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第4連
第四連・起句 修身斉家治国平天下(2)
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第四連・起句 修身斉家治国平天下
View point of淮天衣
そして私とハクと名乗った少年だけが残された。
「さて、ここからは本当の話をしよう。建前はなし、プライドも棚上げしよう」
そう少年は私に笑いかける。つまり、彼は建前を捨てて本音で語るから、私も異民族や文化の違いを意識するなと言いたいのだろうか。東夷の分際で、っとも思う。それでも、ここは話を進めねばならない。時には正道のために臥薪嘗胆耐えねばならない時もあるだろう。かつて宋の真宗が、屈辱の平和を金で買ったときのように。
「うーん、硬い。硬いよ。そんなに構えないで。
そうだね、とりあえず一つ聞いておこうかな。
君は一連のことが解決したらここに来るのをやめればいいと思っているね」
たしかに、彼の言った言葉は核心を突いている。化外の民との口約束などどうにでもなると思っていなかったといえば嘘になる。形だけ真似して一度たりとも核心を理解しなかった倭人など交渉相手にすらならないと。そう思わない理由がどこにあるだろうか。
「そうね。確かに。でも、そう考えていたとしたらどうなのかしら?」
「うん、だからボクはその高慢ちきなプライドを棚上げしてくれといったんだよ?
君たちが最も太古の文明の継承者にして、華ひらく文化の中心であり続けたことは尊重するよ。でも、だからといって他の文明を見下していい理由にはならないんじゃないかってことだ。実際に200年前にその高慢ちきの代償をキミタチは払ったし、それ以前も幾度と無く征服王朝に対して払われ続けてきただろう。
それでもキミタチが偉大だったのは常に高慢なだけでなく、時に現実的な選択肢もとれたからだ。例えば康煕帝とかね。孫文も毛沢東だってそうだ。
ボクもそれを期待したい、もちろんキミは現代の王昭君でもなければ囚われた張騫でもない。ボクタチはキミを将来の孫文や周恩来、徳を知ってなお尊重し合える交渉相手にしたいんだ。だから、ボクが君に指示するとしたらそれは君の思考情報を拉致して交渉の手札にするよりも、今後もトウキョウに遊びに来続けて欲しい。『朋在り遠方より来たり、亦愉しからずや』ってやつだね。
君が僕達の文化を学ぶ、僕達は君を通じて君達を学ぶ。そして10年後、君が大成すれば、それは日本の国益だろう。僕達のことを理解し得る相手がいるんだから」
彼の言葉は信じるに値するだろうか?いくら外交官とはいえ、私達の歴史と文化に詳しすぎて違和感を拭い去れない。
「ずいぶん詳しいのね」
「言ったろ?キミタチはまさに文化の中心で在り続けた。ボクタチは学び続けた。ボクタチが歴史のすべてを通じてこんなに熱心にキミタチを学ぼうとしてきたのに、キミタチは一体どれだけボクタチのことを見てくれた?そしてボクタチもまたキミタチを歴史の一部としてしか見てこなかった。そこに双方の誤解があると思うんだよね。だから、ボクはキミに日本を学んで欲しいし、ボクタチもキミを通じて血肉の通った人間として中国を見ることが出来る」
「あなたの言いたいことは分かったわ。永劫調和の約定に従って私はトウキョウに毎月通い続けることを誓うわ。これでいいかしら?」
「うん、ありがとう」
そう言って少年は破顔した。真っ赤な頬が更に高揚する。
「じゃぁ、具体的な話をしようか。おそらく、ボクたちはキミの友達を助けられると思う。でもボクタチは疑われたくない。これはわかってもらえるよね?」
「ええ、もちろん」
「じゃあ当局の操作を撹乱させるため、同時にそれ以上に大規模なクラッキングの必要性も理解してもらえるね?」
「え!?それってどういうことかしら」
惚けたように問い返す私に少年が笑いながら言う。
「ほら、例えば、ボクタチが密かにクラッキングしてキミの友人をトウキョウに送るように命令を書き換えるとするじゃん。まぁ、それでばれなければいいんだけど、キミは終わった後でバラすつもりだろ?」
「え!?なんで私が密かに行われるべき作業を明らかにすると思ったのかしら」
たしかに、彼の言う通り、楚歌の救出が済んだ後は、この件を北京閥の追求材料に使おうと考えていた。それが私の中での個人の道義と報国を両立させる最善策。仁義といえども、夷狄に助けを求めるのは許されざるものだけれども、天下国家のためならばそれも時に致し方ないと正当化されるだろう。かつて唐の玄宗が国家の危機にウイグル人を引き入れたように。
「うーん、勘なんだけどね。キミはあの四人の中で一番プライドと愛国心が高いとおもうんだ。それが友達一人のために国家を犠牲にするってのは考えづらい、つまり他に狙いがあるんだと思ったかな。たとえば北京閥の追い上げに使うとかね」
どきっとした、こんな子供に見えて、一体どこまで狡猾なのだろうか。私に彼と交渉できる能力があるだろうか。とにかく弱気はいけない。面従腹背、いずれ越えられる。今はただこの交渉を終わらせねば。
「じゃぁ、このことを秘密にし続けろというのかしら」
「ううん、違うよ。こっちとしては露見するリスクは最小限にしたいから、日本もまた不利益を被るような形で大規模なクラッキングを行い、防護されていない簡単な命令の書き換えの価値を相対的に落としてしまおうかなってね。そうすればキミはそっちを使えばいいし、ボクタチは最小限のリスクで事を運べる。まぁ、ちょっとした苦肉計だね」
「でも、そんな大規模なテロ行為をしたら真っ先にあなた達が疑われるんじゃないかしら?」
「君達は内外に一体どれだけの敵がいると思ってるんだい?外にアメリカ・インド・カリフ帝国、内にウイグル・ベトナム・モンゴル・チベット・ほかたくさんたくさんだよ。大丈夫北京経由の外国からのクラッキングに見せかけるから。それにボクタチ自身もまた犠牲者であるならばまず疑われないよ。
まぁ、詳しいプランは追って連絡するけれど、キミタチに制御可能な範囲でかつ上海閥に利用できる形にするよ。保証する」
そう言った少年の目はもはや表情とは裏腹に笑ってはいなかった。これに加担すれば売国奴、だが北京閥を追い落とす絶好の機会でもある。父の苦境を思えば、このような形であれ孝行できるのは悪くないとすら思える。
「攻撃目標はこちらで選ばせてもらえるかしら?国防に係る場所はなしよ」
「おっけー、おっけー。対象はできるだけ君達が普段いる上海のサイバー空間だと面白いよ?」
「え、それって」
「まぁ、一時間ぐらい待ってよ。細かいプランを送るから」
そう言って少年は店を出ていった。私は妙に心もとなさを覚え、自分が小さな存在のように感じた。畢竟、あの小さな少年の手のひらで踊る私は釈迦の手のひらの上の孫悟空の様なものだ。無性に泣きたくなって目頭を押さえた。これから皆を指導する私が泣いては示しがつかない。
数時間後、私は父の書斎の扉の前にいた。皺一つない学校の制服、いつもの朱塗りの眼鏡。緊張に高まる動機を深呼吸して抑える。これから起こることもどうということではないのだ。
朱塗りの木の重い扉を叩いて声をかける。
「お父様、天衣で御座います」
「入れ」
重々しいいつもの声がする。
扉を開けて入ると、重厚な朱塗りの樫の机に向かっているいつもの父がいる。
「私に何か用かね」
父が堂々たる声で言う。私の心が若干竦む。怯えることはない。後ろ暗いこともない私は、まさに自分のなすべき正義をなそうとしているだけなのだから。
「父上、お願いがございます」
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そして私とハクと名乗った少年だけが残された。
「さて、ここからは本当の話をしよう。建前はなし、プライドも棚上げしよう」
そう少年は私に笑いかける。つまり、彼は建前を捨てて本音で語るから、私も異民族や文化の違いを意識するなと言いたいのだろうか。東夷の分際で、っとも思う。それでも、ここは話を進めねばならない。時には正道のために臥薪嘗胆耐えねばならない時もあるだろう。かつて宋の真宗が、屈辱の平和を金で買ったときのように。
「うーん、硬い。硬いよ。そんなに構えないで。
そうだね、とりあえず一つ聞いておこうかな。
君は一連のことが解決したらここに来るのをやめればいいと思っているね」
たしかに、彼の言った言葉は核心を突いている。化外の民との口約束などどうにでもなると思っていなかったといえば嘘になる。形だけ真似して一度たりとも核心を理解しなかった倭人など交渉相手にすらならないと。そう思わない理由がどこにあるだろうか。
「そうね。確かに。でも、そう考えていたとしたらどうなのかしら?」
「うん、だからボクはその高慢ちきなプライドを棚上げしてくれといったんだよ?
君たちが最も太古の文明の継承者にして、華ひらく文化の中心であり続けたことは尊重するよ。でも、だからといって他の文明を見下していい理由にはならないんじゃないかってことだ。実際に200年前にその高慢ちきの代償をキミタチは払ったし、それ以前も幾度と無く征服王朝に対して払われ続けてきただろう。
それでもキミタチが偉大だったのは常に高慢なだけでなく、時に現実的な選択肢もとれたからだ。例えば康煕帝とかね。孫文も毛沢東だってそうだ。
ボクもそれを期待したい、もちろんキミは現代の王昭君でもなければ囚われた張騫でもない。ボクタチはキミを将来の孫文や周恩来、徳を知ってなお尊重し合える交渉相手にしたいんだ。だから、ボクが君に指示するとしたらそれは君の思考情報を拉致して交渉の手札にするよりも、今後もトウキョウに遊びに来続けて欲しい。『朋在り遠方より来たり、亦愉しからずや』ってやつだね。
君が僕達の文化を学ぶ、僕達は君を通じて君達を学ぶ。そして10年後、君が大成すれば、それは日本の国益だろう。僕達のことを理解し得る相手がいるんだから」
彼の言葉は信じるに値するだろうか?いくら外交官とはいえ、私達の歴史と文化に詳しすぎて違和感を拭い去れない。
「ずいぶん詳しいのね」
「言ったろ?キミタチはまさに文化の中心で在り続けた。ボクタチは学び続けた。ボクタチが歴史のすべてを通じてこんなに熱心にキミタチを学ぼうとしてきたのに、キミタチは一体どれだけボクタチのことを見てくれた?そしてボクタチもまたキミタチを歴史の一部としてしか見てこなかった。そこに双方の誤解があると思うんだよね。だから、ボクはキミに日本を学んで欲しいし、ボクタチもキミを通じて血肉の通った人間として中国を見ることが出来る」
「あなたの言いたいことは分かったわ。永劫調和の約定に従って私はトウキョウに毎月通い続けることを誓うわ。これでいいかしら?」
「うん、ありがとう」
そう言って少年は破顔した。真っ赤な頬が更に高揚する。
「じゃぁ、具体的な話をしようか。おそらく、ボクたちはキミの友達を助けられると思う。でもボクタチは疑われたくない。これはわかってもらえるよね?」
「ええ、もちろん」
「じゃあ当局の操作を撹乱させるため、同時にそれ以上に大規模なクラッキングの必要性も理解してもらえるね?」
「え!?それってどういうことかしら」
惚けたように問い返す私に少年が笑いながら言う。
「ほら、例えば、ボクタチが密かにクラッキングしてキミの友人をトウキョウに送るように命令を書き換えるとするじゃん。まぁ、それでばれなければいいんだけど、キミは終わった後でバラすつもりだろ?」
「え!?なんで私が密かに行われるべき作業を明らかにすると思ったのかしら」
たしかに、彼の言う通り、楚歌の救出が済んだ後は、この件を北京閥の追求材料に使おうと考えていた。それが私の中での個人の道義と報国を両立させる最善策。仁義といえども、夷狄に助けを求めるのは許されざるものだけれども、天下国家のためならばそれも時に致し方ないと正当化されるだろう。かつて唐の玄宗が国家の危機にウイグル人を引き入れたように。
「うーん、勘なんだけどね。キミはあの四人の中で一番プライドと愛国心が高いとおもうんだ。それが友達一人のために国家を犠牲にするってのは考えづらい、つまり他に狙いがあるんだと思ったかな。たとえば北京閥の追い上げに使うとかね」
どきっとした、こんな子供に見えて、一体どこまで狡猾なのだろうか。私に彼と交渉できる能力があるだろうか。とにかく弱気はいけない。面従腹背、いずれ越えられる。今はただこの交渉を終わらせねば。
「じゃぁ、このことを秘密にし続けろというのかしら」
「ううん、違うよ。こっちとしては露見するリスクは最小限にしたいから、日本もまた不利益を被るような形で大規模なクラッキングを行い、防護されていない簡単な命令の書き換えの価値を相対的に落としてしまおうかなってね。そうすればキミはそっちを使えばいいし、ボクタチは最小限のリスクで事を運べる。まぁ、ちょっとした苦肉計だね」
「でも、そんな大規模なテロ行為をしたら真っ先にあなた達が疑われるんじゃないかしら?」
「君達は内外に一体どれだけの敵がいると思ってるんだい?外にアメリカ・インド・カリフ帝国、内にウイグル・ベトナム・モンゴル・チベット・ほかたくさんたくさんだよ。大丈夫北京経由の外国からのクラッキングに見せかけるから。それにボクタチ自身もまた犠牲者であるならばまず疑われないよ。
まぁ、詳しいプランは追って連絡するけれど、キミタチに制御可能な範囲でかつ上海閥に利用できる形にするよ。保証する」
そう言った少年の目はもはや表情とは裏腹に笑ってはいなかった。これに加担すれば売国奴、だが北京閥を追い落とす絶好の機会でもある。父の苦境を思えば、このような形であれ孝行できるのは悪くないとすら思える。
「攻撃目標はこちらで選ばせてもらえるかしら?国防に係る場所はなしよ」
「おっけー、おっけー。対象はできるだけ君達が普段いる上海のサイバー空間だと面白いよ?」
「え、それって」
「まぁ、一時間ぐらい待ってよ。細かいプランを送るから」
そう言って少年は店を出ていった。私は妙に心もとなさを覚え、自分が小さな存在のように感じた。畢竟、あの小さな少年の手のひらで踊る私は釈迦の手のひらの上の孫悟空の様なものだ。無性に泣きたくなって目頭を押さえた。これから皆を指導する私が泣いては示しがつかない。
数時間後、私は父の書斎の扉の前にいた。皺一つない学校の制服、いつもの朱塗りの眼鏡。緊張に高まる動機を深呼吸して抑える。これから起こることもどうということではないのだ。
朱塗りの木の重い扉を叩いて声をかける。
「お父様、天衣で御座います」
「入れ」
重々しいいつもの声がする。
扉を開けて入ると、重厚な朱塗りの樫の机に向かっているいつもの父がいる。
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