だと思っているのよ」
「大丈夫だ。うちのホームドクターが診てくれる」
「バ、バカなこと言わないでっ」
体力なんて残っていないのに、絶叫してしまった。
叫んだ反動で、私はソファーに倒れ込んだ。
「大丈夫か、芽衣」
「うん、平気。お願い今夜はこのまま眠らせて」
眠れば体力は回復するはずだから。
「わかった。じゃあ明日の朝一で病院へ行こう」
「だから、明後日から奏多はシンガポール出張なのよ。明日は明日で予定がぎっしりなのに、どこにそんな時間があるのよ」
「それでも、こんな状態の芽衣をそのままにはできない」
困ったな、このままじゃシンガポールに行かないって言いだしそう。
「ねえ奏多、聞いて。この体調不良はきっとストレスだと思うの」
「ストレス?」
「うん」
「それって、今の仕事や俺との暮らしがストレスだってことか?」
「違う。そうじゃない。奏多と暮らしたいのは私の意志。でも、環境が変わることへの戸惑いはあるのよ。それに、蓮斗からのメールや電話もいまだに続いているし」
「は?何だよそれ。なんで俺に言わない」
「それは・・・」
奏多にこれ以上迷惑をかけたくなかったって言えば、絶対に怒るよね。
「私もこのままにするつもりはないのよ。最近食べれてないのは自覚しているし、治らないようなら週明けにでも病院へ行くつもりだったの」
「本当に?」
「うん」
これは嘘じゃない。
無事奏多をシンガポールに送り出してから、受診するつもりだった。
蓮斗とももう一度話をするつもりだし。
「わかった。今夜はもう寝ろ。話は明日だ」
「うん」
私ももう限界。今にも瞼が落ちそうだもの。
あんなに怒っていたくせに、奏多は優しく私を抱きあげて寝室へと運んでくれた。
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