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番外編・すいーと・ぱにっく

第一話

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「えっ、売り切れ?」
「はい、申し訳ありません……」

 ネモとあっくんは、あれから二日後に小さめの町へ辿り着いた。
 その日は宿をとって早々に就寝し、翌日に蜂蜜を買うため町へくり出した。
 蜂蜜は、大体は大きめの食品を扱う商店で売られており、ネモ達はそこへ向かった。しかし、目的の物は商品棚には並んでおらず、店員を呼んで聞いてみれば売り切れという非情な答えを貰った。

「珍しいわね。蜂蜜ってちょっと高いじゃない? 普通はいくらか残っているものだけど……」
「はい。普段はそうなんですが、近々スイーツのコンテストがあるので、甘味類が売り切れることがありまして……」

 他にもフルーツのシロップ漬けや、少し珍しい種類の砂糖が売れたりしているらしい。

「コンテストがあるからって売り切れるものかしら?」
「一般参加も認められている大規模なものなので」

 あー、それは無くなるわね、とネモが納得して頷くなか、その肩の上であっくんが大ショックを受けていた。
 
「あっくん、これは仕方ないわよ。次の町まで我慢しよう? ね?」
「きゅぅ~」
「申し訳ありません」

 あっくんは力なくネモの肩で、でれん、と垂れた。
 それにネモは苦笑し、店員も申し訳なさそうに頭を下げた。
 しかしその後、あっくんはしゃっきりと復活することになる。
それは冒険者ギルドである依頼を見つけたことから端を発した。



   ***



 冒険者ギルドには多種多様な人々が集まる。
 まずは、冒険者。彼等は依頼が貼り出してある掲示板をチェックし、受ける依頼をそこから剥がして受付で手続きをする。
 そして、依頼人。
 彼等は一般市民から、果ては王族まで様々だ。
 その依頼内容は子供のお使い程度のものから、幻ともいえるような品の採取依頼まで、難易度も依頼料も多岐にわたる。
 そうした人々が混雑して集まる冒険者ギルドに、ネモとあっくんは居た。

「お金は稼げるうちに稼いでおかないとね~」
「きゅ~」

 あっくんは蜂蜜が買えなかったせいで、やる気が削がれているようだ。

「ほら、あっくん。お金が無いと蜂蜜は買えないのよ? ここで稼いでおいて、次の町でいつもより多めに買いましょう?」
「きゅい……」

 ネモのもっともな言葉に、あっくんは一応の納得を見せて頷いた。
 そして掲示板で良い依頼を探していると、ネモがある依頼を見つけた。

「んん? レッドビーの蜂蜜採取依頼?」
「きゅっ⁉」

 蜂蜜の単語に、萎れていたあっくんの耳がピンと立つ。

「ふ~ん、この近くの森ってレッドビーが生息してるのね。コンテストのスイーツづくりに使うのかしらね?」
「きゅっ! きゅきゃっ!」

 ネモの髪を軽く引っ張って、これを受けようよ! とあっくんは騒いだ。

「受けても良いけど、依頼分以上の蜂蜜がないと自分達用には出来ないわよ? 良いのね?」
「きゅいっ!」

 レッドビーは蜂の黄色い部分が赤い色をしている虫型の魔物だ。大きさが五センチくらいあり、蜂と同じように巣をつくり、群れる。
 お尻の針には毒があるが、即死性の毒ではない。また、アナフィラキシーショックの心配もなく、張れや痛み、痺れがあるくらいで、それは調薬にて麻酔薬の原料として使われることもある。
 ただ、数が多く、大きさもそれなりのものなので、退治するには面倒であり、蜂蜜採取もある手法を使わなければならない。

「これ、面倒な依頼だから、あっくんにはバンバン手伝ってもらうからね」
「きゅっきゅ~いっ!」

 ネモの言葉に、あっくんは弾んだ声で頷いた。



   ***



 ネモとあっくんはレッドビー対策と、蜂蜜採取の準備をして森へ入る。
 レッドビーは主に春から秋にかけて活動し、冬は身を寄せ合って越冬する魔物だ。習性は蜜蜂に近いが、やはり魔物であるため、人を襲い、食べることもある。また、春から夏にかけて数が多くなりやすく、稀にとんでもない規模の巣がみつかるため注意が必要だ。例えば、何かしらのイベントのために、数日森に入る人間が減っただけで、六メートル級の巣が見つかった例もあるのだから……。

「では、あっくん。レッドビーを見つける前に、もう一度確認します」
「きゅいっ!」

 のんびり森を歩きながら、ネモは生徒に対する教師の如き口調で、あっ君に話しかける。

「レッドビーは群れで行動する蜂型の魔物です。虫の蜂と違うのは、女王蜂と働き蜂の他に、隊長蜂という指揮系統を担う蜂が居ることです」
「きゅっ!」
「万が一戦うようなことになった場合、隊長蜂を優先的に倒しましょう。指揮系統が混乱するため、働き蜂は撤退を選択するからです」
「きゅあ~」

 そうなのかぁ、とあっくんが頷く。

「それから、今回のレッドビーの蜂蜜を取るには、レッドビーを巣から追い出さなくてはなりません」
「きゅっきゅ!」
「では、どうやって巣から追い出せばいいか? それは、レッドビーの習性を利用します」
「きゅーい!」

 レッドビーを巣から追い出すには、養蜂で蜜蜂を巣から追い払う時と同じように、煙で燻すのだ。
 レッドビーは火を恐れるため、煙を感知すれば火事と勘違いし、早々に巣を放棄して逃げてしまうのだ。その潔さは、蜜蜂より上だ。

「ただし、それが出来ない場合もあります。それは、巣が大きすぎる場合です」
「きゅい?」

 あっくんが不思議そうな声を上げた。ネモはそれに対して軽く肩を竦める。

「巣が大きすぎると煙が行きわたらないの。昔発見された六メートル級くらいになると、とてもじゃないけど蜂蜜採取とか言ってられなかったみたい。魔法で焼き払われたんですって」
「きゅあ~」

 あっくんは、もったいな~い、とでも言うような顔をしていたが、人間からすれば一大事だ。アナフィラキシーショックは無いとはいえ、刺されれば痛いし、痺れるのだ。集団で襲われ、何か所も刺されて痺れて動けなくなったところを別の魔物に襲われでもしたら一巻の終わりだ。――いや、そもそもこのレッドビーも滅多にないとはいえ、人間を食べることもある魔物なのだ。油断は禁物だろう。
 

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